第12悲劇(閑話)魔王城は、大慌て!②
――悩める参謀Side――
ああ、なんという悲劇だろうか。
魔王様が、嫁にしたいと言っていた現地勇者に振られて帰ってきてしまった……。
魔王様の右腕であるわたくしめは、何としてでもエステル魔王様に、あの現地勇者を献上したいと言う気持ちが強くなり、現在四天王を集め緊急会議です。
「しかしよぉ……。まさかエステル魔王様が振られるなんて、誰も思わないじゃん?」
「それなー」
「アレは痛恨の一撃でしたな」
「確か……『駄目なの! ときめけないの! 筋肉がない、もやしには用はないの!』の上に、最後が『嫁も嫌! 婿がほしいの婿が!!』だったか?」
「婿に行くエステル魔王様……」
「いけません。今のエステル魔王様なら喜んで婿に行きますよ」
魔王が勇者に婿入りなんて聞いたことがございません!
ですが、今の魔王様なら喜んで婿に行ってしまいそうで……。
筋肉がないもやしで良かったと、全員が安堵したのです。
「ただでさえ、あの現地勇者に惚れてからと言うもの、エステル魔王様の威厳あるお部屋がドンドン、現地勇者グッズで溢れかえっているんです! 今では祭壇まであるんですよ⁉」
「「「祭壇か――……」」」
「あそこまでのめり込んで……気色悪い!! ……いえ、応援したい!」
「今、本音がポロリしましたね」
「あなた方もみてみたらいいのです……。エステル魔王様のお部屋を……。壁と天井、全てに現地勇者の隠し撮りした写真を引き伸ばして貼ってますよ。その上抱き枕まで作って抱っこしながら眠っておられます」
「「「「うわ……」」」」
そこまで言えば流石の四天王も色々考えたようですね。
「……ね? 気色悪いでしょう?」
「……まぁ、それだけ……ね」
「惚れ込んだものは仕方ない」
「そのうち自作のフィギュアまで作り出したらアウトだな……」
「もう既に二体ありました」
「時すでに遅し」
「最早取り返しもつかない」
「……俺が一番恐れるのは……魔王様が振られたショックで……〝イマジナリー現地勇者〟を作らないかと言うことだ」
ボソリと呟いた四天王の言葉に、全員がゾッと鳥肌を生やした。
無い……とは言い難い。
何せ魔王様だ。
いや、もしかしたら……。
「既に、エステル魔王様は一線を超えてしまったかも知れません」
「と言うと?」
「魔法で……等身大の現地勇者をつくっていないかチェックせねば!」
「「「確かに!」」」
「振られたショックで気が動転しているんです! 早く行きましょう! そしてその目に焼き付けるのです! 今の哀れな魔王様のお姿を!」
「強調する程すげー状態ってのは理解したぜ」
「心を強く持って……扉を開けよう」
音を立てて立ち上がり、わたくしどもは魔王様のお部屋まで向かいました。
きらびやかな白い御城に相応しく、どこもかしこも輝いている城。
その一番奥の大きな部屋こそが、魔王様の部屋なのです。
ノックを三回。
返事はない。
「エステル魔王様、四天王達が参りました」
「……そうか」
「入りますよ」
皆さんに目配りをし、覚悟を決めてもらって中へ入ると――祭壇がレベルアップしていました。
現地勇者の……言い出したらキリが無い位のグッズで溢れた部屋。
美しかった白い壁は見ることは最早出来ない。
「エステル魔王様、大丈夫でしょうか?」
「……見てくれ。今まさに魔法で現地勇者を作り上げたところなんだ」
――アア、トキスデニ、オスシ。
全員がそう思ったことでしょう。
魔王様、目が正気じゃないですもんね。
狂気はらんでますよ。
「エステル魔王様、恐れながら申し上げます」
「なんだ」
「それは……その魔法人形の使い道はまさかとは思いますが……ラブドー……」
「おおっと? それ以上は聞いちゃいけねぇぜ?」
言葉を遮ったのは四天王の一人。
しかし、私も聞きたかった質問でもあります……。
「しかしだな?」
「いいじゃん? 現物じゃねーんだし? 例のアレな現地勇者がひとりやふたりいたってさ?」
「昨夜もお楽しみでしたね? って奴ですね?」
「折角エステル魔王様が気持ちを詰め込んで作り上げた例のアレだぜ?」
「お前たちは一体何を言ってるんだ! そんな卑猥な事に現地勇者を使えるわけ無いだろう!」
良かった!!
魔王様まともだ!!
まだ一線は超えていらっしゃらない!!
安心した!
「魔力を流し込んで動ける様には微調整はしたが!」
あかん、色々アウトだ。
「声は再現出来ないのが残念だな……。喋ってくれる現地勇者が作れれば多少は気が紛れると思ったんだが」
「喋れる現地勇者の魔法人形……どう使うおつもりだったんですか?」
「……俺を応援したり、たまに罵ってほしかった……」
「「「「……」」」」
アウト――……。
魔王様、お気を確かに……。
いや、わたくしたちも、お気を確かに……。
ここでドン引きして魔王様から離れる事はできない。
なぜなら、敬愛してやまない魔王様がここまで変わってしまったのは全て、全てあの〝現地勇者の所為〟なのだから!!
今は正気では無いだけ……そうだとも、正気ではないだけだ。
時間が経てばきっと……。
「エステル魔王様、恐れながら申し上げます」
「……なんだ」
「お声だけは……脳内再生で……済ませましょう」
「……そうだな。周りに聞かせる訳にもな」
一体どのような言葉を言わせたかったのかは、想像しないほうが良いだろう。
多分想像したら「この魔王駄目だ」となりそうで怖い。
「それでエステル魔王様、本当にラブドーンンンじゃないですか?」
「お前はどこまでもそれに拘るな!」
「やめて差し上げろ!」
「だってさー。気になるんだもん!」
「四天王よ」
「「「「はっ」」」」
「……何度も言うが、ラブドーンンンではない。その発想がなかった……あったらもう後には戻れなかった……」
「発想がなくてよかったです」
「危機一髪ですね」
「ご無事で何より」
「だが、次作る時があれば……作っちゃうかもしれない自分が信用できない」
「「「「エステル魔王様……」」」」
両手で顔を覆い首まで真っ赤になっている魔王様を見て、わたくしたちは察しました。
ああ、もう、走り出したら……止まらないんだな。
色んな意味で。――と。
「恐れながら、それだけは、一線だけは超えませんように……」
「現地勇者ちゃんが来た時、魔法人形の自分見たらなんて言うっすかね?」
「……想像したくないな」
「現地勇者が来た時は、魔法人形現地勇者ちゃんは静かに眠ってもらおう」
「それが宜しいかと」
「それまでの慰めに魔法人形は必要だ……。くそ……忌々しいオネェさんめ」
どうやら、負けたくない相手ができた様子。
オネェさんと言うのは、確かミルクとか言う名前の異世界勇者だっただろうか。
確かにあれだけ己の愛してやまない現地勇者を抱きしめているのを見せつけられたら、魔王様もご乱心になるか……。
「エステル魔王様、我らはエステル魔王様を応援致します!」
「そうですよ! 筋トレ頑張りましょ! 筋肉がつきにくくても、毎日頑張っていれば少しずつくらいなら!」
「お前たち……」
「現地勇者を惚れさせる作戦、頑張りましょう!」
「うむ! 気合が入り直した! 頼むが、俺を支えてくれ!」
「「「「はっ!」」」」
――こうして、魔法人形の現地勇者に笑顔で拍手されつつ、我達は微妙な気持ちを味わいながらも、魔王様のお部屋を去った。
そして……。
「きっついな」
「きつかったです」
「諦めよう。応援すると決めたのだから……」
「あれ以上酷くなる前に止めねば……」
各々、そう思いながら持ち場へと戻っていったのだった――。
そして、今頃魔法現地勇者とイチャイチャしているであろう魔王様の事は……心の平穏の為に暫し忘れることにしたのだった。




