↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交錯迷宮 ―『声』の聞こえる探索者と刀使いの文学少女―  作者: 雨坂 六路
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/16

01 文学少女

 閉じた傘を握りしめ、周囲の景色を確認しながら、俊太郎は歩いていた。

 

 その日は家庭教師のアルバイトのために、雨上がりの住宅街を奥の方へと向かっていた。

 家庭教師は今日で二回目。まだ俊太郎は道なりを覚えている途中だった。

 季節は夏が控えている。

 

 俊太郎は片手に傘、反対には肩掛けの鞄に参考書を入れている。肩越しには光る珠のようなものを浮かべていた。

 

 目的の家にたどり着くとインターホンを鳴らす。時間通りのためか、すぐに女性の高い声が目の前のスピーカーから返ってくる。

 

 この家の家主でもある母親は、仕事帰りなのかあるいは、仕事中なのか、まだスーツ姿であった。

 

「悪いんだけど、買い物に行ってきますので、お願いします」

 

 そう言って、俊太郎を家に残しさっさといなくなってしまった。

 後に残された俊太郎は呆気に取られるも、仕方なく気を取り直し生徒が待つ勉強部屋に向かった。

 

 二階の扉をノックする。ガチャリと扉があいた。

 

 制服姿の女子生徒がこちらを覗き見る。眼鏡をかけていて、黒髪は二つのゆるいおさげをぶら下げていた。

 真面目で大人しそうな姿は、絵にかいたような文学少女のような出で立ちだ。

 確かに彼女の部屋には小説の文庫本がならんでいるから、本当に文学少女なのだろうが、今時こんな型にぴったりはまったような女子高生がいるだろうか。

 

「薄さん、今日もよろしくお願いします」


 俊太郎が挨拶するも、彼女、紫雨(しう)は小さくはい、と返事をするだけだ。

 俊太郎は気にせず、参考書を取り出し、紫雨が座る机に置いた。

 

 科目は『迷界』だ。

 専門教育のため高校によっては教えていない科目である。彼女の高校では迷界科目は存在しなかった。

 最近になって、興味が出たとのことで、学んでいる最中である。 

 

 

「迷宮を含む迷界には、基本的に人類に害をなす魔物が潜んでいます」


「基本的には、ということは居ない場所もあるのですか?」

 

「そういうこと。ヨーロッパの都市には隣接するように森林が管理されているんですが、そこで迷界化が起きました。そういう場所は地上迷界や土地型迷宮などと言われています」

 

 迷界化した場所が変容し、さまざまな迷界の特徴が現れる。

 中にはもちろん魔物が出現することもあり、大騒ぎになったことは過去に何度もあった話である。

 

「日本にもあるのですか?」


「あります。というか一般の人はあまり知らないかもしれませんが、有名な迷宮や迷界の場所はたいてい地上迷界ですね。この区にも一つある。日本で有名なのは横浜かな」


「横浜……」



 紫雨は元々成績も優秀なほうだと言う。本来、迷界などにかかわらなければ、家庭教師など必要ないほどに勉学の出来も良いようで、俊太郎が教える内容も飲み込みが早い。


「逆に地上迷宮とは区別して、簡易迷宮というのがある。そこでは地上のものとは違って、魔物を倒すとカードが出現する。これは以前にも学んだと思います」


「はい。そのカードで希少なものを売って稼ぐのが大きな要素である、と」


「そうです。もちろんほとんどは大した金額にはならない物ばかりですが、簡易迷宮にも難易度があり――」


 教科書の内容を使って迷界科目を教えていく。それほど難しい内容ではないため、わざわざ家庭教師などを雇うなんていうのは、かなり珍しい話だった。

 

「先生も、魔物を倒したことがあるんですよね」


 そのとき、紫雨の目線がこちらをまっすぐに見つめる。眼鏡越しでも分かるくらいに力強いまなざしには、俊太郎も思わずたじろいだ。

 

「ああ、あるよ」


 俊太郎が説明すると、紫雨も考え込むようにうつむいた。そうしてから意を決したように見上げる。

 


「先生。私を迷宮に連れて行ってくれませんか……」


 驚く俊太郎に、紫雨は手のひらから何かを取り出した。するとそこには光る珠があった。

 俊太郎の肩越しにある光から、聞こえないはずの『声』が聞こえたような気がした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。