喫茶店 (2)
私の両親は既に他界している。母親は十年前に病気で、父親は五年前に事故で亡くなった。
その後、お爺様が私を育ててくれたのだった。育てたといっても、直接何をしてもらったわけでもない、全て家政婦さんと家庭教師に面倒を見てもらったのだ。
斉藤源司。お爺様は斉藤グループという大きな会社団体の、社長だった。
「ごめんね、夏紀。気分悪いでしょう?」
「私のことは気にしないで。それより、泉も大変ね。泉のお爺さんって、以前からそんな過保護だったっけ?」
私は夏紀の遠慮ない言葉に、思わず苦笑した。
「以前はね、もっとほったらかしだったわ。でもなんだか、ここ最近ピリピリしてるの。お爺様だけじゃなくって周りの人達もね。私には何も言ってくれないんだけど、きっと会社の関係でゴタゴタがあったんじゃないかな」
「わかった。お爺様の愛人発覚!」
「ぷっ、まさかぁ。あの歳でそうだったら、もう許してあげるわ」
いつもの軽口。こういうとき、夏紀の存在がありがたいと思う。世間的にはお金持ちと呼ばれる家に育って、両親がいない冷たい家庭にいても笑顔でいられるのは、きっと友達のおかげなのだろう。
家にいる人達は、はれ物に触るように私と接した。それは私が怖いのではなく、きっとお爺様を恐れているのだろう。
小さい頃は気にならなかった、でも今は違う。私も自分で考えることのできる歳になったのだ。空気を読む、ということも出来るようになった。なに不自由なく暮らしている私が、世間一般の普通の感覚を保つためには、友達と、沢山の読書が必要だ。私は本を読むのが好きだった。