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Hermit【改稿版】  作者: ひろたひかる
番外小話
80/106

大切だから

お久しぶりの更新です。

旧作「Hermit」に時系列バラバラに投稿していた番外編を少しずつ投稿していきます。

1話完結方式。毎日というわけにはいきませんが、旧作から手直しができ次第、順次投稿していきます。

「父さん!」


 そう呼んで総一郎の胸に飛び込んだ優は、ちょっとだけ子供っぽい表情をしている。ああ、あれが娘としての彼女の顔なんだ、と一平は納得し、そしてそんな彼女の笑顔を取り戻せたことをうれしく感じる。

 ここは古川家のリビング、記憶を失って何ヵ月も行方不明だった優を一平がやっと見つけて東京に連れて帰ってきたところだ。


 思えば優と総一郎は、組織から逃げ出すときに離ればなれになって、数ヶ月後に再会してまたすぐに優が行方不明になったので、一年以上離ればなれだったのだ。親ひとり子ひとりの家族、寂しくないわけがない。

 次は今にも泣き出しそうな夏世のところでぎゅうぎゅう抱きしめられている優を見ながら、総一郎は一平に話しかけた。


「一平くん、本当にありがとう。あの子を見つけてくれて」

「いいえ、俺がやりたくてやったことですから。」

「いいや、君のお陰だよ。大切な娘をありがとう」


 そう言って総一郎は頭を下げた。一平は照れ臭くて思わず視線を外した。

 少し離れたところから、夏世の泣き笑いな声がする。


「優ー、よかったよお! 心配してたんだよ~!」

「心配かけてごめんね、夏世さん」


 家中集まって、優の無事を喜んでいる。夏世も蘇芳も、後ろでいつも通り静かに控えている駿河や京子まで揃ってにこやかに微笑んでいる。目の端が光って見えるのは気のせいじゃないだろう。


「ここはやっぱり、優ちゃんお帰りパーティーしないとね」


 泣いてちょっぴり化粧が落ちた夏世が言い出した。


「いいね、関係者みんな呼んでパーティーってのはどう?」


 珍しく蘇芳が尻馬に乗る。いつもの穏やかな笑顔だったからわかりづらかったが、蘇芳も相当浮かれているようだ。


「じゃ、客のリスト作るから、駿河、手配頼むよ」

「かしこまりました」



 そして駿河も浮かれている。蘇芳のオーダーに対する返事が食い気味だ。

 そしてとたんに張り切って支度を始めた蘇芳たちに、優はちょっと引きぎみだ。


「そ、そんな騒ぎにしなくても」

「いいんだよ、やらせとけば。みんな嬉しいんだから」


 そういって一平が優の頬っぺたを軽くつつく。

 そんな光景を、ゆったりとソファに沈んでいる総一郎が見ていた。




 南美や東、番匠と千鶴も呼んで和やかなパーティーが始まったのは土曜の夕刻だった。


 庭にテーブルを並べ、各テーブルにはキャンドル。会場を囲む木々や建物の壁に硝子のランタンを吊るし、クロスやリボンも白に統一して、やはり白い花があちこちに飾られている。「夏の宵の、ちょっと幻想的な雰囲気を演出したの」とは夏世の言だ。

 ケータリング業者がビュッフェを並べ、ワインやビール、ジュースも冷えていて、そこに宵の風が吹き、少し汗ばんだ肌に心地いい。


 ホームパーティーではあるけれど、みんなカジュアルにお洒落している。女性陣は軽いワンピースだったり鮮やかな色のスカートだったり。男性陣はさすがにネクタイはしていないが、それなりの格好だ。


「優、ほら」

「あ、ありがと一平さん」


 色鮮やかなノンアルコールのカクテルを受け取ってにっこりわらって話をしている優に、総一郎が話しかけた。


「優と一平君は仲がいいなあ」

「え」


 とたんに優は真っ赤な顔をしてうつむいてしまい、逆に一平は凍結してしまっている。

 そりゃそうだ。前々からお互い知っていたとしても「初めて彼女の父親に彼氏として紹介される」イベントなのだ。

 そんな二人を前に、総一郎は軽く笑った。


「隠すことはないよ。一平君は信用できる人間だしね、私としてはおつきあいするのを反対する理由はないよ」


 とたんに優はうれしそうに微笑んだ。――が、一平はまだ固まったままだ。


「うん、ありがとう父さん。父さんにそう言ってもらえて、うれしい」

「そうかい、仲良くするんだよ――そうだ優、ビールのおかわりを持ってきてくれないか?」

「はあい」


 うきうきとドリンクカウンターに走り去っていった優に、一平は内心「ちょっとまて置いていくなよ」的な悲鳴を上げている。

 そこにすかさず、ぽんと肩をたたかれた。


「うん一平君、だからね、信用してるよ」

「はい」

「大事な大事な一人娘だからね」

「はい……」

「やっぱりほら、父親としては苦労させたくないじゃないか。大事な娘の相手には、一平君みたいな信用できる男じゃないと」

「は――」

「大事な大事な、だ~いじな一人娘だからね」


「信用できる男」と「大事な」に力一杯アクセントを置いて、総一郎がにっこりと笑う。

 夜風は心地いいはずなのに、一平が着ているコットンのシャツは汗でべったり背中に貼り付いている。「はっはっは」と笑っている総一郎の目の中に、なんだか暗黒の気配を感じてしまうのは絶対気のせいじゃない。


 一平は蛇ににらまれた蛙の気持ちがわかったような気がした。




「父さん、はいビール」


 そこへ優が戻ってきて、総一郎の黒いオーラはふっと消えてしまった。途端にどっと汗が噴き出す。一平はここぞとばかりに手に持っていたグラスをテーブルに置いた。限界。もう無理だ。


「あ、俺、ちょっと汗かいたんで、着替えてきます……」


 へろへろとその場を立ち去る一平を、優は不思議そうにながめ、総一郎は「はっはっは」とにこやかに笑って、持ってきてもらったビールに口をつけた。


「優~! ケーキ食べようよ~!」


 ちょうどそこに南美が誘いに来て、女の子二人でスイーツのテーブルの方へ行ってしまった。途中で夏世も加わり、三人できゃあきゃあとケーキを選んでいる。その様子をのんびり眺めていた総一郎は、何とも平和な光景に頬が自然と緩んでしまっていた。

 いつの間にやら総一郎の後ろに立っていた蘇芳が


「総一郎さん」


 と、ちょっと呆れた顔で話しかけてきた。


「あんまりうちの一平、いじめないでくださいよ?」

「いや~、彼は実にいじり甲斐があるっていうか? いやいや、さっきのは本心だよ? 信頼に足る人物だと思ってるよ?」

「あれでもかなり奥手で初心ですからね、わかって牽制してるでしょ」

「いやいや、はっはっは」


 さすがは捕まっている間に組織のネットワークに仕掛けをして組織壊滅の足がかりを作った男、一筋縄ではいかない人物だ。ただの穏やかなパパではないらしい。


「総一郎さん、全快したらうちのグループの研究所ひとつ任せますから、ぜひ来てもらえませんか」


 蘇芳は思わずスカウトに走ってしまったのだった。

現在「ねこまんまdeハーミット~共同戦線はトラブルばかり!」を連載中です。

こちらは紅葉様作「おいしい料理のつくりかた」と「Hermit」のコラボ小説になっております。

「Hermit」のキャラ達が全員同じ高校の生徒だったら? というIF設定で、「おいしい料理のつくりかた」のキャラとばたばた活躍している作品になっています。こちらの「Hermit」とは多少設定が違ったりしますが、「Hermit」も「おいしい料理のつくりかた」も知らなくても読める内容になっていますので、よろしくお願いします。

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