20 再び
「商会の長を辞めることは、商会を所持している私が認めない。」
(結局、断られてしまった。これでは何の成果も得られていない。交渉が得意でなければならない商会の者であるのに、、、。)
惨めな気持ちが自分を巡っていた。
しかし、公爵様はそんなことお構いなしに再び口を開いた。
「ハリー。君に私が持っている子爵の位を与えよう。」
何を仰っているのかわからない。私に子爵の位を与えるとはどういうことだ。
言っていることが全くわからなかったため、聞き返す。
「私に子爵の位を与えるとはどういうことですか? 唐突な話でわからなかったのですが。」
公爵様はハッとしたような顔をしてから、気まずそうに顔を伏せながらまた言葉を紡ぐ。
「君が子爵になれば、君がもし私に不敬を働いたとしても罰することができる。君が独立するという意味では、商会長を辞任するより、こっちの方がいいだろう。それに、私は初めてできた友を簡単に手放したくないのだ。もとより、君が私を友だと思ってくれていればの話だがな。」
いつもより饒舌な公爵様に驚くとともに、私を友だと仰ってくれたことに喜びを覚えた。
私だけが、昔街で遊んでいた頃を懐かしんでいるわけではなかった。
そのことを不安そうにしている我が友に伝えなければならない。
「カドリック。私が子爵の位を持ったら、商会を乗っ取るかもしれないぞ?それでもいいのか?」
カドリックは、私が久々に自分の名前を呼んだことに驚いていた。さすがに急転換しすぎたかと不安になったけれど、この方が今までよりずっといいと思い直して言葉を続ける。
「なんたって今の私は誰かさんのおかげで、立派な商人であるからなぁ。商会にいる皆も私を慕ってくれているし、案外乗っ取ることは簡単かもしれないぞ?」
やはりカドリックは驚いている様子だったけれど、先程までのこわばった表情がなくなり、昔に見たことのある顔に変わっていた。
「それはどうかな、ハリー。この僕の商会だよ?そんなに簡単に乗っ取れはしないさ。」
いつの間にか、私もカドリックも緊張が溶けているのを感じる。
それに、もう何に直面しても平気な無敵感に包まれる。人生一番のわだかまりがなくなったのだ。
カドリックもそう思っているようで、満足そうに微笑んだ後、話し出す。
「さあさ、料理がこのままでは冷めてしまう。早く食べよう。」
カドリックの言葉にコクリと頷いて、今まで置いていた食器具を再び手に取り、料理を食べる。
ところが、カドリックは料理を食べ始める気配がなかったので、どうした?というような目線を送る。すると、カドリックは目を片手で抑えながら少し震える声でこう言った。
「再び私の友になってくれてありがとう。」
私はその言葉に喉がきゅっと締まるような感覚に襲われたが、ゴクリと何かを飲み込んで、
「こちらこそ、ありがとう。」
と答えた。




