68話 消えた二人
俺が振り向くとそこには碇がいた。
『お前、大丈夫だったのか!?』
すると碇は少し曇った表情をしながら答えた。
『なんとかというか助けてくれたんだ・・・・・・あの二人が』
あの二人?誰のことを言っているのか俺にはわからなかった。俺がわからない顔をしている碇が話し始めた。
『君が最初に事故に遭った時助けてくれた二人だよ』
確か草人さんと瑠子さん・・・・・・だったはず。そうだ、あの二人は俺のことを助けてくれたあと消えたと聞いた。それがどうしてまた?それに碇を助けるってどういうことだ?その瞬間俺は一つの可能性に気付いた。
『まさか・・・・・・』
俺がそう言って碇の方へ顔を向けると碇は無言で頷き
『そうだ。あの二人は元々死んでいたんだ。君と同じあの場所で。彼らは乗っていた車で事故を起こし死んだ。しかし彼らの魂は死んだことを悔やみあの場所に留まった。もしあの場所で事故に遭った人がいたら助けようと二人で決めたそうだ』
にわかには信じがたい話だが佐久野の呪いや碇のことを考えるとそうも思っていられないことだけはわかった。
『君を見送った後俺は力を使い君を蘇生させようとした。でも力が足りなかったんだ。消えそうになって俺が諦めかけた瞬間二人が現れたんだ。君達には生きて欲しい。そう言って俺に力を貸してくれたんだ』
『じゃあ今二人はここにいるのか!?』
俺がそう言うと碇は俯いて手を強く握りしめた。
『そのまま消えてしまった。恐らく俺を助ける為に二人の力を使い果たしたんだと思う』
『そんな・・・・・・』
俺は2回もあの二人に助けられたのか。俺の中で絶対生き残らなければならないという想いが強くなったのを感じた。そして全てが終わったらあの二人のお墓参りに行こうと思った。
『じゃあ碇は大丈夫なんだな!時間がないっていうのは』
俺がそう言ったと同時に碇が横に首を振った。
『時間がないのは変わらない。俺が存在できる力がちょっと残った程度だ。それに呪いがどんどん強くなっている。可能な限り押さえるがいつまでもつわからない』
呪い・・・・・・そう言われてさっきの出来事を思い出した。
『そうだ。あれはいったい何なんだ!?』
『俺も確実にはわからないが恐らくあの少女が色乃の前世の姿だと思っている。彼女は家族を悪魔だと理由で虐殺された。そして周りの者全てを呪いながら死んでいった。そして本当に悪魔だったのかもしれないとも思えるくらいの呪いを残したんだ。ただ人間である俺が干渉出来るくらいだ。やっぱり悪魔なんて迷信だよ。そして彼女は両親が大好きだった。色乃の両親に不幸が起こらないのはその為だと思う』
まさか呪いの真実がそんなことだとは思いもしなかった。あれが佐久野の前世?だとしたら俺の前世はなんだったんだろうな・・・・・・もしあの中に俺の前世があったら・・・・・・いやそれ以上は考えないでおこう・・・
『とにかく色乃とは話が出来たみたいだな!』
『ああ!大丈夫だ!』
俺は笑顔で答えた。すると碇は笑顔で返した。
『じゃあ色乃を頼んだよ!』
『言われなくても俺が佐久野を守る!』
俺がそう言うと碇はもう一度笑顔を見せた。
『二人は絶対に死なせない。例えどんな死に方を選んだとしても・・・』
最後に碇がそう言って目を合わすとそのまま姿が見えなくなった。俺は姿の見えない碇に向かって頷いた。
『新瀬君!新瀬君!もう大丈夫だから!』
佐久野の声が聞こえた。そして俺は佐久野を抱きしめたまま座っていた。
俺は慌てて佐久野を離して佐久野に謝った。すると佐久野は不思議そうな顔をして俺の顔をのぞき込んだ。俺は恥ずかしくて顔を反らした。
『急に黙り込んでどうしたの?まるで色君みたいに・・・・・・あっ』
すると佐久野はごめんと言って頭を下げた。
その時俺は碇が佐久野を抱きしめた時に全てを知ったことに気付いた。そして死ぬことを選んだ。やっぱりあいつは凄いやつだと改めて思った。そして俺は佐久野を見た。
『俺は死なないから』
佐久野はどういう意味かわからない感じだったが笑顔で頷いた。




