第六章 光の向こう側15
この日を迎えられるとは、思わなかった。
――初夏の海辺を二人で眺めていた。
「映画も完成したし、来年には教壇に立てるように頑張るから、オレの傍でずっと一緒に、年を取って行ってくれないか?」
目を大きく開いたあずさが首を横に振る。
「オレと一緒になるのが嫌なのか? 役者は辞める。もう嫌な思いをさせないから」
「違うの。役者を辞めなくていい。私、強くなろうと思う」
あずさが微笑みかける。
波が光っている。日差しがまぶしい。
「そのまんまでいろよ。オレが護ってやるから、あずさはあずさのままでいい」
あずさは首を横に振る。
「それじゃだめなんだと思う。私はあなたを照らす灯台にならなきゃだめなの。それに明日歩だって、もう気が付いているんでしょ?」
ん? 明日歩が首を傾げる。
「私、ずっと考えていたの。あなたを攻めたこともあったわ。あんな顔じゃなかったらいいのに。もっと性格がひねくれてれば違ったかもって」
「ひどいな」
「そうひどいの。私は最低な女だった。自分に言い訳してばかりで、全部明日歩のせいにしていたの」
「そんなことないよ。あずさはいつだって、オレの灯台だった。間違わずにこうしていれれるのも、温かい光が導いてくれたからだよ」
きらきらと水しぶきが光り、明日歩は大きく伸びをした。
この海で、父さんが人を愛することの尊さを教えてくれた。どんな犠牲を払ってもその人を護る強さも弱さも、あの日、教わった気がする。
潮風にあずさの髪がなびく。
「孝文にね、あ、弟の名前なの。好きなら好きでいいじゃねぇかって、怒られちゃったの」
「無理よって言ったらね、あの子なんて言ったと思う?」
「なんだろうな」
明日歩が笑いながら答える。
「同じ人間だろう? 問題はないんじゃねーのって。そんな簡単なことじゃないって思ったけど、その通りなの。私は明日歩が好き。それは何物にも代えがたい真実だって」
今にも泣きだしそうなあずさの笑顔を、明日歩は抱き寄せる。
「もしも、もしも神様がいるなら、本当に運命でつながっているなら、きっと奇跡は起こるはずって、オレも信じていた。あずさ、結婚しよう。一緒に幸せになろう」
頷くあずさの頬に涙が伝う。
父親に連れられ、あずさが明日歩の下に歩み寄って来る。
一歩一歩踏みしめて。
父さん見えますか?
オレ、この人を一生掛けて護れるヒーローになります。
父親の手からあずさを受け取る。
娘には苦労はさせられないと、反対をされた。
何度も何度も足蹴にされ、挫けそうになった。役者じゃない自分ならと考えた日もあったんだ。
奈緒の横を二人で歩く。
オレはいつだって一人じゃなかった。気が付くと、こうして優しい眼差しを向けていてくれる人がいた。支えにもなってくれた。それがあなた、中島さんだ。
目を赤くした中島に会釈をすると、二人は神父の前に立った。
「お前もいつか分かるさ。人を愛するってすばらしいってさ。オレの場合は奈緒。お前はどんな人を選ぶのかな?」
この人がオレの選んだ人だよ。母さんに負けないくらいオレが幸せにしようと決めた人だ。何度だって誓うよ。この人だけは泣かさないって。
そして父さん、オレ決めたんだ。
もう少しこの光の世界で、頑張ってみようと。飲みこまれないようにそこから見守っていてくれよ。よろしくな。




