70話 挨拶
それから俺たちはこの先どうするか考えた。その時羽野が突然こんなことを言ったのだ。
『そういや死ぬってお前ら皆に黙ってやるつもりか?』
『そ、それは・・・・・・』
確かに死なないようにすると言っても『自殺します』って言ってるようなものだ。そんなこと周りが許してくれるのだろうか?いや納得してもらうしかない。そう思った。
『二人で皆に挨拶しに行こう?』
そう言ったのは佐久野だ。俺は佐久野がそう言ったことに驚いた。今までの佐久野なら黙ってやるって言うのではないかと思ったからだ。佐久野の心境にも何か変化が起こっているのだろう。
『わかった!』
俺達の考えはそれでまとまった。
それから俺は碇に言われたとおりすぐに退院することが出来た。担当の先生も信じられないといった感じであった。
そして退院したその日に俺と佐久野はそれぞれの両親に事情を説明することにした。
まず俺の家へ向かった。そして俺が佐久野を連れて家に帰ってきたことに驚いたのは母さんだ。
『あなた!典貴が彼女を連れて帰ってきたわ!』
そう言って父さんを呼びに行った。
『なんか、ごめん・・・・・・』
俺は咄嗟に佐久野に謝った。よく見ると佐久野は笑っていた。
『新瀬君のお母さんって本当に面白いね。緊張してた私が馬鹿みたいに思えてきた』
それから佐久野は大丈夫と一言足した。それからすぐに母さんが父さんを連れてきた。
俺達は全てを話した。母さんは最初からある程度事情は知っていたのでそこまで驚きはしなかったがやはり死ぬかもしれないことを聞くと困った顔をして父さんの袖を掴んでいた。逆に父さんは最初は信じられないといった感じで聞いていたが、最後まで聞き終わるとただ一言
『頑張れ』
そう言って家の奥へ戻っていった。母さんは父さんに着いていった。
俺が家のドアを閉めると佐久野が俺を心配そうな顔をして見た。
『大丈夫なの?新瀬君のお父さん全然何も言わなかったよ?』
ただ俺にはわかっていた。父さんがああ言う時は俺のことを信じてくれてる時だからである。俺は佐久野を不安にさせない為に笑顔で大丈夫だよと答えた。
それから佐久野の家に行き同じことを説明した。やはり俺の両親と似たような反応だったが最終的には納得してくれたみたいだった。佐久野のお父さんもとても優しそうな人で俺に『娘を頼んだ』と言ってくれた。俺は佐久野を大切に想う人全てに佐久野のことを託されているのだ。そう実感した。
佐久野を家に残して帰ろうとした時に急に肩の力が抜けた気がした。確かに誰かの両親に普通じゃない挨拶をするなんてまず一生に何回もあることではない。実際凄く緊張してちゃんと話せていたのか自信がなかった。そして俺が歩き始めると後ろから声がした。
『とりあえず上手くいって良かったね!』
佐久野がそう言った。確かに第一関門突破といった感じだろう。俺はそのまま佐久野の方へ振り向き
『凄く緊張したよ。なんだか娘さんを僕に下さいって言ってるみたいでちゃんと説明出来たのか不安だよ』
そう言うと佐久野は笑って答えた。
『大丈夫だよ!ちゃっと話せてた。でも顔は硬かったかな?』
そう言われて俺は顔が熱くなった。きっと赤くなっているに違いない。俺は慌てて反対側を向いた。
『じゃあまた明日ね』
佐久野が後ろからそう言った。俺はそのまま走って家に帰った。
翌日俺達は学校の皆にも同じことを話した。クラスの皆は俺達を軽蔑の目で見ていたが数人は心配そうな顔で見ていた。前の席の段坂さんも
『無事に終わったらいっぱい話そうね!』
と佐久野に言っていた。
放課後に俺達は羽野も含めて伊瀬に呼び出された。
『お前達本当にやるんだな?』
俺達三人は互いに顔を見合わせて頷いた。
『もちろんです。もう決めたことです』
伊瀬は俺達の目を順番に見てその後ため息をついた。
『わかった。だったら俺も出来る限り協力しよう!必要なことがあれば俺に言え。わかったな?』
俺達三人は笑顔で顔を見合わせて伊瀬に頭を下げた。
『ありがとうございます!』
声を揃えてそう言った。
その後も出来る限りの人に挨拶をして回った。一通り挨拶し終わり帰ろうとしたその時だった。佐久野が急に足を止めたのだ。俺は佐久野の方に振り返りどうしたのと尋ねた。すると佐久野が
『もう一人どうしても挨拶したい人がいるの』
と言った。




