生きて行ける可能性
1階は素通りして2階に通された隆二は、ノンのお父さんが停止した部屋の前で同じく停止する。
「ここです。状態異常が発動中ですが普段の生活に支障はありません」
別に隆二から敬語で喋れとは言っていないのだが、ノンのお父さんの口調は堅い。
隆二に目配せをし、お父さんは部屋のドアを開けた。
「父さんだ。お前に来客だぞ、ユリ」
ユリと呼ばれた少女は、部屋を開けた時は窓の外を眺めていた。
隆二には少女が、今にも消えてなくなりそうな儚さを感じた。
日光の当たり具合でそう感じているのかもしれない。
「あら、来客ってあなたのことだったの?久しぶりね、ノン」
「ただいま。お姉ちゃんの来客は私ではないです。隣にいるこの人ですよ」
ノンの指先を追うようにユリの目が隆二を捉えた。
「リュウジです。ノンと今は行動しています」
「そんなに堅くならなくてもいいわ。私のことは呼び捨てでいいわ、リュウジ?」
「お、おう」
ユリのコミュニケーション能力に驚く隆二。
ああいうことは言いたいけど恥ずかしくて言えない、というのが大体の人の気持ちである。
それを息をするように言っている時点で彼女のコミュニケーション能力は隆二とは雲泥の差である。
と、ここでノンが会話に割り込んできた。本題を切り出すならノンからがいいだろう。
「それより今回は朗報ですよ、お姉ちゃん!リュウジさんがなんと!」
「なんと?」
はしゃいでいるノンを優しい目つきで見ているユリは姉、という風貌を醸し出している。
「なんと!リュウジさんが最上級回復ポーションを持っているんです!」
ユリは目を見開いた。先ほどの優しい眼差しとは打って変わって、大きく目が開かれる。
「……そのポーションはどこで手に入れたの?」
「俺?まあ、高レベルのモンスターを討伐したらドロップしたんだよ」
「最上級回復ポーションの希少さは知ってるわ。王族でも持っているか持っていないか、くらいの。……そんなものを私に…使って……本当にいいの?」
その時、隆二は見た。
ユリの縋るような目を。
王族が喉から手が出るほど欲しがっているほどの高価な物を、自分なんかが使用してもいいのかという罪悪感があるのかもしれない。
それは誰だって、自分が持っていることさえおかしいほどの物を使おうとは思わないだろう。
それでも。
ユリはまだ生きたいということが、隆二にはわかった。
今までもノンや両親から状態異常を治せそうな案が、ユリによく紹介されていたのだろう。
それが全て駄目だった後の絶望は本人しかわからないだろう。
そして、辿り着いた最後の希望が最上級ポーションだったということだ。
隆二は元々そこまで他人に優しい人物ではなかった。いや。本当は優しいけど、その優しさを与える者がいなかっただけかもしれない。
(あー。なんつうか……。『この世界』に来て、キャラが変わっちまったな)
微笑みながら、隆二は言った。
「使っていい。アンタに使って貰うためにここまで来た。アンタが使ってくれなきゃ意味がねえ」
それに、と隆二は付け足しながらノンの肩を持ち、引き寄せた。
「わわっ!」
「コイツも頑張ってたしな。使っていいよ。俺はいっぱい持ってるし」
お父さんもお母さんも隆二の背後で驚いたのがわかった。
目に涙を溜めながらユリは言った。
「本当に……!本当にっ!ありがとう……」
ユリは大声を出しながら泣いた。しかし、その顔は笑っていた。
ノンもお父さんもお母さんも、ユリのところに集まって喜ぶ。
生きていく、希望が見えた。
そんな顔を見れたのならばよかった、と隆二は思った。




