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 私は所謂、お嬢様だった。

 ドミニク国は、テーゼ海に面した豊かな魚場で栄えていた。

 注目すべきは、穏やかで美しい海を囲んでいるテーゼ湾の高台から眺める景色で、周りの陸地は整地され、お屋敷が立ち並び、高級リゾート地として名をはせていた。

 他国の王族や貴族の方たちが別荘を構える程の人気だった。

 その開発を手掛け、リゾート利権を一手に握っていたのが私のお父様だった。

 商売のことばかりで家庭を顧みない。

 やり手実業家によくある話だが、お父様は儲けるお金も、罪滅ぼしに家族に使うお金も、半端なかった。

 そして何より愛情深く、優しかった。

 私はお父様から、国にはせる夢を聞き、お仕事のお話しを聞くのが好きだった。

 その時間をあまり取って頂けないのが残念だったけれど。

 お母様は誰よりも着飾ってのパーティー三昧で、私の部屋のクローゼットにも、着たことのないお洋服が山と掛けられていた。

 朝起きるとメイドのセシュ達に湯あみに連れて行かれ、体を磨かれ、髪をとかされ、着替えを手伝われ……。

 貴族の方たちよりも、贅沢をしていただろう。

 ティータイムに出された、ピンクや黄色のカラフルな色をした甘いお菓子を食べながら、街で有名な旅一座の舞踊を、私はたった一人で観劇していた。

 見に行くはずだった舞台をお父様に、スッポカされてしまったのだ。

 一緒に行きましょうと、ククル婆やが宥めるのも訊かず、大泣きして大暴れをした。

 その翌日に旅一座は、家にやって来た。

 金色の獅子のお面を被って踊る姿は迫力があったが、こんなの一人で観たってつまらない。

 ヨウとスギを誘えば良かった。

 それより、魚釣りの方が良かったかな。

 ヨウは魚釣りの名手だから。

 きっと大きいのを釣ってくれるはず。

 それを夕食に、お父様に食べてもらえれば良かった。

 左右からメイドに大きな団扇で扇がれながら、そんな失礼な事を考えていた。

 ヨウはメイド長のスギは執事の息子で、私のお付きのようなものだ。

 勿論、私の方が面倒をみてあげている……つもりだ。


 暗雲が立ち込めてきたのは、アステリア国が勇者様を召喚してからだった。 

 ドミニク王も、すぐさま勇者様を召喚し、ホホロ国とセントリア国も追随した。

 それそれの主張は、勇者様を有して人民の敵である魔王を討伐すること。

 魔王の血肉が不老不死の妙薬になる事は、誰もが信じている伝説だった。

 勇者様の力を蓄えるために、召喚は公然の秘密のまま年月が過ぎていった。


 先ず動いたのは、アステリア国だった。

 魔王討伐に行くまでの道すがらの、ホホロ国に仕掛けた。

 まさか自国が的になるとは思っていなかったのであろうホホロ国は敗れ、呆気ないものだった。

 ホホロ国の勇者様は、幼なかったと聞く。


 それを機にドミニク王が、動いた。

 背後からアステリア国を攻撃したのだ。

 アステリア国は、ドミニク国と隣接していた。

 同じように海に面し、倍以上の領土を有しながら、その海岸線は田舎びた風景が広がるだけで、漁業頼みの収益しかなかった。

 魅力的な我が領土を狙われるはずだと危機感を抱いていたドミニク王が、先手をうったのだ。

 ドミニク国が参戦した時も、お父様達は港に張り付いていた。

 商機になるか利権を奪われるかの、瀬戸際だった。

 ドミニク国内はその頃はまだ安全で、戦火も遠く、私たちは不穏な情報を耳にしながらも、ヨウとスギと遊び、甘いお菓子を食べていた。


 拮抗していた戦いはセントリア国が参戦したことで、一変した。

 二国を相手にするのは厳しい状況だった。

 お父様は、お母様と私や従業員の女子供を、ドミニクの森にある別荘に逃れさせる事を決めた。

 そこは妖精の森、グリーンランドのすぐ近くのパワースポットで、既に貴族やお金持ちの商人たちが避難を始めていた。

 お父様も一緒に行きましょうと、お願いをしたのだが、後から行くからと見送られた。


 私とお父様は、そこで別れた。

 それが、最後だった。





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