ノンの家
数分歩くとノンの家に到着した。
途中で、久しぶりに帰って来たノンに話しかける村人が十数人いた。
隆二のノンに対するぼっち疑惑はここで打ち砕かれたのである。
ぼっちどころかすれ違う村人全員がノンに話しかけられるため、隆二はノンの人気ぶりに驚いていた。
「ここがお前ん家か」
「むぅー」
「質問に答えろ。何拗ねてんだ?」
「べつにー」
ノンが拗ねている理由は隆二にある。厳密に言えば隆二に対する村人の、特に少女たちの反応に対してだ。
隆二は自覚していないが、彼は世間一般で言うとイケメンの分類に入る。
そうすると必然的に、ノンに話かかけた少女の視線はノンの隣にいる隆二に向いてしまうのだ。
ノンはそれがとことん気に食わない。
ノンは隆二と知り合って数日しか経っていないが、助けられもしたし自分の世話もしてもらった。ノンにとって隆二はお兄ちゃんみたいなもの、と言いたいところだが他の気持ちもあるのも事実である。
拗ねている理由を自分がイケメンであることがわかっていない隆二に話しても意味がないので、ノンは言わなかった。
「さあ。行きますよー。あ、親とかお姉ちゃんは普通なので安心してくださいね」
「どこをどう安心しろと?」
「何か最近変な人に絡まれてばかりなんでしょう?」
ノンが把握しているのは、どこぞの肉体再生を持っている男だったり、狼になる男だけだが、他にも語尾がおかしい情報屋やら世界樹やらと隆二の生活をイレギュラーというか変な存在が脅かしている。
そこから考えると普通の人というのは、喜ぶべきだろう。
まあイレギュラーと言えば、異世界に転生している時点でイレギュラーなのだが。
「ただいまー!ノンです。帰って来ました!」
ノンの声に反応する者はいなかった。いや。反応はあった。友達が遊びに来たときに急いで玄関に迎えにいくときに出るようなドタバタという音が。
ドタドタ…と、世話しなく動いている音が数秒響いたその時。
「ノンか!?ノンなのか!?」
ノンに似た黒色で短髪の男性が出てきた。
「おお…!久しぶりだなあ!」
「お父さん!」
お父さんと呼ばれた男性は、そんなにノンが帰って来たのが嬉しかったのか目を手で覆って泣いている。
そこでもう1人、ノンを出迎える者がいた。
「お帰り、ノン」
「お母さん…!」
これまた黒髪でロングの女性がニコリと微笑んだ。
久しぶりの家族再会、というのを眺めながらこういう感動的な場面が苦手な隆二は、現実逃避気味に全く別のことを考えていた。
(ノンってどっち似なんだろう。目元の付近はお父さんに似てそうだし、口付近はお母さん似なんだような。五分五分ってとこかな。んー……)
「あ、忘れてました。お父さん、お母さん。この人がお姉ちゃんの状態異常を治せる物を持っている人です」
「え?あ、えっと…リュウジです。今はノンに協力しているので一緒に行動しています」
話を聞いていなかった&突然話しかけられた、という2重攻撃によって一瞬困惑状態になった隆二だが、自己紹介を促されているようだったので取りあえず自己紹介をした。
お父さんは隆二を訝しげに見たが、やがて、
「関係のない方は巻き込みたくないのですが。しかし、そう悠長なことは言えない状況なのも事実です。どうぞ入ってください」
「は、はい」
(何だ何だ?さっきとは見違えるほどシリアス感が漂ってきたんだが……。え?こんな感じで進行していくの?)
感動的な場面とシリアス的な場面が苦手なのは、人としては薄情な方だろう。
やや、これからの展開に怯えながら隆二は家へ入った。




