【番外編】姫様の願い
わたくしの初恋は勇者様。
わたくしはただ、勇者様のお心が欲しかった。
魔王を倒した英雄、勇者様は、その後部屋に一人、閉じこもってしまわれた。
ただ一人、ある女性の絵を描いて、「翼」 と大切そうに呟いていらっしゃる。
勇者とは平和の象徴。だからこそ、父である陛下はわたくしを下賜して爵位を授けようとした。けれども勇者様はご興味ないということで、それらをすべて却下された。
取りつかれたように絵を描き、思い出に浸るようにぽつりと名前を呟く。いよいよ体も痩せ細り、このままでは衰弱していってしまう、そう診断が下った。
勇者様は平和の象徴。このままでお心を壊すようなことがあってはならない。そう判断されて、大切そうにされている”翼様”にもお越しいただこうという話になった。
わたくしは、とても嫌だった。
わたくしがどれだけ手を伸ばしても手に入ることが無い勇者様。それなのに、勇者様が求めてやまない女性を呼ぶだなんて。けれども父である陛下の命令は絶対で、そのまま召喚が行われてしまった。
あんなにも勇者様が取り乱されるなんて、あんなにも愛おしそうに女性を見るなんて、そして何よりも、わたくしの名前すら知らなかっただなんて。
短いお話でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。