4.答案返却日
そうして期末テストも終わり、テスト休みなんだか夏休みなんだかわからない時期に突入した。久々の登校日である答案返却日は朝から太陽がギラギラときつい。
この日、蘇芳は悩んでいた。テストの点数ではない、そちらの方は危なげなくいい点数を叩きだしている。
実は昨日一平と会った時に、ちらりと「もうすぐ誕生日」と一平が話していたのだ。
(一平は夏生まれか。すごく「らしい」な)
そして誕生日プレゼントを渡すことを思いついた。
けれど突然見知らぬ高校生からプレゼントをもらったと言ったら、一平の両親が怪しく思うんじゃないか。あげない方がいいのかもしれない。でもプレゼントをあげたら一平が喜ぶかな――そうぐるぐる悩んでしまっていた。
そもそもプレゼントするといっても、何をプレゼントすればいいかわからない。今どきの小学2年生は一体何を喜ぶんだろう。ゲームとかはまだ早そうだし、あまり高価なものはよくない気もする。じゃあお菓子とか――アレルギーとかがあったら良くない。金銭感覚には自信がないし、ますます困ってしまう。
答案返却が終わり、ホームルームも終了して下校時間になったが、全くどうしていいかわからない。
その時、ふと聞こえてきた声に耳を奪われる。
「いや、俺の弟まだ小さいから。小2なんだよ」
「へえ、拓海んところ、兄弟でずいぶん年が離れてるんだなあ」
「まあな。でも小憎ったらしいぜ? 口ばっかり達者になっちゃってさ」
どうやら話しているのは1学期に転校してきた番匠拓海のようだ。話したことはないが、からっとした性格っぽいことは見ていてわかる。
「んで、今日は帰り駅前のロットリア寄ってかねえ?」
「おう。でもちょっと待ってて、俺図書館に本返してくるから」
「オッケー、下駄箱のところで待ってるぞ、拓海」
すぐ行くな、と拓海が教室を出て行くのを蘇芳はつい追いかけてしまった。蘇芳達のクラスは2階、図書館は3階。階段を上がっていく拓海に呼びかけた。
「あ、あの、番匠くん!」
「へ?」
拓海が足を止めてこちらを見た。しまった。悩みすぎてつい声を掛けてしまったが、全く話したこともないのに変だったろうか。クラスでも煙たがられている自覚があるんだから、まずかったかな――
「古川? どうかしたか?」
拓海は珍しいものを見たような顔で立ち止まって返事をしてきた。普通に話してくれそうな様子にちょっとほっとする。
「ご、ごめん突然呼び止めて。その、ちょっと教えて欲しいことがあって」
「ん? 何?」
彼の返事がごく軽く気楽な雰囲気だったので、ちょっとだけ肩の力が抜ける。蘇芳は拓海のところまで階段を上がった。
「さっき番匠くん、弟さんが小二だって話してた?」
「うん。生意気盛りだぜ」
「その――そのくらいの年頃の子の間で最近はやってるものとか、知らないかな?」
「へ? 何で?」
拓海が目を丸くして蘇芳をじっと見つめる。ちょっといたたまれなくて、少し早口になってしまう。
「知り合いの子でちょうど小二の男の子がいるんだけど、もうすぐ誕生日だからプレゼントをあげたいんだけど、何を喜ぶのかわからなくて。番匠くんの弟くんが同じ学年みたいだったから、つい」
ぽかんとした拓海の顔が自分を凝視している。
「……迷惑だったらごめん」
「なんだ! ただのいい奴じゃん!」
拓海が突然大声を出して、蘇芳の肩をバン、と叩いた。
「ごめんな、何となくとっつきにくい奴だとか思ってた! 何だよ、ただシャイなだけのいい奴かよ!」
「え、え」
「小二の男の子かあ。俺、今日弟に聞いてみるよ。んで明日――あ、明日も学校休みかぁ」
戸惑う蘇芳に拓海がスマホを取り出して見せる。
「ラインやってるだろ? ID交換しようぜ。弟に聞いてあとで連絡するよ」
「ご、ごめん、実は登録しただけでろくに使ってなくて。交換ってどうやるの?」
「そう? じゃほら貸して、登録するから――っと、これでOK」
とっとと自分のIDを蘇芳のスマホに登録してしまった。
「んでここ押して――スタンプ送れって。よし」
蘇芳に教えて自分のスマホにスタンプを送らせ「これで大丈夫」と満足そうだ。
「んじゃ夜連絡するな!」
「あ、ああ。よろしく」
拓海はさっさと階段を上がって行ってしまい、後に呆然とした蘇芳が残されている。
なぜ世の中にはこんなに勢いのある人間がたくさんいるんだろう。一平といい、拓海といい。
初めて登録されたクラスメイトとのラインの画面には、蘇芳が送った公式スタンプと拓海から返ってきた妙な動物のスタンプが並んでいる。
不思議な気分だった。
そして夜、予告通り拓海からのメッセージが届く。
<ごめん、うちの弟、自分が欲しいものしか言わねーんだわ>
そっか、聞いてくれてありがとう、何か自分で考えるよ――そう返事をしようとフリック入力に手間取っていたら次のメッセージが届いた。
<でさ、俺ちょうど明日服買いに渋谷に行こうと思ってたんだ。だからその時に来ねえ? 一緒に探してやるよ>
「え!」
思わず声が出てしまった。これは一体どう返事をしたものだろう。
嫌じゃない。嫌じゃないが、迷惑にならないだろうか。あちらから誘ってきているのだから、むしろ断る方が悪いのか?
<それとも明日は用事あるか?>
<ないよ>
つい慌ててそう返事を送信してしまった。
「あ」
<よし、じゃ明日の11時にハチ公の前な! 買い物してメシ食って遊ぼうぜ>
拓海からのメッセージに一瞬躊躇したものの、ドキドキしながら「了解」と返信した。そして大きくため息をついてベッドに転がった。
「緊張した……」
でも勝手に笑顔になっている。やっぱり嬉しい。
蘇芳は明日が楽しみになってきた。




