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交錯迷宮 ―『声』の聞こえる探索者と刀使いの文学少女―  作者: 雨坂 六路
第一部

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13/15

13 土の精霊


 五層には中間階層リーダーが出現する。五層ごとに出現する階層リーダーは迷宮の深部に出現する迷宮ボスほどではないが、一般の魔物と比べると強化された魔物である。

 

 二段階迷宮では最大十階層だが、段階が進むごとに迷宮の最深部は遠くなっていく。

 三段階であれば階層リーダーは、五層と十層、四段階であればさらに十五層である。

 

 

 あくまでこの迷宮はオークがメインなのか、中間層のリーダーはオークで、迷宮ボスもオークらしい。

 二段階を完全制覇とはいかないまでも、この五層までは進んでおきたかった。

 

 

 階層リーダーであるオークは、そこらへんにいるオークと違い、身体が大きく、二メートルほどありそうなのが取り巻きたちと比べても分かる。

 身体のラインも丸みを帯びたオークとは違って、筋肉質な身体はより人間に近いように見えた。


 種類はハイオークという。大きな斧を持っているのが見えた。

 取り巻きたちは変わらず丸みを帯びたオークで、槍や剣をもっているのが見える。装備をガチャガチャと鳴らし、周囲をじろりと警戒している様子だった。

 

 

 前回の階層主であるゴブリンリーダーとの戦いは反省が多かった。

 そもそも俊太郎が先行して戦うのは失敗だった可能性が高い。

 いつも通り土精が動くのを待って、攻撃をするのが良いだろうという話しあいの元、俊太郎と紫雨はじっと待つ。

 

 ハイオークがなにかに気が付いたのか、グオォと声を上げた。

 彼らの足元から土の精霊が、日菜子の命令によって現れた。

 土精は音のない咆哮を上げた。

 

 惹きつけられるように、魔物たちの視線が土精に集まる。

 そして土精たちの後ろから、俊太郎と紫雨もその場についた。

 

 俊太郎は魔法を発動させる。身体から魔力がうごめき、発動の瞬間すっと熱いものが薄れていくのが分かった。

 あらかじめ使用できる支援魔法はある程度使用したが、火属性付与魔法だけは今からかけはじめる。

 俊太郎本人と紫雨、さらに土精にもかけてしまうことにした。

 元々土精の攻撃は物理的なダメージと土属性によるものだが、攻撃力は微々たるものである。土属性である魔法ダメージは上書きされ火属性のものとなってしまうが、こちらの方がよりダメージが高くなる。

 火属性付与による魔法ダメージは俊太郎の能力が元になっているが、あくまで土精が与えた攻撃と判断されるのか、魔物をより惹きつけやすくなるようだった。

 

 土精が攻撃をする。日菜子から攻撃命令を受けた土精は一度ぶるりと身体を震わせると、土精の身体が少し小さくなった。

 

 オークたちの足元がぐらりと揺れる。実際に地面が揺れたのではなく魔物たちの足元を土精の身体が通り過ぎていったのだ。

 

 土精の立派なスキル攻撃であり、新たに覚えた新技だった。

 

 俊太郎が火属性付与を支援し終えると、足元が揺れバランスが崩れたオークに斬りかかる。

 

 マジックソードは元々魔法によるダメージだ。そこに物理的なアプローチはなくどんなに力強く振ったところで、それほど威力は変わらなかった。

 しかし、深く切り込めばそれだけ傷口は広がる。そこに追い打ちとばかりに付与された火炎がぶわりと広がった。


 雄たけびをあげ、痛がるオークにさらに紫雨の斬撃が襲い掛かった。

 取り巻きのうちの一体であるオークはそれまでのただのオークとは違う。体力も攻撃力も増している。

 本来こんなもので斃れるはずではなかった。

 しかし紫雨が放った斬撃は鋭く、オークが受けた一撃は急所、あるいは会心の一撃と言われるものだった。

 

 俊太郎はさっと身体を引く。それと同時に紫雨も戻った。

 オークたちは態勢を立て直し、再び土精を攻撃し始めた。

 

 オークは体力が高く、攻撃力も高い。 いくら耐久性能が高い土精といえども四体に囲まれてしまえばあっという間に倒されてしまうはずだ。

 

 二体目のオークを倒すのには少し時間がかかってしまった。紫雨の攻撃でトドメにならず、再び俊太郎が攻撃してようやく倒れることになった。

 

 日菜子が祈りをささげるように、杖を掴み、スキルを使う。

 祈りが土精に届くと、小さな光が身体を覆い、土精を癒した。

 

 精霊術師のスキルで自ら召喚した精霊を回復させる『癒しの祈り』というものだ。

 

 土精の見た目ではダメージを負っているのかが分かりにくいものの、精霊術師である日菜子にはしっかりと分かっているようだった。

 

 

 残り二体。取り巻きの剣持ちのオークと、ハイオークである。

 ハイオークが叫ぶ。ひくいうねりのような声は怒りがこもっていた。

 今にも湯気が出そうなほど身体に力が入り熱を発しているように見えたが、実際には湯気も出ていないし、熱気も感じられない。ただ目の前のハイオークが怒りで震えているそれだけだ。しかしそれでも意味があるのか攻撃が鋭くなったように見えた。


 ざくり、と斧が振り下ろされる。土精を守る保護魔法も大して効果がなさそうな攻撃は、土精の身体を大きく削った。

 その上剣をもった最後のオークが素早く動き回りながら土精を攻撃している。

 

 どうやらこのオークはすばしっこいようで、どうにも攻撃を上手く回避しているつもりのようだ。

 

 オークが攻撃のため土精を狙う。そこにすかさず俊太郎が一撃を与える。

 素早く下がると入れ替わるように紫雨が刀を逆袈裟からの振り下ろし。

 オークは血を噴き出しながら倒れていった。

 最後に残るのはハイオークのみである。

 

 大きな斧を巧みに操り、俊太郎をけん制しつつ、土精に斧を振り下ろす。

 先ほどの怒りの一撃ほどではないにしろ、着実にダメージは蓄積されているようだった。

 

「もう持たないわ!」


 再び俊太郎の攻撃。その後紫雨の追撃が決まるも、ハイオークは倒れない。

 日菜子は必死に祈りを捧げ回復をさせるが、そもそもそんなに回復できるスキルではないという。

 持続的に回復することはあっても、一気に体力を上限までもっていくような性能ではない。

 防御するように腕を上げるが土精の身体からポトリと一部が落ちていく。

 

 日菜子が命令を出す。土精の人間でいう口のあたりを大きく広げ、大きく叫ぶ。音のない叫びがハイオークを引き付ける。

 俊太郎はマジックソードで切り付けるもダメージを与えられている気がしなかった。

 

 土精の腕がまた一つ落ちた。斧で叩き切られた腕は地面に落ちると砂のように消えていく。

 

 日菜子の命令が再び土精を動かす。最初に発動した地面を揺らす土精のスキルがハイオークの足を揺らした。

 今度はバランスを崩すことなく、すぐに立て直した。

 ハイオークが再度咆哮を放った。筋肉は盛り上がり、大技の準備に入ったのが分かった。

 

 俊太郎が攻撃するも、止まらない。

 

 ハイオークの一撃が土精を襲う。

 大きく上段から振り下ろされた大斧が土精を真っ二つにすると、土精の身体は地面から起き上がることなく土の塊となって動かなくなった。

 

 

 ばっと俊太郎の脇を通り過ぎた。紫雨だ。

 斧を大きく振り下ろしたハイオークは、上半身を倒し頭が下がっている。

 そこを紫雨が強襲した。

 

「ツキカゲ!」


 素早く刀が切り上げられ、その勢いのまま上段から振り下ろされた。紫雨の放ったスキルはハイオークに致命的なダメージを与えたように見える。

 大きなうめき声をあげ、たたらを踏むもまだ倒れない。

 ぐるると獣のようなうなりをあげ、紫雨を睨んだ。

 

「下がれ!」


 俊太郎が叫ぶ。

 手から魔法の剣をパッと離すと、ふっとその存在が消えていく。

 手を前にだし、魔力を操作した。

 

「サンダーボルト」

 

 紫雨が下がった途端、魔法を放った。

 青白い光を放つ雷がハイオークに向けて頭上から走る。

 バリバリと音を立てて、ハイオークにダメージを与えた。

 

 紫雨や俊太郎が剣などによってダメージを与えた分とあわせて、ハイオークは体力を失いゆっくりと後ろに倒れていく。

 地面に倒れるすんぜんサラサラと消えていく。音も立てずにハイオークはアイテムを残しながら迷宮に吸い込まれていったのだった。

 

『やるなあ』

『ハイオークまで倒しちゃったよ』

『シュンタロならこれくらいすぐだと思ってた』

『アイテムなにかなー』

『土精ちゃん……』

 

 


「なかなか手ごわかったわね……」


 自らの召喚した精霊を失ってしまった日菜子が呟く。

 

 再びなにやら言葉を放つと、日菜子の足元に土の精霊が現れた。

 

「ごめんなさい。ありがとう私たちを守ってくれて」


 日菜子はそういって土精霊の頭を撫でたのだった。


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