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「危険はありませんわ、ヴラチャラとして雇用しているわたくしが保障いたします」
「あっそ……」
ヴェラの周囲を浮遊する無数の人魂を眺め眺めながら、メイジーはそっとグリップから手を離した。
「普段はこの姿で町中を自由に漂っていますわ」
「……こいつら、ドローンってこと?」
「ええ。監視カメラにも映りませんし、何より『生きていない』ので口が堅い。わたくしの目が届かないウエストブリッジの隅々まで、よく風を運んでくれますの」
ヴェラがふっと息を吹きかけると、人魂たちは楽しげに円を描き、再び昼の光の中へと溶けるように透けていった。
「便利ね。うちのルンバにもその機能が欲しいわ」
言いながらメイジーは心中を隠すように無意識にヘルメットを弄ぶ。だが、すぐに気が付くと舌打ちをして小脇に抱えなおした。
「それで、その優秀なドローンオペレータが、非番の捜査官に何の用? 昨日の件なら、もう報告書の山に埋もれてるんだけど」
「もちろん。ご足労をお願いした理由がございます」
ヴェラが立ち上がり恭しく頭を下げる。
瞬間……スカートの陰から素早く影が飛び出した。
「ッ!」
ヘルメットを捨ててFBIアカデミー通りの動きで素早くホルスターに手を伸ばす。
が、影は驚くほど素早く距離を詰め、体当たりするようにメイジーを押し倒した。
「なっ、こいつ!」
芝生に背中を打ちつけ、肺から空気が搾り出される。
視界を塞いだのは、闇をこねくり回したような漆黒の毛並みと、ぬらぬらと光る赤い瞳。
「デア・シュヴァルツェ・フント」
「はぁっ!?」
「やはり懐かれましたわね。素晴らしい才能ですわ」
「食われそうになってるんだけど!?」
罵倒を浴びせるメイジーの顔を、冷たく湿った巨大な舌が容赦なく往復した。
肉食獣のそれではなく、なぜか古い教会の地下室のような、ひんやりとした泥の匂いが鼻腔を突く。
「どけ、この……っ、デカブツ!」
低く鋭い声で威嚇するが、黒い巨躯は喉の奥から……クゥーンという似合わない音を響かせるだけだ。
「あら、彼はただ主人に挨拶をしているだけですわ」
メイジーは顔を顰め、シグザウエルから指を離すと、巨犬の耳の後ろを苛立ち紛れに強く掻いてやった。
犬は満足したように喉を鳴らし、巨躯の割に軽やかな動作でメイジーの足元へと纏わりつく。
「主人の挨拶にしては、ずいぶん手荒じゃない」




