これからに必要な助言
同時刻。ダンジョン内。
(さすがに倒せたか)
オスカの様子を確認した隆二はひとます安堵した。
もしかしたら今の攻撃でも倒しきれなかったかもしれないと思っていたが、オスカの衣服は所々が破れ、体の至る所に傷があった。
そのとき。
カッ!と、隆二の視界に純白の光が発生した。
「なんだ!?」
即座に警戒態勢として剣を構えた隆二は、光の奥を見るように目を細める。
しかし、光によって目が眩み見ることはできなかった。
光が消え、部屋は元通りの明るさに残る。
1つ、元通りではない存在があった。
「やあ。初めましてだね」
あの光が輝いていた時間に、この部屋に侵入してきたと思われる男は、隆二にまるで中学校で自己紹介をするように話しかけてきた。
男は道化師の赤い鼻を取ったバージョンのような仮面を着けていた。
この少し薄暗い空間では、より一層不気味に見えてくる。
「誰だお前は?こんな場所に来て、仲良くなりましょう、なんてほざくわけじゃないだろう?」
「本当は君とは仲良くしたほうが、後々楽なんだがね。今日は挨拶をしにきただけだよ」
そう言うと、仮面の男はオスカを小脇に抱えた。
「だが、こいつは預からせてもらうよ」
「ソイツをどうするつもりだ?」
「こいつが所属している組織に送ってやるだけさ」
隆二は別に、敵である男の心配などするわけでもないが、自分がここで回収を許可してしまったから男の身に何かが起こった、などとなったら胸糞悪いので質問しただけであった。
仮面の男は顔の横で手を振ると、
「じゃ、また会おう。あと私から少し助言をしてやろう」
「助言?」
「いついかなる時でも自分の周囲に警戒しろ。君の周りでは様々な陰謀が重なっている。もし、これからもあの少女と一緒に在りたいと願うのであるならば、それ相応に自分の能力を強化し同時にあの少女にも自らを守れるくらいの力を与えることをお勧めする」
隆二はそれを無言で応じた。
彼は分かっている。
このままではいつか守りたい者を失う可能性が高いと。
『無に還し』を使えばいいが、『白い爆発』によって仲間を一旦離脱させなければならなくなり自分の目が無いところで、仲間が危険な目に遭うと。
隆二の反応を見届けた仮面の男は、何かぶつぶつと言った。
その瞬間。
仮面の男が来た時と同じように、カッ!と、純白の光が発生した。
光が消えた時にはすでに、男の姿は消えていた。
―通知。
―オスカ・ヘンリーのステータス及び、スキルを入手しました。
―『消滅の創生』の《現在使用可能ステータス》に追加しますか?
***
テミスとルイス、それぞれの武器が交差する。
体格差から考えてテミスがルイスに押し負けるのは目に見えていた。
そこで、エミリーはルイスだけをピンポイントで当てれる魔法を使う。
「『光の線』!」
ルイスの頭上にレモンイエローの魔法陣が展開された。
日光が差し込むような、細いしかし確かな線を描いてルイスに向かっていく。
「くそ!意外に連携がいいようですね!」
少し毒づいた後、体を横に捻ってこれを回避したルイスは、テミスの攻撃を迎撃しようと体制を立て直す。
しかし、もう手遅れだった。
「私の存在を忘れるな!」
ルイスが見た時にはテミスの剣は元あった場所にはなく、視界外に振り下ろされていた。
腹に剣が刺しこまれた。
「ガぅは!?」
剣を腹に受けたルイスは、そこから数歩下がって口から血の塊を出す。
数回、呼吸を整えるように血を吐き出すように咳をしたルイスは、
「『肉体再生』の、時間、が欲し、いです、ね…」
エミリー達は『肉体再生』を知らないため、対処をする必要がないと判断した。
彼女達にはこう映ったのだろう。
腹に切り傷を負った敵が最後の力をふり絞って魔法陣を展開しようとしている、と。
その予想通りの展開なら、彼女達は避けるなり迎撃するなりできたかもしれない。
「『強制転移』」
ルイスの時間稼ぎの為のカードが出現した。
『限界突破』のあるダンジョンの戦い
現在の状況
神崎隆二…戦闘可能。現在地ダンジョン
ノン・マティス…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
エミリー・スチュアート…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
テミス・コロミー…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
ルイス・ハーン…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
離脱者
オスカ・ヘンリー
仮面の男




