第一章 不良と正義1
乗りだけで生きている幼馴染の克己のピンチに、明日歩が選んだ方法は、ハチャメチャな方法だった。
「明日歩、昨日泣いてたでしょ?」
不意に背中を叩かれ、明日歩はぎくりとなる。
声だけで誰なのか、予想はつく。
この世で関わってはいけない相手、おずおずと明日歩は振り返る。
思ったとおり、そこには不敵の笑みを浮かべた西沢知美が立っていた。
明日歩はそれとなく視線をを外す。
ゆっくりさりげなく……。
何事もなかった様に歩き出そうとする明日歩だったが、そうはさせてくれないのが西沢知美だ。
なぜか知美は、幼稚園の頃から、明日歩に執拗に絡んで来る。
男勝りの口調で、ずかずかと人の心に入り込んでくるあたりが、あまり好きになれない明日歩である。できれば関わり合いたくないのだが、気が付くといつもそばに居て、お節介をしてくるのだ。
これを回避する秘策は、引き攣り笑顔で明日歩は首を伸ばす。
「居た!」
知美には克己である。
友達に軽口を叩きながら歩いている赤川克己を見つけ、駆け寄って行く。
知美は克己といるときは、余計なちょっかいはだしてこない。理由は分からないが、幼稚園の頃からで、行き成り肩を掴まれた克己が、訳が分からないまま知美とご対面させられる。
「克己、どいて」
「うるせぇブス」
「言ったわね」
「本当のこと言って、何か問題ですか?」
「もう、雑魚は黙っていて。私は明日歩に用事があるの」
「シッシ。明日歩には一生お前との用事はないってよ」
思わず大きく頷く明日歩を見て、知美はムッとなる。
「いい。覚えておきなさいよ」
プリプリと怒りながら歩いて行く知美を見て、明日歩はホッとする。
とにかく、知美には克己だ。
しかし、知美は余裕の笑みを浮かべていた。
それが一時的なものだということを、明日歩は身に染みて痛感させられてしまう。
「あんたね、バカなの?」
明日歩の前を陣取った知美が、呆れ顔で言う。
苦々しい笑みを浮かべた明日歩は、自分の運のなさを呪うしかなかった。
「こういうのを腐れ縁って言うんだな」
入学式の時、歩が面白そうに呟くのを、明日歩は忌々しく思っていた。
知美が、わざわざ奈緒と歩に挨拶に訪れていた。
明日歩の気も知らない知美が、嬉々とした笑みを浮かべ挨拶をしにやって来るのが見え、歩が肩で小突く。
「今年も一年間、明日歩君と同じクラスで過ごすことになりました。不束者ですがよろしくお願いします」
「まるで、嫁入りみたいな挨拶だな」
歩に冷やかされ、知美が頬を赤くする。
認めたくない現実に、明日歩はつい大きなため息を吐いてしまっていた。
地獄の一年の始まりである。
天敵である、克己は奇しくも隣のクラスに籍を置いている。
幻滅する明日歩を見て、知美がニンマリする。
そんな明日歩の嘆きを聞かされた克己が、ゲラゲラと笑いながら冷やかす。
「この際だから夫婦になってしまえば」
軽かるが敷くそんなことを口にしては欲しくない明日歩は、目くじらを立てる。
冗談じゃない。
それが克己の笑いのツボにはまり、笑いが止まらなくなる。
「そんなに怒るなら、本人に言えばいいじゃん」
笑いを堪えながら言う克己を、明日歩は睨む。
それが出来たら苦労はしない。
知美には、言ってやりたいことは山ほどある。
行ってしまった後、どんな仕打ちが返って来るかと考えるだけで、恐ろしくてできないのだ。
これは、幼稚園の頃からずっと変わらない。
悪魔的存在なのだ。




