第38話 ページを閉じた私の向こうに
あなたとのページは、ここで閉じる。
そしてわたしは、
わたしの「好き」を探しに行く。
まだはっきりと形の見えない「好き」でも、
それを探しに行こうと思えるだけで、
胸の奥が、ほんの少しだけ軽くなる。
搭乗アナウンスが流れる。
出発ロビーの空気が、少しだけざわめきを増した。
立ち上がったとき、
ポケットの中のスマホが、一度だけ震えた気がした。
きっと、あのトークルームのどこかに
新しい通知が灯っているのだろう。
それでも今は、確かめなくていい。
けれど、画面は見ないまま、
わたしはゲートへ向かって歩き出した。
足元に続いていく細い通路の先に、
まだ知らない景色がひらけている。
その少し手前で、わたしの物語が
静かに、新しく始まろうとしていた。
ページを閉じたわたしの向こうには、
まだ何も決まっていない、まっさらな世界がひろがっています。
だれかの「すき」に合わせて生きてきた時間も、
たしかに大事な一部分だけれど、
これからは、わたしの「すき」を選び直していく番です。
こわい気持ちが、ゼロになったわけじゃない。
それでも、知らない景色を見に行きたいと思えるくらいには、
わたしは、わたしのことを前よりすこし好きになれました。
この先のページに、どんな出会いや物語が待っているのか、
いまはまだ、なにもわかりません。
でも、それでいい。
空白のページをこわがるかわりに、
一行ずつ、自分の手で書き足していけるわたしでありたい。
あなたとの物語を読んでくれた、どこかのあなたが、
自分の「すき」をそっと思い出すきっかけになれたら、
それほどうれしいことはありません。
ページを閉じてくれて、ありがとう。
そして、ページを閉じたその先の世界で、
おたがい、自分の「すき」を大事にできますように。




