第二章 不滅のヒーロー10
握りしめていた携帯が鳴り出し、奈緒は現実へと引き戻される。
これが歩だったらとどんなにいいのだろうと、表示された名前を呆然と眺めてしまっていた。
メールが入る。
もしや、冗談だよっていう歩からのものかと、藁をもつかむ思いで奈緒はメールを開く。
薫子からのものだった。
(奈緒さん、とにかく電話に出て)
折り返し掛かってきた電話に、奈緒はノロノロと出る。
「奈緒さん? 今、どこ?」
緊迫した薫子に、現実味が帯びてくる。
「家です」
掠れた声で答えた奈緒の言葉に薫子の声が被さる。
「歩はうちの病院にいるわ」
「はい。さっき警察から連絡を頂きました」
「もう出られるの?」
「何を持って行けばいいのか分からなくって」
「何をのんびりしたことを言っているの。いい、取りあえず保険証さえあればいいから、急いでこっちに来なさい」
「はい」
「奈緒さん、気をしっかり持ちなさいよ。あなたまでが事故に遭ったら、洒落になんないんだからね。明日歩には、明日歩には連絡したの?」
まるで上の空になっている奈緒を、薫子は歯がゆかった。
「タクシーが行くように手配をするから、あなたはそれに乗ってきなさい。分かった?」
「一刻を争うの。何もしなくていい。身、一つで来なさい。あとのことはいくらでも同にだって出来るから。じゃあ切るわよ」
こんな場面、いくらでも出くわしている薫子だが、相手が身内となると話は違う。
じっとしているのが辛かった。
正面玄関で、まだかまだかと奈緒の到着を待つ。
その間も、頻りに電話を掛け続けている。
やっと来た奈緒の顔を見た薫子は、思わず涙が込み上げて来そうになっていた。
寸前でグッと堪えた薫子は、気丈に振る舞う。
憔悴しきった奈緒を待合室の椅子に座らせると、薫子は赤ランプを怖い顔で見つめる。
手術が始まって、間もなく一時間が過ぎようとしていた。
バタバタと、廊下を走ってくる音が聞こえ、そちらの方へ目をやった薫子は、小さく手を上げて見せる。
薫子から連絡を受けた中島の到着だった。
出先で、到着に時間が掛かってしまったのだ。
「明日歩とは?」
赤ランプを心配そうに見上げながら、中島に尋ねらえた薫子は首を横に振る。
「まだ。何度も掛けているんだけど、繋がらなくって」
「俺から掛けてみようか」
中島が携帯を手にした時だった。
ソファーで項垂れている奈緒の携帯へ、明日歩から電話が掛かって来たのは。
まるで耳に入っていない奈緒に代わって、薫子が電話を預かる。




