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交錯迷宮 ―『声』の聞こえる探索者と刀使いの文学少女―  作者: 雨坂 六路
第一部

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12/15

12 羽織とローブ

 

「この後、少し迷宮に行きませんか?」

 

 

 紫雨の誘いにのって俊太郎は一緒に迷宮に向かった。俊太郎は集まりがない日でも一人で迷宮に行っているため、一人が二人になるだけだ。

 

 最近は一人でも二段階の迷宮に行くこともあったが、問題なく進むことが出来ていた。


 

 盾を左手に持ち、生成したマジックソードを右手に持つ。

 一層のゴブリンは大した相手でもない。俊太郎も前衛のスタイルで戦っているが、魔力は惜しまない。

 自分に保護魔法、火属性付与を唱えると、紫雨にも同じものをかけた。

 

 火属性付与が付いた紫雨の攻撃力はやはり高く、ゴブリンくらいは一撃である。

 

 二層のオークにも俊太郎が魔法を放ち、紫雨が追い打ちをかけるとあっさり倒れてしまった。

 

 三十分ほどで俊太郎の魔力を消費するとその日は帰宅した。

 着実に強くなっているという実感を持ったのは俊太郎だけではなかったのか、帰り際の紫雨の表情はどこか満足気に見えた。

 

 

 

「私も呼んでくれたらよかったのに」


「家庭教師の終わりに一緒に行っただけだからな。魔法も使いながらだから、一時間もやってないんだ。そんなのでわざわざ呼ぶのもな」


「うーん。え? 家庭教師?」


 日菜子はどうやら家庭教師として俊太郎が紫雨に勉強を教えていることは知らなかったようだ。

 

「受験勉強?」


「いえ、迷界学を学ぼうと思いまして」


「ということは、うちの大学を受験するってこと?」


 俊太郎たちが通っている大学は迷界学に強いとされている大学で、探索者や組合所属の職員になることをサポートしている数少ない学び舎でもある。

 

「いえ、少し迷っています。探索者になるための知識を得るために大学に通いたかったのですが……」

 

「そうよね。もう探索者にはなれているわけだもんね。なるほど」

 

 

 隣のカフェから組合に移動する。

 受付で迷宮に侵入する申請を出すと、荷物が届いていると荷物を渡された。

 日菜子や紫雨が注文したものが、今日にはやはり届いていたようだ。

 

 荷物を二人に渡し着替えをしてくると言い、奥の更衣室に入っていった。

 組合ではこうして着替えを行う探索者も多く、更衣室などが用意されている。迷宮前で着替えをしても良いが、迷宮のある場所によっては着替えられないこともある。

 

 日菜子は上にローブを着ているためそれほどではないが、紫雨は少し目をひく見た目だ。

 制服の上に着物の羽織を着ていた。頭には俊太郎が上げた鉢巻きまでつけている。探索者ならこんなものだとは思うが、二人は気にならないのだろうか。

 

「鉢巻きは迷宮前につけたらいいんじゃない?」

 

「そ、そうですね」


 紫雨は少し顔を赤らめながら、鉢巻きを外す。俊太郎はなんだか悪いことをしたような気分になった。

 実際に最初にかける言葉ではなかったなと反省し、改めて言葉を足す。

 

「二人とも似合ってるよ」


 紫雨には感謝の言葉を貰ったが、日菜子にはくすりと笑われた。

 ごまかすように、身体の向きを変え、迷宮のある図書館へと向かうことにした。

 

 

 一層をさっと、二層もかるく進み、三層を目指す。

 森から抜けて景色は山の中だ。景色が広がって遠くにまた別の山々が見える。ゴロゴロとした岩があったり、ウネウネと這うような道が俊太郎たちの進む先にあるのが見て分かった。

 

 三層ではゴブリンとオークが同時に出る。その上二体までしか現れなかった魔物たちが四体まで現れることがある。

 こちらのパーティーは六人までという制限があるが、魔物にその制限はないらしく、段階が上がるごとに同時に現れる魔物の数は増えていくらしい。

 

 

 オークが二体ゴブリンが二体の編成。

 ゴブリンだけでなく、オークまで武器を持っている。ゴブリンとは違い身体が大きいためそれに合う武器はなかなかないのか、持っているのは木を加工した荒いこん棒である。


 ゴブリンは一段階の五層などで見かけたのと同じように様々な武器を持っている。体つきも少し大きくなったのか、がっちりとしていた。

 

 全員が前衛で戦う武器をもっているが、荒くれた山道はそれほど広くない。

 戦えないこともないが、混戦になりそうだと俊太郎は息をふうと吐いた。

 

 合図を出すと、日菜子がスキルを使う。

 まだこちらに気が付いていない魔物たちを引き付けるため、土精に命令を出した。

 

 

 最後のオークに紫雨がトドメの一撃を放つ。オークは血しぶきをあげながらゆっくりと倒れるも、地面にぶつかる寸前、塵となって消えていった。

 返り血を浴びたはずの紫雨の身体からもサラサラと粒子の光が飛んでいく。

 

 

「装備の調子はどうかな。戦いにくいということはない?」


「特に問題ないわね。私の能力が上がっても、あまり実感がわかないけど。この子は変わったのかしらね」


 日菜子が土精を見ながら言う。こちらの言葉を理解していないのか、とぼけた顔を向けた土精はにゅっと頭を日菜子の方へと伸ばすように向ける。

 その頭を日菜子は撫でた。

 

「私は威力が上がったみたいです」

 

 紫雨が買ったのは、ローブの代わりに買った羽織だ。昔の侍や剣豪などが着ているような着物の上に羽織るためのものだ。

 紫雨はそれを制服の上に着ている。

 防御性能自体はあまりないが、その代わり攻撃や回避、あるいは器用さなどの能力が上昇すると説明には書いてあった。

 実際どれほど能力が上昇するのかは分かっていない。元々の能力がどれくらいで、そこからどれだけ上昇しているのかも分からないため、実際に使って確かめるしかないのが難しい点である。

 

 紫雨は意外と気に入っているようで、鉢巻きと羽織で様になっていた。

 相変わらず眼鏡におさげの文学少女といった様相だが、少しは剣士の趣が出てきた。

 それでも、歴史好きの女学生感は否めないが。

 

 日菜子はその身にローブを纏っているが、中にはバイクなどの運転時に着るようなライダースーツを装着している。

 ローブの隙間からぴっちりとしたラインが見えかくれする。アニメなどで見かけるような少し扇情的なデザインだったが、本人は気にしていないようだった。

 ライダースーツにローブというスタイルは少し暑くるしく、迷宮内ならともかくこの季節に外で着るには少し億劫そうだ。

 これから夏に向けてそのあたりも少し考えなければならないかもしれない。

 

 

 装備を新調したおかげか、はたまた着実に強くなっているおかげか、四階層も難なく進むことが出来た。


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