第七章 春風一番7
光一に呼び出された沙世は、不機嫌な顔で何と言う。
「さっきは悪かった」
前を歩いていた光一が、振り返る。
沙世は光一の手に光るものを見つけ、身体を固くする。
「沙世、ぼくと一緒に死んでくれ。孝信なんかに渡さない。沙世は僕の隣に居るのが一番ふさわしいんだ」
「光一、止めて。私と孝信は本当に何でもないの。お願い。信じて」
「っ沙世」
ぐったり倒れ込む沙世を抱きかかえ、光一は我を取り戻す。
「ち、違う。ぼくは、ぼくは……」
フラフラと立ち上がり、後退りをする光一は誰かにぶつかり、目を見開く。
ぼんやりと月明りに照らされた顔は、吉永だった。
「わしの果たせなかったものは、何だったか見つけてくれたかのぅ?」
光一は、虚ろな目で吉永を見上げる。
「儂もいろいろして来たがのぅ」
そして光一の血に汚れた手を見て、目を細める。
「殺してしまいたいほどに、儂は誰かを愛したことなどなかった」
「殺して……、殺していいものなんかない」
泣き崩れる光一。
吉永は目を見開く。
「愛は、愛はそんなに醜いものじゃない。父さんが護りたかったのは、大切な人の笑顔で束縛じゃなかった」
「だが、手放したくはなかったから、おまえは自らの手で殺めてしまったんだろう?」
「ぼくが、ぼくが馬鹿だったんだ。彼女が望む幸せなら……、祝うべきだった」
頭を抱え込む光一。
吉永は遠くをじっと見ている。
「儂もな、結局は戦いに戦い抜いてきたがのぅ、最後にどうしても勝てなかったものが、一つだけある」
光一は、吉永をじっと見詰め返す。
「孤独じゃよ。消しても消しても込み上げてくる闇は、どんな栄光があってもどんな大金があっても消せぬかった」
光一は、肩を震わせて泣き始める。
吉永はそんな光一の肩を抱く。
「おまえさんの父親は大したものだ。それをすぐに見破り、おまえ達家族のためにだけ生きることを選んだ。儂も、儂もな、もっと早く気が付くべきだった。あの光の向こうには得体が知れない厄介なものが待っていたかも知れんが、それに飛び込む勇気を持つことの大切さを」
死んだはずの沙世が、ぼんやりと光に照らされ出す。
「これは私たちの希望の光です。憎しみも悲しみも喜びもすべてがこの光が教えてくれる。生きろと輝く」
沙世がにっこり微笑む。
吉永はふっと笑みを漏らすと、光一の背中を押した。
「この光はな、おまえの父親が儂に託したものだ。正義に満ち溢れ、友を思い愛に生きた勇者の光に濁りはない」
驚く光一に老人は頷いてみせる。
「すまなかった」
吉永はそう言い残し、その場に朽ち果てる。
「この光は私の心臓です。この光を手にした者は戦い続けなければなりません……」
マリアの声が光一の頭の中に響く。
吉永の懐から光が天に向かって伸びていく。
「光の向こうには何が見える? 喜び? 悲しみ? 憎しみ? それとも……。すべてに打ち勝った時、何かが誕生する。難しいことじゃない。誰かを思いやる心。感謝する気持ち。それが力になり光を放つ。その先にはおまえにしか出せない答えがある。戦うことを恐れるな。さぁ、あの光の彼方へ……、行くがいい」
大きな夕陽に浮かぶシルエット。
和寿が振り返り微笑む。
そしてその光の中に、鼻歌を歌った和寿は消えていく。
夢?
ハッとして起き上がった光一は、目を擦る。




