33話 幼い記憶
私の幼い頃の出来事。
私は幼稚園に通い出して初めて友達が出来た。幼稚園で外で遊ぶことになった時にどうすればいいのかわからず、一人で砂場で遊んでいた時だ。
『ねぇねぇあたしも一緒にお砂遊びしてもいい?』
この時私は緊張で言葉が出ずこくりと頷くことしか出来なかった。それでも彼女は私の横に座り話し続けた。
『あなた名前っていうの?あたしはね、田影葉月っていうの』
私は上手く言葉が出なかったが何とか絞り出した。
『私・・・は・・・さくの・・・いろの』
『いろのちゃんっていうの?可愛い名前だね!』
彼女は笑顔でそう言った。今まで両親や一人でしか遊んだことがなく他人と関わるということがなかった私は、名前を褒められるという経験がなかったので顔が赤くなった。
『羨ましいなー。あたしもそんな名前がよかったー』
『そ、そんなことないよ!はづきちゃんだって可愛い名前だよ!』
私はその時初めてちゃんと声が出た。とにかく無意識だった。
『ほんと-!!嬉しい!ありがとう!』
こちらを向いていた彼女の顔は満面の笑みになった。
『じゃああたしたちお友達だね!』
彼女がそう言った。友達が初めて出来たのだ。私は嬉しさでいっぱいだった。私も葉月に負けないような笑顔を作った。
『これからもよろしくね!いろのちゃん!』
『うん!』
これが私と後の親友、葉月の初めての出会いだった。
私と葉月はその日帰る時間になるまでずっと一緒に過ごした。
『また明日ね!ばいばい!』
『うん!ばいばい!』
また明日。この言葉が凄く嬉しかった。明日になればまた葉月と会える。沢山話が出来る。明日はどんなことをしよう?明日は何を話そう?私の頭の中はそれでいっぱいだった。
そして私は家に帰るとお母さんに急いで今日あった出来事を話したのだ。
『おかあさん!今日ね、お友達ができたの。はづきちゃんっていうんだ!』
お母さんはそれを聞くと笑顔になった。
『ほんとー?よかったわね!』
私もお母さんに笑顔を返した。
『一緒にお砂場で遊んで、いっぱいお話したの』
『えーいいなー。お母さんも一緒にお話したかったなー』
お母さんが羨ましそうな顔をしていた。
『まだだめー。はづきちゃんは私とお話するの』
『あら残念。じゃあまた今度お話させてね』
『うん、わかった!』
お母さんは笑顔で私の頭を撫でてくれた。それが私には凄く嬉しかった。
その後も私は今日あった出来事をお母さんに話し続けた。お母さんはずっとその話を笑顔で聞いてくれた。
翌日幼稚園に着くと
『いろのちゃーん!おはよう!』
葉月が走って私のところへやってきた。
『はづきちゃん!おはよう!』
私は笑顔で返事をした。
『今日はなにしよっか?』
『う~ん』
私達が悩んでいると。
『今日は皆でお絵かきしましょう!』
先生がそう言った。皆は先生の方を向いて元気よくはーいと返事をした。
『じゃあ今日はクレヨンを使ってお友達の似顔絵を描いてみましょう!』
そう言うと先生は皆に画用紙を配り始めた。そして私達はクレヨンを出した。
『あたしがいろのちゃんを描くからいろのちゃんはあたしを描いてね!』
『うん!』
そして私達はお互いに向き合って似顔絵を描き始めた。
しばらくすると
『できたー!』
葉月がそう言って立ち上がった。
『いろのちゃんはできた?』
『あとちょっと』
すると葉月は座り直して
『わかった!できたら教えてね!』
『うん!』
そして私は一生懸命葉月を描いた。
『できた!』
私がそう言うと葉月はすぐに笑顔で私に側に寄ってきた。
『見せて-!あたしも見せる!』
『わかった!』
そう言って私は自分の画用紙を葉月に渡そうとした。すると
『痛っ!』
葉月が突然指を押さえた。葉月の指から血が流れていた。画用紙で指を切ったのである。
『えぇーん!いたいよー!』
葉月が泣き出してしまった。
『あらあらどうしたの?』
すると先生がやってきた。そして葉月の手を見ると
『あら!大丈夫!?すぐに手当するからね。痛かったわね。大丈夫よ。痛いの痛いの飛んでいけ-!』
そう言って先生は葉月を連れて行こうとした。私にはその時何が起こっていたのかまだわかっていなかった。
『はづきちゃんどうしちゃったの?』
私は先生に尋ねた。
『大丈夫よ。すぐに戻ってくるから色乃ちゃんはおとなしくしていてね』
先生が笑顔でそう言うと私は無言で頷いた。そして葉月は先生は一緒に教室から出て行った。
これが葉月の起こった最初の不幸である。しかし私はその時何もわかっていなかった。




