80話 佐久野色乃
扉が開くと一人の女の子が教室に入ってきた。ロングヘアーで顔立ちは少し大人になっていたが、あれは間違いなく俺の知っている顔であった。
教室中に歓声が起こり先生が注意した。
教卓までの一歩一歩がとても綺麗で俺は今にもその場所へ駆けつけたくなる衝動をぐっと堪えて光馬の方へ顔を向けた。光馬はとても驚いた顔をしていた。そして俺が見ていることに気付くとこちらに目をやり無言で頷いた。
今度は葉月の方へ顔を向けると葉月は口元を両手で押さえて今にも泣きそうな顔をしていた。
彼女が教卓の横に着くと先生が
『皆に自己紹介しなさい』
そう言うと彼女ははいと返事をして黒板に自分の名前を書き始めた。
そして黒板に書かれた丁寧な字は間違いなく
佐久野色乃
と俺の目に映っていた。
振り返ると彼女は笑顔を作り
『さくのいろのです!よろしくお願いします!』
と大きく明るい声でそう言い頭を下げた。その瞬間また教室中で歓声が起こった。
『お前ら静かにしろ!』
先生も今度は呆れた表情で注意をした。しかしその歓声は止むことはなかった。
俺は色乃をずっと見つめていた。すると顔を上げた色乃と目が合った。しかし色乃はすぐに俺から目を反らしてしまったのだ。俺は不安な気持ちになった。
止まない歓声に困った顔で先生が頭を手で押さえながら
『佐久野さんです。皆仲良くするように!』
そう言うと
『わかりました!』
『大丈夫!』
『佐久野さん可愛い!』
などと沢山の返事と色乃への感想が聞こえてきた。しかし色乃は俺と目を合わせようとしてくれなかった。
それから先生が歓声を静め色乃が座る席を指さした。何かの偶然、いやこれも運命なのかもしれない。それは俺の隣であったのだ。
『佐久野さんの席は新瀬の横だ。わからないことがあったらあいつに聞いてくれ』
色乃ははいと返事をするとこちらに向かって歩いてきた。
『なんだよー!新瀬ずるいぞー!』
教室のどこからかそんな声が聞こえてきた。しかし色乃はやはり俺と目を合わそうとしなかった。
そして自分の席の横まで辿り着いた時色乃はこちらに身体を向けた。俺は思わず席から立ち上がってしまった。
『なんだ、なんだ?どうしたんだ?』
教室中で響めきが起きた。この出来事を不思議に思う声が沢山聞こえてきた。そして俺はここで初めて色乃と目が合ったのだ。
目が合った瞬間色乃が話し始めた。
『ごめんね。なんだか恥ずかしくてなかなか目が合わせられなかったの・・・背伸びた?』
俺は無言のまま聞いていた。色乃の目に少しずつ涙が浮かんでいくのがわかった。それにつられるように俺の目にも涙が浮かんできた。
そして色乃は涙を流しながら笑顔を作り
『典君、ただいま!』
そう言った。俺は思わず色乃を抱きしめた。また教室中から響めきが起こったが俺は気にしなかった。
『おかえり』
俺達は泣きながら抱きしめ合った。今までのお互いの辛い気持ちを洗い流すように。
俺はもう絶対色乃を離さない。俺達の不幸は終わったのだ。
何があっても色乃と共に生きていく。
俺達の真の物語はこれから始まるのだ。
―終わり―
最後まで読んでいただいた方本当にありがとうございました!
やっと完結まで辿り着くことが出来ました。
最初に書き始めた時から途中書くのを止めていたのだ8年かかりました(汗
それでもここまで来れたのも読者の方がいてくれたおかげです。
多少微調整はしましたがなんとか自分の思い描いたラストまで書くことができました。
合計で124,485文字ですか。
こんなに長い文章は生まれて初めて書いたのでやりとげたという達成感でいっぱいです。
特に登場人物に名前を逆から読めるようにするのは苦労しました。
ここで書くと大変なのでまたブログででも紹介しようと思います。
実際書き終えてみてやはりまだまだ未熟だなと思う所だらけです。
途中読みづらいと思うシーンも沢山あったかもしれません。
この場を借りてお詫びします。
今回でこの新瀬典貴と佐久野色乃のストーリーは終わりになります。
また新しい物語が出来たら投稿していきたいです。
その時はもう少し成長出来ていたらなと思います。
もう一度御礼を言わせていただきます。
本当に最後まで読んでいただいた方ありがとうございました!




