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ななみんの決断~私が仕事を辞めた理由~

土曜日の20時更新です…

 ここの直線が好き。


 四車線の国道沿いに伸びてる五メートル幅の歩道。昼過ぎの街中でも人が殆んど通らない。長くて整備されてるこの真っ直ぐな道。


 茶髪ショートの眼鏡っ子。身長が百五十センチないからよく中学生に間違われます私、滝田ななみ二十二歳。


 フードデリバリーサービスの配達員になって半年。


 最初は二年間勤めてた工場の副業で始めたんですけどね、ダイエットも兼ねて。いつの間にかこっちが本業になってしまった。


 人見知りだけどこの程度の接客なら私にも出来るってわかったし、何よりも『仕事なのに』風を受けて外を走れるこの気持ち良さ! ママチャリで始めてクロスバイクの自転車を購入するぐらいハマってやってます。


 本当はロードバイク欲しい……。


 でも、まだ照れがあるって言うか。だってヘルメット被るのにも結構勇気いったんですよー。だから今はこれで十分。


 自慢のバイクで、私としてはちょっぴりスピードを出して走れるこの歩道。めっちゃ気に入ってます。


 気に入ってるんです。ですけど……何だろ。


 さっきから、うさぎさんが並走してます。スタラッスタラッて跳ねるように私の左サイドを。


 それだけでなく……


 おっきなトイプードルさんも。右サイドを並走してます。一緒に走りたいのかな〜君達?


「ウサくーん! プードルの祖先は猟犬なんだぞー!」


 トイプーさんがしゃかしゃか走りながら叫んでる。


「だから何ィィィッ。バカロッキー!」


 うさぎさんが返す。口悪いなこの子。


「今度バカって言ったらぁぁ……コローす!」


 こっちのトイプーさんも怖い。


 何だかヤバめの小動物に挟まれて走ってる私。一瞬でもメルヘンな感じになって恥ずいわ。


 とりあえずここから離脱したい。


「うんしょ!」ってペダルを踏み込む。


 ぴゅーんて。


 うさぎさんにぶっちぎられました……。


 呆気に取られる私とトイプーさん。うさぎさんは二百メートル程先の信号の手前でざざーって止まると前足を天に向かって突き上げてます。


 耳だけ黒い白うさぎ。勝ったぞーって事ですかね?


 その横を走り抜ける時「お父とお母とお姉に感謝を」とか聞こえて来て。トイプーさんは悲しげな遠吠えしてるし。


 私は私で。何だろうこの敗北感。


 次の日。


 昼過ぎにまたこの歩道を走ってる私。配達ルートになってるんです。で、しばらくすると スタラッスタラッスタラッしゃかしゃかしゃか……


 気付いたら両サイドに昨日のうさぎさんとトイプーさんが並走してました。またぁ?


 百歩譲って。


 この子達が種族の誇りを賭けてかけっこ勝負をしてるのは分かります。


 でも何で? 私、巻き込む必要ある?


 少し腹立ったから今度はギアチェンジして挑む事にしました。右ハンドルグリップを前方に回し込む。ガチャコ。六速に入れて勝負だッ、人類代表として!


 ぴゅーんて。


 またうさぎさんにぶっちぎられました。


「くっそーッ!」


 私は多分、生まれて初めてくらいに叫びました。


 悔しい!


 うさぎさんはまた信号の手前で「伊吹山の神々に感謝を」とか言ってるし、プードルは頭抱えて転げ回ってます。


 次の日。


 流線型ヘルメット、ピッチピチのサイクルジャージとパンツ、グローブ&シューズに身を包んだ私。


 購入したばかりのロードバイクであの歩道に挑む!


 スタラッスタラッスタラッスタラッ…………


 ぴゅーんて。


 三度うさぎさんにぶっちぎられました。


「何でじゃ~あぁぁッ!」


 私が路肩にバイクを置いてガードレールにヘルメットをガンガン打ち付けてると。トイプーのヤツが頭ポンポンしてくれました。負け犬のクセにお前。


 一体どうやったら?


 あのうさ公に勝てるんでしょう。私は家に帰ると配達員の仕事を辞めて軽く引きこもりました。


 1週間後。


 家の中はまだ寒いけど……外は日が差して暖かい。


 そんな気候に後押しされてか、私は久しぶりに家を出てみる事にしたんです。


 眼鏡を外してカラコン。髪にはウィッグを着けてジャージ上下にスニーカー。念のためマスクとキャップも着用。


 変装までしてあの歩道とは反対方向に漕ぎ出します。近くの堤防をロードバイクで風を切って走る。


「あー。何か気持ちいー!」


 私の選択は間違ってない。そう思えたんです。


 負けてもいいし逃げてもいい。


 別に勝たなくたっていいじゃん。だって私はただの自転車好きの女の子なんだから!


 あー、空が青い。風が冷たくて心地いい。


 人のいないこの堤防の真っ直ぐな道。この直線、何か好きです。


 ……スタラッスタラッスタラッしゃかしゃかしゃか


 何かが後ろから接近して来ました。


 脳内物質がセロトニンからドーパミン一色に、パーンて切り替わる!


「うっしゃあああああああああああああッ」


 目一杯、ぺダルを踏み込む私。

それではまた……

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