伯爵夫人は今日も優雅に指令を与える
のどかな農地と、最近になってはじめた酪農で栄える平凡なウォルツ伯爵領。穏やかで人好きのする若き伯爵と、かつては国一番の美姫とうわさされた伯爵夫人が現在治めている。
夫妻が領主となってから早五年。普段はのんびりとした空気と、のほほんとした平凡な景色が特徴であるウォルツ領が、なぜか今日は大変な賑わいを見せていた。
八年前に新しく建て替えられたウォルツ家の屋敷では、一人の若い女性の声がこだましていた。
「急ぎなさい! ジェレミーが帰ってくるのは今夜七時よ。その前にはアメリアたちが六時には着く予定だわ。それまでにはすべての準備を整えておきなさい」
シルビア・ウォルツは、五年の月日がたっても色あせることのない、むしろ一層輝きを増した姿に、焦りの色を浮かべていた。今日、彼女の夫であるジェレミー・ウォルツは、およそ三ヶ月にわたる王都での滞在を終え、屋敷に帰還する予定であった。本来はもう一週間先のはずだったのだが、急遽早まることになり、そのせいで屋敷は少々慌ただしい。
シルビアはうれしさの中に、ほんの少しの苛立ちを込めていた。むろん彼女とて、愛する夫が帰ってくることはこの上ない喜びである。だがなんの連絡もなしに、早馬に「明日の夜着く」なんていう走り書きを持たせるだなんて……。彼は期待していないのかもしれないが、こちらは仕事で疲れた主人を迎える準備をしなくてはいけない身だ。それ相応の時間は欲しい。
時刻は夕方の四時。厨房ではシェフたちがあっちへこっちへと走り回りながら、領地の取れたて野菜や新鮮な肉や魚をたっぷり使った、自慢の料理をこしらえている。どれもジェレミーの好物ばかりをそろえてある。デザートには搾りたての牛乳と産みたて卵をたっぷりと使った、カスタードプリンタルトを用意した。
ジェレミーとシルビアの部屋はいつもよりも念入りに掃除をさせ、疲れているであろうジェレミーのために、ホットワインも用意させた。風呂には入浴剤も準備してある。
庭では以前はジェレミーの妹、アメリアが世話をしていた花々たちが、新しく雇った庭師によっていつも以上にみずみずしく花弁を広がらせている。これなら今から訪れるアメリアも安心してくれるだろう。さらに今日は、久々に帰ってくる主人を出迎えるために、噴水やバラのアーチに飾りつけまで施してある。少々やりすぎ感は否めないが、それだけ屋敷の住人すべてが、ジェレミーを待ち望んでいるということだ。
「食堂に人数分のクロスとナプキンを並べておきなさい。ナイフとフォーク、あとグラスも。子ども用の背の高い椅子も用意して」
「客室のベッドメイキングは済んでるの? アメリアたちは今日から一週間泊まっていくはずよ。マリア、私の世話はいいから、しばらくはあの子についてあげて。……マタニティーブルーなのよ」
「ちょっと! 庭先にヘタな横断幕なんて下げたのは誰!? どこぞの手作りパーティーを開くつもり? 今すぐ外しなさい!」
侍女やメイドたちはシルビアの命令に応じ、せかせかと屋敷を駆けずり回っていく。どの顔も忙しそうだが、生き生きと輝いて見えた。ほかの使用人たちも総じて楽しそうだ。女主人は昨日の夜から、準備に明け暮れているというのに。
だが屋敷の者たちは皆、知っているのだ。その屋敷の女主人であるシルビアこそが、誰よりもうれしそうな顔をしているということぐらい。いつも冷静沈着、淑女の鑑と謳われた彼女が、露骨に感情をあらわにしているのだから。
午後の六時を回ろうとしたころ、屋敷の前に一台の馬車が止まった。予定通りの時間だった。シルビアは義妹を迎えるため外に出た。
馬車の戸が開き、まず最初に姿を見せたのは――。
「おばうえー」
親の制止も聞かずに飛び出してきた、二歳ぐらいの男の子であった。母親と同じハニーブロンドに、父親とそっくりの藍色の瞳をしている。正真正銘、ジェレミーとシルビアの甥にあたるウィリアムである。
続いて出てきたのは、父親でありアメリアの夫、現在王宮騎士団小隊長を務めているノース・モルセット。彼は妻の手をゆっくりと引きながら、息子に向かって怒鳴っていた。
「ウィル! 飛び出すなといっているだろうが」
「ちちうえ、いやー」
ウィリアムは反省したそぶりもなく、シルビアの背中に隠れた。それにノースがショックを受けていると、アメリアがクスクスと笑いだした。
「ウィル、お義姉さまをあまり困らせちゃだめよ。お父さまも悲しんでるわ。あと何度もいうけど、伯母上じゃなくて、シルビア姉さまって呼びなさい」
シルビアは笑いながら首を振った。
「いいのよ、アメリア。私が伯母なのは事実だもの。さあウィル。伯母さまにご挨拶をしてちょうだいな」
小さなウィルに合わせて身をかがませると、ウィルはシルビアの頬にチュッと唇を当て、得意げに笑った。
モルセット夫妻がゆっくりとした足取りで近づいてくる。アメリアの腕には、おくるみに包まれた、ウィルよりも小さな命があった。シルビアはその顔を覗き込んで、ほっとして微笑んだ。
「無事に生まれて安心したわ。ノースさまったら、難産になるかもしれないって散々騒ぎ立てるんだもの」
「面目ない」
ノースは苦笑しながらも、アメリアの腰を支えるように手を回していた。相変わらず夫婦仲は良好らしい。アメリアは先週生まれたばかりの娘、フローラをシルビアにもよく見えるよう近づけた。赤子は今すやすやと眠っていた。
「ほら見て、お義姉さま。この子、髪の色は旦那様と同じなんです。でも目は、兄さまと同じきれいな深緑です」
「あら、そう。見えないのが残念だわ」
「ええ。ここへ着く三十分ほど前に、疲れて眠ってしまって……」
そういうアメリアの方も、出産前に比べるといくらかやつれ、顔色もよくない。ノースがいっていたこともあながち間違いではなかったのだろう。
「湯浴みの用意ならできてるから、先にゆっくりしてきたらどう? 疲れているでしょう。子どもたちなら私が見ていてもかまわないわ」
「いえ、もうすぐ兄さまも着くのでしょうし」
「待たせておけばいいわ。妻にも内緒で急に帰ってくる夫より、出産疲れの義妹の方が大事なの」
シルビアはそういうと、アメリアから赤子をそっと受け取った。ぐずるかと思ったが、フローラは深く寝入っているようで、口を半開きにし、わずかによだれを垂らしたままだ。シルビアは思わず笑いだしそうになりながら、おくるみの端でよだれをぬぐってあげた。
アメリアが湯浴みのために浴室へ向かうと、ノースは先に客室へ通された。着替えをしてから三十分ほど仮眠をとるらしい。その間、ウィルとフローラはシルビアが面倒を見ることになった。
シルビアは普段、子どもの世話なんてしたことがない。知人の子どもたちと話したことはあるが、こんなに長く接することはないし、アメリアたちだってめったに来訪はしない。ウィルはなぜかシルビアにとても懐いてくれているので、わがままもいわないしとても世話はしやすい。
ウィルは自分の荷物に入れてきていたらしい一冊の本を取り出し、フローラに子守唄を聞かせていたシルビアに差し出した。フローラは今、ふかふかとしたソファの上で、静かに寝息を立てていた。
「おばうえ、読んで」
「ええ、いいわよ。こちらにいらっしゃい」
まるで母親になった気分で、シルビアは自分の膝の上をたたいた。ウィルは臆することなく、いわれるがまま膝に座った。
シルビアが本を読みはじめて間もなく、ウィルも疲れていたのだろう、うとうととしだした。
「ウィル、眠いのなら先にベッドで寝ましょうか?」
「ん……おじうえ待つの」
ウィルはシルビアだけでなく、伯父のジェレミーのことも慕っている。この三ヶ月の間、シルビアの次にジェレミーを待ち焦がれていたといっても過言じゃない。
とはいえ、まだ二歳の子どもが、そう簡単に眠気に勝てるわけがない。うつらうつらと舟をこぎだすウィルに、シルビアは優しく声をかけた。
「いいのよ、ウィル。伯父さまが帰ってきたら、伯母さまが起こしてあげるわ」
「ほんと?」
「ええ。少しだけ眠りなさい」
「うん……」
そういってすぐ、ウィルは目を閉じた。すやすやと寝息が聞こえてきたのを確認し、シルビアは兄妹を並ばせるようにソファに寝かせた。ウィルはわずかに身じろぎした。安心させるようにおなかをポンポンと叩いてあげると、またすぐに寝息を立てる。
天使の寝顔という言葉がしっくりくる光景だった。アメリアが素直にうらやましい。こんなに可愛らしい子どもたちに囲まれて、愛しい旦那様と多くの時間を一緒に過ごせて。
私もいつか、そんな生活が遅れたらいいのに。そんなことを願いつつ、気持ちよさそうに眠る子供たちを見守る。いつしかシルビア自身も眠たくなってきた。
今は一体何時かしら。ジェレミーは七時頃帰るといっていたけど、今はどこら辺にいるのかしら。長距離の移動で下半身に影響はなかったかしら。何事もなく、無事に帰ってこれるのかしら……。
だが思考が最後まで働く前に、シルビアの意識は深く沈んでいった。
ふわりと香る懐かしいにおいに誘われて、シルビアは目を開けた。子どもたちを寝かしつけていたつもりが、自分もすっかり寝入っていたようだ。すぐそばの子どもたちの姿がない。シルビアの肩にブランケットがかけられていることから察するに、アメリアがすでに部屋に連れていったのだろう。
ぼんやりとした頭であたりを見渡し、次の瞬間にははっとした。
「い、今何時!? レムは……」
「お目覚めかな、僕の眠り姫」
すぐ近くから、からかい交じりの穏やかな声がした。心臓がどきんと音を立てる。ゆっくりと振り向くとそこに、車いすに腰を下ろしたジェレミーが、以前と変わらない笑みを浮かべていた。
シルビアは出迎えにもいかず、居眠りをこいていたことがバレて、少し気まずくなった。
「レ、レム。おかえりなさい」
「ただいま、ルビ」
ジェレミーは相変わらず優しい表情で、シルビアを見つめてくる。頬に熱が集まるのを感じながら、シルビアはつっけんどんにいった。
「今回のお帰りはずいぶんと急でしたのね。私あまりにも驚いて、昨夜は一睡もできなかったのよ。おかげで少しうとうとと」
「急だったのは悪かったよ。モルセット卿から、アメリアが難産になりそうだって聞いたら、いてもたってもいられなくてね。一度向こうの屋敷によろうと思ったら、すでにこっちに向かってるっていうのだから驚いたよ。無事だったみたいだからいいものの、旅先で二度とあんな不吉な知らせは聞きたくないね」
ノースはどうやら、王都で仕事をしていた義兄にも大げさな手紙を送っていたらしい。道理で慌てて帰ってくるはずだ。
それにしても、とシルビアはひそかな不満を募らせる。三ヶ月ぶりに夫婦で再会したのに、心配していたのは妹と姪のことだけなのか。確かにジェレミーにとっては二人とも、血を分けた大事な家族には違いないのだが……。
その不満が表に出ていたのだろうか。ジェレミーは車いすをまた少し近づけてきて、シルビアのすぐ目の前につけた。
「もちろん、きみが元気そうで安心した。手紙もあまり送れなかったからね、心配してたんだ」
「レム……」
「三ヶ月もほったらかしにしてすまなかった。なかなか相手の商人がくせ者でね。新米伯爵の僕を信用していいものか、だいぶ疑ってたみたいなんだ。粘った甲斐あって、取引は成功したけど」
そっと手を取られ、存在を確かめるかのようにぎゅっと握られる。と思ったらそのまま腕をひかれ、ジェレミーの腕の中に飛び込む形になった。
久しぶりの感覚にシルビアがドキドキしていると、ジェレミーは耳元で笑った。吹きかかる息がくすぐったくて、思わず身をすくめる。
「ルビ、心臓の音がすごく早いよ」
「あ、あなたこそ……」
「僕はきみといる時、いつもこれぐらいだよ。……ん?」
ふとジェレミーの手が、シルビアの腰回りに触れた。途端、ジェレミーが奇妙な顔つきになる。シルビアは違う意味でドキリとした。
「なに?」
「いや、きみちょっと……」
ジェレミーがなにかいいかけたその時、閉じられていたはずのドアが開いた。わざとらしい咳払いが聞こえてくる。
「兄さま、お義姉さま。夫婦水入らずでうれしいのはわかるんですけど……。もうそろそろいいかしら?」
アメリアがあきれとも苦笑とも似つかない顔でこちらを見ていた。自分たちだけでも十分こっぱずかしい会話だったというのに、見られていたとなると羞恥が倍増する。もともとほてっていた顔がさらに熱くなる。
ジェレミーはくるりと振り返り、妹を見つめた。
「アメリア、それが三ヶ月ぶりに会う兄に対しての態度かい?」
「三ヶ月ぶりに会う兄でしたら、少しは産後間もない妹の体を心配してくれるはずよ」
アメリアはややふてくされたようにいうと、シルビアの方に口元を寄せた。
「私のことなんて、兄さまにとっては都合のいい言い訳に過ぎなかったんですわ。私やフローラのことは一目確認しただけで、すぐシルビアさまのことを探しにいっちゃったんですもの」
ジェレミーはばつが悪そうにそっぽを向いている。聞こえたらしい。
アメリアは兄からシルビアを引き離すと、容赦なく兄にいった。
「ウィルとうちの旦那さまが食堂で待ってるわ。兄さまはどうぞお一人で。私はお義姉さまとゆっくり参りますわ」
ジェレミーは眉をピクリと動かした。普段温厚な態度を崩さないジェレミーが、むっとした時の癖だ。
「シルビアは僕と一緒にいくよ。きみは先にいって、モルセット卿や子どもたちと待っててくれ」
「あら、そうは参りませんわ」
アメリアはすぐさま言い返した。
「お義姉さまは今、とても大事な身体なんですもの。とても兄さまの車いすを押しながらなんて歩けないわ。そもそも兄さまはどうして気づかないの? シルビアさまは今――」
「ア、アメリア」
シルビアは慌てて遮った。このままでは義妹は、シルビアがあえて隠していたことをすべてジェレミーに話してしまいそうだ。
だがジェレミーは珍しく狼狽したシルビアを見て、いわずともなにかを悟ったらしい。訝しげな眼差しをこちらに向けてきた。
「ルビ、僕になにか隠してるね?」
「えっ? な、なんのことかしら」
「ごまかさないでくれよ。もう二十年以上の付き合いだ。ヘタな芝居が通じるとは思わないでほしいね」
シルビアはなにかいおうとして……あきらめた。仕方なくアメリアに声をかける。
「アメリア。あなた先に食堂にいっててちょうだい。ウィルもおなかがすいているでしょうし、先に召し上がっててかまわないわ」
「お、お義姉さま……」
「いきなさい。アメリア」
命令よ。そこまではいわずとも、アメリアはしぶしぶうなずいた。
足音が遠くなっていくと、ジェレミーは再びシルビアに視線を戻した。
「それで?」
「せかさないで」
シルビアはわざとむくれて見せると、ドレスの上に羽織っていたガウンを脱いだ。
「近いうちにいう予定ではあったのよ。ただ、手紙で報告なんてつまらないし、どうせならびっくりさせてあげましょうと思って……」
ゆっくりと手をおなかの方にあてる。今はゆったりしたドレスを着て目立たないが、ジェレミーが不在だったこの三ヶ月で、シルビアのおなかは少しずつ大きくなりはじめていた。ジェレミーの目が大きく見開かれた。
「まさか……」
「そのまさかよ。この中に、私とあなたの子どもがいるの。そろそろ七ヶ月目に入るわ」
ジェレミーは信じられないというように首を振った。無理もなかった。シルビア自身、自分たちの間に子どもは望めないかもしれないとずっと思っていた。実際結婚をしてからの五年間、妊娠の兆候は一度もなかった。
子どもが欲しくなかったわけではない。とりわけアメリアが結婚し、ウィルが誕生してからというもの、シルビアは自分の中に眠る母性をたびたびゆすり起こされていた。いつかジェレミーとの間にこんな子が生まれたら、と何度も思った。だがそれをジェレミーにいうわけにはいかない。子どもができないことを悩んでいるのは、彼も同じだったからだ。
ジェレミーは呆然としていった。
「どうして黙ってたんだ? 僕が王都にいく前にはわかってたはずだろう」
「安定期に入るまではそっとしておきたかったのよ。アメリアにもフローラの出産が終わってから伝えたの」
「だからって……」
「だってあなた、子どもができたなんていったら、仕事にいけなくなっちゃうんじゃなくて?」
ジェレミーは口をつぐんだ。その通りだと思ったらしい。
シルビアはかがむと、ジェレミーの手を取り、おなかに導いた。
「あなたの子よ、レム。私は小さいころからずっと夢見ていたわ。愛する旦那さまと、愛する子どもたちと、素敵な家で暮らすこと。もうじきその夢は叶うわ」
ジェレミーはまだ衝撃が冷めやらないようだったが、押し当てたままの手に、内側からとんと小さな打撃があったことで、ようやく信じる気になったようだ。
「動いた、今」
「ええ、毎日動いているわ。とても元気なの」
「夢じゃないのか」
「もちろんよ。ここにいるのは正真正銘、わた――」
シルビアが最後までいう間もなく、体が突然ジェレミーの方に引き寄せられた。シルビアは驚くとともに恥ずかしくなった。もうじき父と母になる身だというのに、まるで新婚か若いカップルのようではないか。
ジェレミーはかすかに震えた声で、ささやくように告げてきた。
「シルビア……ありがとう。僕は今、世界で一番幸せだ」
「レム」
素直な感謝の言葉に、シルビアの目頭も熱くなる。
「私だって同じよ。こんな素敵な宝物をくださって、ありがとうジェレミー。……でも」
毅然としてシルビアは続けた。
「わたくしの幸せはここで終わらないわ。いいこと? この子を産んで立派に育て上げ、あなたよりも素晴らしい未来のウォルツ伯爵にさせる。そしてこの子がまた結婚して子を産み、それをあなたと見守っていくこと。そこまでがわたくしの幸せよ。わたくしの幸せは、あなたなくしてなんてありえないわ」
シルビアが微笑むと、ジェレミーもまた笑い返した。
「わたくしからの命令よ。これから先、あなたはずっと、わたくしとこの子と一緒に、未来を歩んでいきなさい。死が私たちを分かつまでは、永遠にともにあり続けるのです。……よろしくって?」
最後にじろりとジェレミーの方を見ると、たまらないとばかりに吹き出された。
「ごめん、おもしろがってるわけじゃないんだ。ただ、なんて今更なのかと思ってね」
「い、今更って?」
「僕が自らきみと離れるわけがないじゃないか。僕の幸せだって、きみなくしてはありえないんだから」
穏やかに告げられ、そっと手をまた握られた。
「では僕からも命令をしよう。これからの生涯、きみは僕の体のせいで、きっと様々な苦労をすると思う。だけど僕は、もうきみを手放すなんてことはできない。せめてきみに苦労を掛ける分、幸せにさせてあげたい。だから僕に、きみの未来すべてを預けてくれ」
手を取られたまま、懇願するように頭を下げられる。シルビアは一瞬沈黙した後、静かに答えた。
「仰せのままに。わたくしの愛しい旦那さま。わたくしの未来はすでに、すべてあなたのものですわ」
「ありがとう。僕の愛しいわがまま姫」
突発的に思いついた話です。
夕べ(というより今日)、夜中の二時まで粘って書いて、最終的に寝落ちした作品です。今になって慌てて続きを書き、どうにか完成いたしました(;´∀`)
昨日が自分の誕生日だったので、なんとなく誕生ものを……。
アメリア嬢は公開プロポーズの翌年に正式に婚約。
のちに改めてプロポーズされて結婚し、幸せに暮らしています。
もちろんモルセット家の庭は、彼女の手で日々拡大されつつあります……。
彼らの子どもウィリアムくんは、妹と従妹を溺愛し、でろでろに甘やかす危ないお兄ちゃんになるでしょう。
最後に。
もし仮にジェレミーのような障害を持つ方がいたとして、本当にお子さんができるのかどうか、素人の私にはわかりません。
でも、この主人公夫妻には幸せでいてほしいという作者の勝手な願いから、二人は念願叶って子供ができた、という設定になっております。
突っ込みどころが多々あるかと思いますが、なにとぞご容赦願います<(_ _)>




