48話 私の苦悩
『頭を強く打ったからだと思いますが、詳しい原因はさすがにはっきりしないですね』
新瀬君のお母さんが病院に来てから先生は新瀬君の状況を説明した。
『典貴の記憶は戻るんでしょうか?』
新瀬君のお母さんがそう尋ねると先生は下を向いて首を横に振った。
『申し訳ありません。正直わからないです。突然戻るかもしれませんし、このまま一生戻らないかもしれない。こればっかりはさすがに私でも何とも言えません』
先生は新瀬君の頭に軽く手を乗せた。
『しかし、ペンの握り方や文字や計算方法など基本的なことは覚えているので何かの拍子に戻ることは十分考えられます。諦めずに方法を探していきましょう!』
そう言うと先生は失礼しますと言って病室から出て行った。
『せっかく二人とも来てくれたのにごめんね・・・・・・』
新瀬君のお母さんがそう言って頭を下げた。
『そんなことないですよ。意識が戻っただけでも進歩はあったんですから』
私はそう言った。新瀬君のお母さんはありがとうと返してくれた。
そして羽野君が用事があるということなので病室から出て行った。病室では私と新瀬君とお母さんの3人になった。私も出て行った方がいいのだろうかと席を立とうとすると先に新瀬君のお母さんが席を立った。
『ちょっとお手洗いに行ってくるわね。申し訳ないけど色乃さん典貴を見ていてもらってもいいかしら?』
私がはいと返事をすると新瀬君のお母さんは病室から出て行った。病室では私と新瀬君の二人きりになってしまった。
私はどうしたらいいのか悩んだ。記憶をなくしているとはいえ新瀬君は生きていてこうして目の前にいるのである。もし私がこうして一緒にいずに新瀬君の元を去ればすぐに記憶は戻るのではないだろうか?そう思った。
『どうしたんですか?』
私が悩んでいると新瀬君が声をかけてきた。不思議そうな顔で私を見ていた。
『僕はどうしてこんなところにいるんでしょうか?どうしてこんなにも怪我をしているんでしょうか?名前もわからない。あなたの顔も名前もわからない。さっきの二人も誰だったんでしょうか?』
それを聞いた瞬間私は泣きそうになった。私の知っている新瀬君は今ここにはいない。そう思ったからだ。でも私はちゃんと彼と向き合わなければならなかった。
『あなたの名前は新瀬典貴。さっきの女性はあなたのお母さんよ。そして男の子は羽野光馬君。あなたの親友』
それぞれ名前を書いて教えてあげた。ただ親友という言葉が私にはとても辛かった。どうしても葉月のことを思い出してしまうからである。でも葉月は遠く離れていても私の親友だから大丈夫だと自分に言い聞かせた。
『そうなんですか。それは悪いことをしました・・・それとあなたは?』
私はまだ自分のことを言っていないことを忘れていた。
『私の名前は佐久野色乃。あなたの・・・・・・』
その先をなんと言えばいいのか私にはわからなかった。友達でいいのかな?とりあえず私は
『あなたの友達よ』
そう言った。それを聞くと新瀬君は嬉しそうな顔をした。
『あなたみたいな綺麗な人と友達なんてきっと僕は幸せ者だったんでしょうね』
それを聞いて私は自分の顔が赤くなっているのに気付いた。そしてすぐに顔を伏せた。
どうして新瀬君は突然そんなことを言うんだろうか。二人でいるのが恥ずかしくなってしまった。
この先私は彼とどう接すればいいのかわからなくなった。
それからしばらくして新瀬君のお母さんが病室へ戻ってきた。




