32話 気絶
『何をしているだ!早く止血をしないと!』
そう言って私の目の前に現れたのは知らないお兄さんだった。するとお兄さんはタオルを取り出し出血部分にタオルを当て強く押さえた。
『頭を強く打ってるな。急がないと手遅れになるぞ』
新瀬君に当てられた白いタオルはどんどん赤黒く染まっていく。そのおびただしい量に私は放心状態だった。
『◯◯遊園地の近くの道路で男の子が引かれました!至急救急車をお願いします!』
すぐ近くで女の人の声が聞こえた。
『瑠子!どうだ?救急車はどれくらいで来れる?』
『すぐに向かうって言ってたわ!10分以内には着くって!それより草人、その子を引いた車がいない!ひき逃げだわ!すぐに警察にも電話する!』
『わかった!頼む!』
お姉さんが携帯電話で警察に電話を掛けている。私はその光景を放心状態のままただ見ていることしか出来なかった。なんでこんなことになってしまったんだろう?これも私のせいなのかな?
『佐久野さん!』
突然呼ばれて私は呼ばれた方向へ顔を向けた。そこには羽野君がいた。
『羽野・・・君?新・・・瀬君が・・・』
声が上手く出せなかった。
『わかってる。今はあの人達が助けてくれてる!とにかくここは道路の真ん中で危ないから、もう少し歩道側に寄ろう!』
羽野君はそう言って私の手を引いたが、私はそこから動けなかった。
『佐久野さん?』
私は何も答えられずただ固まっていた。
『君達、この子の友達だね?』
その時お兄さんが声を掛けてきた。羽野君がそちらを向いてはいと返事をした。
『彼の血が止まらないんだ。とにかく早く病院へ連れて行かないといけない。それと彼の御家族にも連絡をした方がいい。連絡先わかるかい?』
『わかります』
羽野君が冷静に答えた。でも手は堅く握りしめられ震えていた。何も出来ない自分に苛立っているがそれを必死に堪えている感じだった。
お兄さんはお姉さんの方を向くと、
『彼女に連絡先を教えてくれ。俺は手が離せない』
すると羽野君は軽く頷き掴んでいた私の手をそっと離すとお姉さんの方へ向かっていった。
『大丈夫!彼は絶対助かる!救急車ももうすぐ来るから。安心しな。そんなに泣いて顔がくしゃくしゃになってたらせっかくの可愛い顔が台無しだよ?』
お兄さんは私に優しい声でそう言ってくれた。しかし手元を見ると真っ白だったタオルは完全に赤く染まっていた。
『佐久野さん。端に寄るよ』
羽野君が戻ってきた。今度は私も立ち上がり羽野君に引かれて道路の端に寄った。
そして少し離れたところで二人で新瀬君を見守っていた。
『羽野君・・・新瀬君助かるよね?』
『大丈夫、あいつは絶対死なない!約束しただろ?何があっても助けるって』
言葉とは裏腹に羽野君は不安そうな顔をしていた。羽野君だって不安なのに少しでも私の気持ちを和らげようとしてくれている。ありがとう・・・
それから15分くらい経ったが救急車は姿を見せないどころか音すら聞こえてこなかった。
『どうなってるんだ!?もう来てもいい頃だろ!』
お兄さんが大きな声を出した。さすがに少し苛立っている声だった。新瀬君の頭を押さえていたタオルは2枚目になっていたがすでにほぼ赤く染まっていた。
『わからない。もう1回電話してみる』
お姉さんはそう言って電話を手に取った。
新瀬君はどうなっちゃうの?助からないの?私の心は限界に近かった。色君、お願い新瀬君を助けて!そう思った時
『もしかしたらこの先大事な人を失うかもしれない・・・』
夢で聞いた言葉を思い出した。病気で寝ていた時に見た夢だ。どこかで聞いたことのある懐かしい声だった。もしかしてあの声は・・・
その瞬間激しい頭痛が襲ってきた。私はたまらず頭を押さえた。
『佐久野さん!?』
羽野君が私を呼んだ。頭痛がどんどん酷くなる。私はその場で倒れて気を失ってしまった。




