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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第五章 飯田家
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78話 目覚め

 昼時、俺は音羽が運んできた飯を食っていた。

 玄米と汁物と惣菜、それらをありがたく頂いとった。

 音羽の言われた通りこの部屋から外には出んかった。窓も開けずにいた。

 用を足したくなれば、音羽が用意をした樋箱(ひばこ)にしていた。

 様子を見に来た音羽がそれを回収し、中身を綺麗に洗い終えまた再び部屋に持ってきとった。


 お香は相変わらず眠ったままでいる。

 俺はお香の寝顔を見詰めた。


『このまま、ずっと目ぇ覚まさへんのちゃうやろな』


 そんな事を思いながら惣菜を口に運んでいた時……

 すぅっと(ふすま)の戸が開かれた。


「……ここにおったか」


 ……徳二や、徳二がそこにおった。


「徳二……」

「二郎、えらい大変な目にあっとるんやな」


 そう言い部屋の中に入ってきた。手には刀の入った(さや)を手にして。

 俺はお椀を膳の上に置くと立ち上がった。


 こいつから……殺気を感じる……


「二郎……戦場(いくさば)ではえらい世話になったのう」


 徳二が俺を見詰めそう言う。


「……どないした」


 俺は徳二を見詰めそう呟いた。


「……二郎……あんたが邪魔なんや、この飯田家は俺のもんや」


 そう言うと徳二は鞘から刀を抜き出した。


「ふっ、正気かお前……」


 俺は徳二を睨み付けた。


「音羽は俺のもんや、飯田の家督も……」


 そう言い刀を俺に向けて構えとる。


「……血迷いよったか、高槻にさっさと帰っとけやガキが!」

「じゃかあしいわい!!この状況分かっとんかい!!」


 徳二の俺へ向ける殺意が強まりだす。


「音羽散々抱いてどっか行きよって!丹波で待っとる言う女居るくせにな!ほんでまた別の女連れてのうのうと戻ってきよってからに!!この女たらしが!!」

「…………」


 俺は無言でいた。確かにその通りかもしらん……


「音羽は俺がもらう……飯田の家も俺が継ぐ……二郎……貴様は邪魔なんじゃ!!音羽にとっても俺にとっても飯田家にとってもなぁ!!」


 徳二の殺気が相当高まっていく。

 このままやといつ斬りつけてきてもおかしくない。


 なるべくそれは避けたかった。興奮した徳二がまだ意識を取り戻さんお香にも斬りかかりそうな気がしたから。


「徳二……落ち着け……俺はこの家に槍返したらすぐ帰るつもりやってん、音羽にも飯田家にも何もするつもりなかったんや……」


 俺は落ち着いた口調で興奮する徳二にそう告げた。


「……ふふ、二郎、すまんけどな、お前の首討たなあかんのや」


 徳二が俺を睨み付け刀を構えたままにそう言う。


「なんでや……」

「お前が与右衛門殿殺した事にせなあかんからじゃ」

「……お前……まさか……」


 俺は徳二を睨み付けた。


「俺が殺したんじゃ、与右衛門をな」


 こいつ……

 そう思った時やった。


「徳二さん!!何してはるの!?」


 音羽が部屋に入ってきて徳二の腕を掴んだ。


「ええねん!離せや!」


 徳二が音羽の腕を振り払おうとしとる。


 ……今や!


 隙が出来とる徳二に素早く近付き、俺は徳二の腕を掴んだ。


「……物騒な事すんな徳二」


 俺は徳二を見詰め、渾身の力で彼の腕を掴みそう言った。


「……うるさいわい……」


 まだ十五の徳二は視線を落としそう言った。


「阿呆な事すんな、お前には一族背負うには早すぎる、さっさと高槻に帰れや」

「じゃかましいわ!!二郎!!手柄取ったからって偉そうな事抜かすな!!俺と勝負せえや!!」

「するか阿呆が……ここには怪我人おるんじゃ……おとなしゅうせえ」

「知るかそんな事!!俺は音羽とここで暮らしていくって決めたんじゃ!!俺が飯田家の跡取りになるんじゃ!!お前が邪魔なんじゃい!!」


 クソガキが……浅はかな考えしやがって……


「お前……しばくぞガキが……」


 俺は徳二の腕を掴んだまま睨み付けそう言った。


「やってみいや!」


 徳二も興奮して俺を睨み付けとる。音羽は心配そうに徳二の腕を掴んでいた。

 どうやら徳二と音羽はいつの間にか恋仲になっとるようやった。

 歳が近い分、意気投合する部分があったんやろう。

 十五の少年と十四の少女やから。


「徳二、俺は別にお前らの仲を裂こうなんて思うとらんし飯田家をどうこうするつもりちゃうねん」


 俺は彼を説くようにそう言った。徳二はじっと俺を見詰めとる。


「ただ与右衛門殿に借りた槍を返しに来ただけなんや、その後すぐに去るつもりやってん、音羽の事も……」


 音羽がじっと俺を見詰める。


「責任はよう取られん思うとった。お前が音羽と恋仲なんやったらそれでええ、俺は何もする気はないんや、そやから落ち着いてくれ」

「それは違いますよ二郎さん」


 徳二の腕を掴む音羽が俺を見詰めそう言った。

 俺は無言のままに音羽を見詰めた。


「あんたは惟任光秀様討ちましたやろ?それですねん」

「…………」

「その事実は消えまへん、手柄は二郎さん、あんたにあるんや、それが邪魔なんや!」


 何を抜かしとんの……意味が分からんようになってきた……


「そんなもんお前らが手柄取った言えばええやろ!!!」


 俺は声をあげてそう怒鳴った。

 ムカムカと怒りが込み上げてしもうた。


「秀吉様にすら知られとるんやろ!?今さら無理なんや!」

「知るかぁ!!お前らの主の与右衛門に命令された事やってのけただけじゃあ!!何でもかんでも俺のせいにすんなや!!」


「二郎!覚悟!」


 徳二が怒鳴り声をあげ油断をしていた俺の腕を振り払い、俺に向け刀を構えると刀を頭上に振り上げた……


 こいつ……本気で殺しにかかっとる……


 ビュン…………と徳二が刀を振り下ろした。

 俺はさっと後ろに下がった。徳二の一太刀は空を切った。


「徳二……ほんまに殺るつもりか……」

「覚悟せえ……」

「俺を斬って何になる」

「与右衛門殿殺した罪をこうむってもらう」

「阿呆め……」


 徳二が刀を構え、じりじりと詰め寄ってくる。

 クソが……こんな狭い部屋でどないすればええんや。


「……二郎……踏み込んで……」


 ……え?


 ふと後ろから声がした。


「踏み込んですぐに太刀奪って……何度もやったべ?あの踏み込み……」

「……お香!!」


 俺がそう叫んだ時やった。徳二が刀で斬りかかってきた。

 俺は瞬時に前に踏み込み、徳二の懐に入ると腕を掴み肩で徳二の胸に体当たりをした。

 俺の踏み込みの衝撃で徳二が後ろに吹っ飛ぶ。

 後ろの音羽も徳二に巻き込まれ、後ろに倒れ込んどる。


「お香!」

「……まだ……相手見て……」


 お香がそう呟く。

 徳二も音羽も廊下まで吹っ飛んどる。


「徳二……」


 俺は徳二から奪った刀の柄を握り締めて、徳二を睨み付けた。

 俺の心から殺気が高まっていく。


「場合によっては……殺すぞ……」


 俺はそう呟き、刀を構えた。

 徳二も音羽も廊下に倒れたままに、恐れの表情を浮かべている。


 俺は殺気を高めながら徳二をじっと睨み付け、歩み寄っていった……

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