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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第五章 飯田家
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87話 音羽の部屋

「……音羽?俺やけど」


 俺は音羽の部屋の障子の戸の前でそう言った。

 すると、しばらくしてスゥッと戸が開かれた。


「二郎さん……」


 音羽がじっと俺を見詰めとる。


「あ、あの……」

「お入りください」

「うん……」


 音羽はじっと俺を見詰める。

 俺は妙な気持ちになりながらも部屋の中へと入っていった。

 部屋の隅の燭台に蝋燭が一本灯されていて、小さな明かりが部屋を灯しとる。


「お座りください」


 お香がそう呟く。俺は畳の上にそっと腰を下ろした。

 部屋の真ん中には布団がすでに敷かれとる。


「二郎さん……」


 音羽も畳の上に腰を下ろすと……着物を脱ぎだそうとした。


 ……あかんって……この妖しい雰囲気もたまらんのにそんな事したら俺の理性が吹っ飛ぶ。


「ちょ、ちょっと待ってな?音羽……」


 蝋の灯りに照らされた室内で服を脱ごうとする十四の美少女の誘い。

 どれ程妖艶で魅力的な事か、それを止める精神力……

 どれ程の力を使う事か……


「……どないしたんどす?」


 音羽がそう言いながらも服を脱ぎ出しとる。

 着物を脱ぐと音羽は先程浴室で着ていたような薄い白い着物姿となった。


 あかん……色気が洒落にならんくらい半端ない……

 もう我慢せんと音羽抱いてしまおうか……

 お香どないしよ……俺もう無理かもしらん……


「音羽……あの……」

「……ふふ、二郎さんえろう辛そうどすね」

「……はぁ……音羽、お前ごっつ綺麗やで……そやけど……俺」

「お香さんどっしゃろ?お香さんの事お好きなんどすね」

「…………」

「男女の仲ない言うてましたやんか」

「はぁ……無いのは……ほんまにないねん……」

「へぇ?お好き同士のくせに」

「……お香、俺の事好いてくれとんのかな……」

「二郎さんそんなんよう分からしまへんの?お香さん二郎さんの事ごっつお想いなはられておりますよ?」

「…………」

「二郎さん鈍感なんやね?うちが二郎さんの事想ってんのも全然気づきませんどしたん?」

「いや……それは何となく気づいとったよ」

「……お香さんのお傷癒えましたら、すぐここ去るんどっしゃろ?」

「……そうやな、ここに長居は出来ひん、俺はここの住民に命狙われてもおかしないから」

「……二郎さん……」


 音羽が俺に寄り添ってくる。


「うち……二郎さんの事心からお慕いしとります」

「……その……あの……」

「二郎さん……」

「その事なんやけど、俺はな、音羽にはな、別のもっとええ人と結ばれて欲しい思うとんねん」

「…………」

「俺みたいな身分の低い男やなくてもっと身分の高いええ男と」

「……うち、二郎さんとお香さんと三人でずっと過ごしたい」

「ええ?」


 俺は音羽を見詰めた。


「生意気かもしれませんけど二郎さんがここの養子になって飯田家の跡取りにならはって、うちが正室で……お香さんが二郎さんの側室になってもらって」

「……ふふふふ、何を言うとんの、ふふふふ」


 俺はつい笑ってしもうた。


「うちお香さんの事も好きやから、そうなったらええなと思いまして」


 俺はうつ向いた。

 確かにそれもええ、ええかもしらんが……


「……無理や、どうしても無理やねん音羽」

「なんで?」


 音羽が俺を見詰める。


「俺らはこの小栗栖で余りにも人の命を奪い過ぎた」

「…………」

「必ず報復が来る、絶対にここにはな……住めんのや、すまん……」


 俺はそう言い頭を下げた。


「…………」


 音羽は黙ったままでいる。


「音羽、お前は美女や、ええ身分の人と結ばれて平和に暮らして欲しいと俺は思うとんねん、俺みたいな身分の低い男やのうてもっとええ男の人と結ばれて欲しいと思うとる」

「……そんなん……」

「その方が幸せになれるはずや」

「いやや、うち……いやや……」


 そう言うと音羽が泣き出した。

 あぁどうしよう……少女を泣かしてもうた……どないしよ……


「……音羽、まだ十四やん、な?これからやで?これから色んな人と会っていくんや、そないに生き急がんでもええんやで?」

「うち二郎さんが好きなんどす!」 


 そう言い音羽が俺に抱き付いてきた。

 どないしたらええんや、ほんまにどないしたらええの……


「……音羽、俺な、小栗栖にはよう住めへんよ、いつ命狙われるか分からへんもん」

「もう言うとりますやん、与右衛門様のお命奪ったの徳二さんや言うて」

「それだけちゃうやん、俺ここで小栗栖の人殺しとんねん」

「それは……」


 音羽が口ごもる。


「人の命奪うんは大罪なんやで?俺はここで何人の命を奪ったか」

「うちのせいや、うちが悪いんや、そんならうちも殺してよ!うぅ……」


 そう言うと音羽が俺に抱き付き泣き出してもうた。


「はぁ……」


 と、俺は溜め息を吐いた。

 どうしよ……ほんまにどうしたらええねん……


「音羽……俺はな?京に行かなあかんねん」


 俺は抱き付く彼女の頬を擦りそう言った。


「うぅ……」


 彼女は俺に抱き付き泣いたままでおる。


「京でな、女探さなあかんねん、音羽、俺は女ったらしや」

「…………」


 音羽が黙り込む。


「音羽には……もっとええ男の人と結ばれて幸せになって欲しいねん」

「うちは二郎さんがええ」

「ふっ……」


 俺はつい吹き出した。なんでそこまで俺なんかの事を想ってくれとんの。


「二郎さん、うちが今まで会うてきた男の方ん中で一番……男前やもん」

「……ふっ……そんな訳……」

「ほんまやもん!それにごっつ勇ましいもん!」

「……ふふ……」


 俺は苦笑いを浮かべるしかしょうがなかった。

 何を言うとんのこの娘……


「二郎さん、うち……どないしたらええんやろ……苦しい……」


 そう言い音羽が俺に抱き付く。


「俺……小栗栖には住まれへんもん……ここの人殺めてもうたから、何人も……」

「そんなん仕方あらしまへん事ですやん!」

「いやぁ……」

「うち、二郎さんとお香さんとずっと一緒におりたいもん!うちとお香さんお嫁にしたらええやん!」


 どうすんねんこれ、ほんまにどないしよ……

 何度も言うが、ほんまは音羽に他にもっと身分の高い人と結ばれて、静かに平和に暮らしてと言うつもりやったんやけど……

 思った以上に音羽の俺に対する想いが強かった。


 女にここまで強く求められた事がないからどうすればええんか分からんようになってもうた。


 ……どないしよ……


 そう思った時やった。

 すぅっと障子の戸が開かれた。


「あっ……」


 俺は小さく声を上げた。俺に抱き付く音羽も無言ではあったが驚きの顔を見せた。


 お香がそこにおった。


 手には鞘に納められた正宗を手にして……

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