激震
「うん!十和田450キロレースで、海が優勝した」
「ほう・・海って、鳩の名前なのかい?凄いね」
「本当の名前は、北竜号って言う」
「ほくりゅうごう・・って書いて、うみって呼んでるんだね?あの鳩」
こくんと頷く若菜・・きっと彼女にとって一番大切な鳩なのだろうな・・須崎は思った。
小半時、雑談を交わした後、幾分若菜の精神的な以前感じたような重みは、薄れているような気がした。何にしても多感な少女時代、須崎は敢えてこの娘の内面にまで踏み込む事は無かった。
その夕方、常連になっている菊に、安藤と一緒に顔を出す。今ちゃん、円ちゃんも、すっかり人当たりの良い安藤とは意気投合し、須崎とも以前のような関係に戻っていた。何しろ、自分達の大将が戻って来るのだ。やっと彼らにも数年の呪縛が開放されるのだから。
「わははは!今日はな、水揚げした毛蟹の一番良い物持って来た。どうだい?すーちゃん、あんどちゃん(安藤はそう呼ばれている)」
「美味いっす。東京じゃ絶対こんな生きの良いのは、築地にでも行かないと無理ですからね」
「そうだろ、そうだろ・・でも、東京へ行くまでには、採ってから時間も経ってる。鮮度は勿論こっちが上だあ」




