04 二層
焦ってるわけでも気負ってるわけでもなさそうだった。これなら大丈夫だろうと判断した俊太郎は二階層に向かって歩き始めた。
「二階層ではゴブリンが二体出てくることもある。もし出てきても慌てないで一体ずつしっかりと倒そう」
「分かりました」
どうやら集中しているようだ。迷宮の外では柔らかい雰囲気を纏っているのに、今ではその手に持っている刀のように鋭い切れ味を放っていた。
さっそく二体のゴブリンが現れた。ぐぎゃぐぎゃと、気味の悪い鳴き声を喚きながらこちらに向かってくる。
一体は短めの剣をもっていた。
手前にいたのは、こん棒を持っている。俊太郎はマジックソードで斬り付けると、こん棒を振り回してきた。
バックラーで受け流す。この動作も意外と慣れてきたものだ。
二体目のゴブリンも剣を構えこちらに斬りかかってきた。剣は恐ろしいが動きは単調で、こん棒よりも簡単に盾でいなすことができた。
そこで紫雨の攻撃が放たれる。スキルなどを発動したときに現れる、不可思議な発光現象がない。
これはただ斬りつけただけだ。
ただ斬りつけただけでもゴブリンは倒せる。倒せるが、二階層のゴブリンを一撃で倒すことができるほどではなかったようだ。
こん棒を持つゴブリンが、血を流しながら紫雨をにらみつける。
俊太郎がマジックソードでもう一度攻撃するが、こん棒を持つゴブリンは倒れなかった。
再び、ゴブリンが剣を振り下ろしてくる。変な態勢のまま受けた所為か上手くいなせず腕を斬りつけられてしまった。
紫雨は慌てているのか、スキルが発動されていない。それでもこん棒のゴブリンは紫雨を攻撃する前に、倒れたようだった。
「落ち着いて。スキルを発動する感覚を忘れないように」
「は、はい」
二体目のゴブリンも紫雨の鋭い居合のスキルによってあっさりと倒れた。
紫雨の攻撃はかなり強いが、近接で戦うわりに一撃の隙が大きく、囲まれたりすると危険かもしれない。
言ってしまうと、近接戦闘タイプの魔法使いのような、攻撃力特化型だ。
魔法使いはスキルの取得方法によっては支援をこなしたりすることもある分間口は広いが、紫雨のスキルはかなり攻撃に偏った編成になりそうである。
特に刀を使ったスキルはその傾向が強いのかもしれない。
スキルについては俊太郎も分からないことばかりだった。
『スキルが発動しないとか、初心者にありがちだね』
『今までが上手くいきすぎだ』
『でも初心者でこんなにはやく二階層でも戦えるなら、期待できる』
『一層二層なんてスキルすらいらねーよ』
紫雨は危険な状況を作りだしてしまったと、落ち込んでいた。
「スキルが発動しないのは、最初のうちはよくあることらしい。気にしないで」
「すみません……」
「スキルというのは武器に依存しているらしい。紫雨は刀を持って迷宮に入ったら剣士系のスキルを覚えると言われたと思う」
「はい。組合ではそう聞きました」
「刀という武器の習熟度によって覚えられるスキルは変わってくると思うけど、基本的に剣士系のスキルなら大抵の物は覚えられるはずなんだ。それは意識次第ともいえる」
「意識……」
「たとえば剣士の有名なスキルだと『スラッシュ』これは大抵の剣士は覚えるのが簡単だと言われている。けど薄さんは刀だからすこしそっちよりのスキルを先に覚えたのかもね」
例外があるとすれば、盾用のスキルが剣士にも存在するが、それらは盾を持たないと覚えることはできない。
覚えることができたのなら、自然とスキルを放つことができる。しかしどんなスキルがあるか、どんなスキルが必要なのか、それらを意識的に考えることによって、スキルの習熟速度は変わってくる。
今回俊太郎は、バックラーという小さめの盾をもって戦った。本来魔法使いに盾用のスキルなど俊太郎も聞いたことがない。しかし防御のための手段が必要だと考え、防御の支援魔法スキルを覚えることができたようだった。
剣士にはどんなスキルがあるのか、それらを元に俊太郎と紫雨の連携はどのようにしたら良いかを話しあいながら、ゴブリンを倒していく。
一度マジックソードを唱え直し、新しいものを生み出すと、少し刀身が大きくなったように見えた。熟練度があがったおかげか攻撃力も少し高くなったようだった。
二階層は最初こそ手こずったが、それ以降は危なげなく戦っていられた。
紫雨もスキルの発動に失敗することなく、ゴブリンを一刀両断していた。
「スキルって不思議ですね」
「そうだよね。こんなこと迷宮の外じゃできるわけないのに」
過去の人類やその達人が編み出した技術が『スキル』などによってパッケージ化されたものだとされているが、詳しいことは分かっていない。
「失敗したくないなら最初のうちはスキルの名前を呼んであげると良いよ」
探索者や迷宮に関することも、解明されていない謎も多い。
迷宮などの研究者もいるにはいるが、それらに関する知識は不思議と出回らないものだ。
探索者が不人気な存在だということもあるかもしれない。
しかしいないと困るはずなのだ。
命を懸けるわりに収入が少ないなどと言われるが、それは最底辺の探索者の場合だけだ。
むしろ、ベテランと言われる探索者になるころにはかなりの収入が望めるだろう。しかしそれらもあまり知られていない。
俊太郎は世間と自分の心の間には乖離があると以前から考えていた。
どうして、誰も語らないこの探索者というものに、こんなにも惹かれるのだろうか。
今までは一人で探索をしていたが、隣に人がいる。それだけで今まで以上に迷界という存在を心がもっともっとと求めている。
まだ簡易迷宮の一段階目である。その先はどうか。
あるいは土地型迷宮とはどんなところか。
俊太郎の大人しい見た目とは裏腹に、心の渇望は悪魔のように囁くのであった。




