Side優(2)
ふるり、と肌寒さを覚えて目が覚めた。
あたりは暗く、優は一瞬夜なのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。
倉庫か何かの中にいるらしく、高い位置にある小さな天窓からは白い光が差し込んでいる。まだ昼間のようだ。
「――そうだ、変な匂いをかがされて……」
まだ体は重く、軽く頭痛もする。おそらく薬か何かをかがされたんだろうが、これはその後遺症だろうか。
「気がついた?」
突然後ろから声がした。振り返った視線の先にはさっきの女性が座っている。よかった、別々の部屋に捕まっていなかったのは不幸中の幸いだと優は肩の力を抜いた。それと同時に体からぱさりと何かが落ちる。女性が着ていたグレーのパーカーだ。目を覚まさない優に掛けておいてくれたんだろう。
「あの、ここは」
「ごめんね、巻き込んじゃって」
女性は申し訳なさそうに頭を下げる。
「どこか具合の悪いところとかない?」
「ちょっと体が重いけど大丈夫です――ええと、ここがどこかわかりますか?」
「ここまで来るのに目隠しされていたから具体的にはわからないけど、少なくとも車で一時間以上は運ばれてきたよ。車から降ろされた時に少し潮の匂いがしたから海の側かもね」
そういって女性は大きくため息をついた。
「本当に申し訳ない。何とかあんたのことは守るから、とりあえず落ち着いて――って、あんまりパニクってないみたいで助かるよ」
女性は「ジュン」と名乗った。優も自己紹介する。
「ええと、それでジュンさんは」
「さん付けしないでいいから」
「――じゃ、ジュンはあの人達に心当たりがあるの?」
「う~ん」
ジュンが言いよどむ。「心当たりがない」というより、「優に話していいかどうか悩む」雰囲気だったので、優はジュンの言葉を待った。
「うん、要するに奴らは悪い奴で、あたしは正義の味方! それでどう?」
「どうって言われても」
何とも反応に困る説明だ。
優はやろうと思えばジュンの心を読むことができる。このあいまいで子供だましな返答の本心を探ることができる。でも、それをやる気はさらさらない。自分の超能力なら確かにそれができるけれど、人の心を読むのは基本的にやりたくない、本当に最後の手段だと思っているからだ。
まあ、万が一困ったことになったとしても、「ジュンを連れてテレポートで逃げる」ことができるから、正直優にはそこまでの危機感がない。
とはいえジュンも今の説明で納得してもらえるとはさすがに思っていないようで苦笑いしている。
「信じて、って言われても難しいかもしれないけどさ、優のことは必ず無傷で帰すから。そこだけは信じて」
真剣な目。
まっすぐ射抜くような瞳はどこかで見たことがある光を帯びている。そう、どこかの正義感が強くて、ひたすら前を見る愛しい男性のような――
(多分、一平さんと同じ正義感の強い人)
ただの勘に過ぎないけど、ジュンを信じてもいいかな、という気がしてきた。まあ勘が外れた時はひとりで逃げちゃえばいいや、と開き直ってみることにする。
「わかった、信じてみる」
「――あんた、そんな簡単に信じちゃって大丈夫? いつかひどい目に遭いそうだわ」
ニヤリと笑う顔は一平と全然重ならない。むしろ油断のならない相手と感じるけど、不思議と嫌な感じはしない。
ということで、優は心の中でこれからの方針を決めた。
ジュンはけんか慣れしているように見えた。自分としては超能力のことは是非伏せたいので、ジュンに頼っているふりをして、超能力でサポートしつつここから脱走する。最悪、どうしようもなくなったらジュンにわからないように能力を使う。そうしよう。
「さて、そうしたらこれからの計画なんだけどさ。
まずはここから出よう。もし外に見張りがいたら私に任せて。優は何とか逃げ出して、この番号に連絡して助けを求めてほしい。ジュンに頼まれたって言ってくれればいいから」
そう言って手近にあった紙箱の端をちぎり、転がっていたネジで紙に傷をつけるように携帯の番号を書いた。
「たかあきって男が出るから」
優はこくりと頷いた。




