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第七章 春風一番8

 葬儀会場を後にする沙世と光一。


 「あの吉永って言う人、自分の死を誰かに看取って欲しかったのね」

 立ち止り煙突を見上げ、沙世はため息をつく。

 光一は無言のまま、沙世に促されるように空に消えて行く煙を見上げる。

 「私、あなたのお父さんに頼まれていたの。あいつはいつか光の虜になって、この町を飛び出してしまうだろうけど、待っていて欲しいって」

 「父さんが?」

 コクンと頷いた沙世が、ちょこんと首を傾ける。

 「あの光は人の欲望の塊なんですって。その人の奥底に沈んでいるものをあぶりだされてしまうけど、それはやがて濾過されるはずだから、あいつなら乗り越えられるとオレは信じていると、お父様が言っていたわ」

 「ぼくには何一つ言わなかった」

 「仕方ないわ。お父さんも苦しんでいたのよ。一度はあの光を手にしてしまったのよ。微かに自分の中に残る欲望が、また目を覚ますんじゃないかって、怯えていたのよ。お母様があんな早くに亡くなってしまったのも、あの光が何らかの影響を及ぼしていたんじゃないかと、考えていたみたいだし」


 ザクザクと真新しい雪の上に、足跡を付けて二人は歩いて行く。

 沙世は教会の扉を開く。

 二人して中に入って行くと、光が差し込むステンドグラスを見上げた。

 「この絵」

 光一が呟く。

 今まで気が付かなかったけど、あの夢に何度も出て来たマリアと言う人に似ている。

 「神様っているのかな」

 沙世が呟く。

 そうか。父さんはここに答えを探しに来ていたのか……。


 光一は沙世の手を握り、行こうと微笑む。

 沙世がコクリと頷き、二人が出て行ったあと、ステンドグラスは燦然と光を放つ。


 そしてモノクロの思い出のシーンが、静かなバラードに合わせて流れる。


 ――光の彼方、あなたは何を見つけますか?

                                 


 懐かしい日々を綴るようにエンディングロールと共に映し出されて行く。

 それは細やかな幸せの日々。

 

 本当の家族写真を使いたいと、島根が言い出した時には、明日歩と奈緒はかなり困惑した。明日歩はともかく、奈緒は一般人だと申し出る二人に、根気よく説得を図ったのは、中島だった。

 「これは中田があなたへ残したラブレター。他の誰かをあてこむなんて、俺には考えられない」

 強い眼差しに、奈緒は押されて承諾をしてしまった。


「明日歩、ありがとう」

 目を赤くした奈緒に頭を丁寧に下げられ、照れ笑いで明日歩は、出来栄えはどうと尋ねる。

 父さんが母さんに残して逝ったラブレター。ありきたりの言葉だけど、オレには図りしれない二人だけの時間。そして、この人たちの思い。それをだいの大人たちが寄ってたかって仕上げたこの映画は、きっと一生の宝物になっちまうんだろうな。聞かなくても分かっている答えに、また頬を緩ませる。


 

 ――中田歩。あんた、いったい何もんだよ。


 扉を一歩外に出ると、その眩しさに明日歩は目を細める。

 中島が用意した記者会見。

 「一介の駆け出し新人にそんなの必要ないんじゃねーの」

 そう言う明日歩の言葉を無視して、良いから早く行って来いと背中を押す。よろめきながら、明日歩は後ろを振り返る。すっかり禿げ上がった頭に、ニット帽をかぶった野村が、シッシッと手を払ってみせる。その横で、ガンバと胸の前でポーズを取る木綿子。奈緒に関しては、ただ泣くばかりで、その肩を抱くであろう歩の写真を明日歩に見せ、間宮がにっこりと微笑む。


 だからあの日と同じに、少しだけ勇気を振り絞り、オレは前へと進み出られる。

 こんな日が来るなんて、想像もできなかったあの日。

 明日歩は目を細め、遠い日々に思いを馳せ、重い扉を押し開けた。



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