第二章 不滅のヒーロー19
明日歩の男気見てやってください
薄暗い部屋に月明かりが差し込み、奈緒は天井を見上げていた。
息をするのも辛い。仏壇に飾られた動かない歩の笑顔を見るのも辛かった。
スッとふすまが開き、ぼんやりと光が差し込んでくるのに気が付いた奈緒が、そっと顔を動かし息を飲む。
ヒーローのコスチュームに、仮面を小脇にかかえた歩が、奈緒と呼びかけている。
「あ、ゆ、む?」
「奈緒、もう泣かないで」
ずっと聞きたいと思っていた声だった。
「歩、歩なの?」
「ああそうだよ。奈緒」
歩はそっと頷くと、仮面を被り近づいて来る。
会いたくて、会いたくてたまらなかった。
奈緒は震える手を伸ばし、歩の首に腕を回す。
夢でも嬉しい。生暖かい感触が伝わってくるのが嬉しかった。
目だけが仮面から出ている。
あの優しい目だ。
歩に支えられるように起き上がると、奈緒は胸にしがみついてしばらく泣き伏した。
ずっとそうしたかったんだと、奈緒は初めて気が付く。
「歩……」
「奈緒、もう泣かないで。奈緒の笑っている顔がいっち番好きだから」
「歩……」
奈緒は歩の胸に縋り付くように、何度も名前を呼び続けた。
「歩、どこにも行かないで」
「オレはどこにも行かない。ずっと傍に居る。だから元気出して」
ふんわりと頭に置かれた歩の手が優しく、何度も髪を撫でる。
華奢な肩に、伸びる柔らかな声。似ているけど全然違う。
「歩、歩」
その優しさに奈緒は癒され、久しぶりにぐっすりと眠った。
目が覚めると、奈緒はおぼつかない足取りで茶の間へ入って行く。
そこには、焦げた目玉焼きときゅうりの塩もみが食卓に並べられ、明日歩が照れくさそうに歩そっくりな声で、おはようと笑う。
奈緒は何も言わずに、きゅうりの塩もみを一口食べ、微笑んだ。




