第6話 再出発は最初と一緒
翌日。深くフードを被って極力素顔を隠したノアが訪れたのは、七番街ギルド。
レーニアから貰った推薦状で冒険者登録をする。ようやく無職の自分とはおさらばだ。
「フィア、最後まで嫌そうだったね」
肩に座ったラビエナの言う通り、昨日の話し合いでフィアはノアの冒険者復帰を承諾こそしたが、彼女の心配が消えたわけではない。
宿を出る時も、引き攣った笑みを浮かべながら見送ってくれたのは、彼女なりの最大限の応援だったのだろう。
「まぁ、あとは行動で示して安心してもらうしかないさ……それよりも」
ノアは窓口の手前で足を止めた。
「ん? どうしたのノア?」
「……俺がこの街の出身なのは知ってるよな?」
「うん」
「だから、顔馴染みも多いんだよな……ここの受付嬢もその一人なんだ」
「受付嬢ってあの人?」
ラビエナが指差した先には、ギルドの窓口で茶髪の髪を頭の後ろで束ねた女が事務作業に集中していた。
「あぁ、俺が初めて冒険者登録したのもこのギルドで、その時の担当もあの人だった」
「それじゃあノアのこと、バレちゃうんじゃない?」
「避けては通れぬ門さ。いくら推薦状で試験が免除されるとはいえ、冒険者カードを発行する時のステータスの開示はどうにもならない」
「私、ステータスに偽装魔法をかけるくらいならできるよ?」
「それは重罪だぞ。当分の間、牢で固いパンと薄くてぬるいスープを食いたいのか? ここは正直に行こう。そのつもりで来たんだ」
一つ深呼吸をして足を進め、窓口の目の前に立つ。
眼下の受付嬢はノアに気づかず、書類にペンを走らせていた。
「……ネーレさん」
「はい、なんでしょ……え!?」
顔を上げたネーレという受付嬢はノアを見るなりペンを落とし、一瞬硬直する。
しかしすぐに我に返った。
「す、すいません! 知り合いに似てたもので……!」
ネーレが語った知り合いとは、もちろんノアのことだ。
彼女の本名はネーレ・リード。
ノアの4つ年上であり、幼少期から世話になった姉のような存在だ。
「ほ、本日はどのようなご用件ですか?」
「冒険者として登録したくて……これ、推薦状です」
「まぁ! 王家からの推薦状なんて珍しい! あっもしかして、先日のサイクロプスを討伐したのって、あなたですか?」
「ま、まぁ……はい」
頬をぽりぽりと掻くノアにネーレは微笑む。しかし、それはすぐに薄れ、少し悲しげなものへと変わった。
「実はね、あなたによく似た知り合いがいたんです。彼も物凄く強くて、それでいて優しくて、この街の誇りだったの……あなたも耳にしたことくらいはあるんじゃないですか? 最高の冒険者、瞬神ノアの名を」
「あ……あぁ……」
ノアは肩のラビエナと見つめ合う。ラビエナは気まずそうに首をすくめた。
「では、ちょっと準備しますのでお待ちください」
ネーレはリセルを集中させて、人差し指の先に小さな青い炎を灯す。
その炎を推薦状の確認印の箇所へ近づけると、炎は一瞬ボッと燃え上がっては消え、代わりにギルドの承認を意味する焼印が少量の煙を上げて焼きついていた。
如何なる魔法でも改竄が不可能で、ギルドの職員だけが使える魔法だ。
「はい、続いて冒険者カードの登録です。これに手をかざしてください」
ネーレが手を差し出したカウンターの隅には、台座に乗せられた、手のひら大程度の青い水晶が置かれている。そして台座の下部には、冒険者カードが排出される細長い穴が備えられていた。
「この水晶で、あなたのリセルから名前や能力などの情報を吸い出し、カードとして発行します。カードには冒険者ランクやその他諸々の機能、そして身分証も兼ねてますから、大切にしてくださいね」
もちろん知っている。なにせ、この作業自体は二度目なのだから。
ノアは水晶に手をかざすと、水晶は淡く光り、その光が台座へ吸い込まれていく。
ほどなくして、台座の穴からカードが一枚押し出された。
「はい、こちらがあなたの冒険者カードです。えっと……ノア・レグ……ルスさん……?」
カードに記された名前を読んだネーレがカードと、そしてノアの顔を交互に見る。
それを何度か繰り返した後だった。
「え? ……え!?」
もう誤魔化せない。ネタバラシの時間だ。
ノアはフードを少しだけ、持ち上げた。
「ネーレさん……久しぶり」
「え、えええええぇぇっ!!!!」
悲鳴にも近い、甲高い叫び声がギルド内に響き渡る。
もちろん、他の職員や冒険者達の注目がノアとネーレに集まった。
「ちょっ! ネーレさん、静かにっ!」
「う、うううそでしょ!? だってあなたは……!」
混乱したネーレがノアを指差す。その目つきはまるでお化けでも見ているようだ。
周囲からの注目が更に増していく。ノアにとっては好ましくない状況だ。
「ネーレさん! しーっ!」
人差し指を口元に立てて、静かにとジェスチャーで伝える。幸いにも取り乱したネーレにそれは伝わったようで、彼女は自らの両手で口を塞ぎ、周囲を見渡した。
「……ちょ、ちょっとこっち来て!」
ネーレに手を引かれ、ノアは応接間に連れて行かれた。




