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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第五章 飯田家
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71話 襲撃

 山科(やましな)の街道で俺が手をかけた死体達を目の当たりにし、心の内に罪悪感を強く感じていた。


 どんな人物であれ、そいつの人生を失わせてしまった事に対して…………


 胸の奥底より込み上げるものを感じてしまった俺は情けなくも(わらべ)が如く泣きじゃくり、路上でお香に抱き締められ慰められ続けた。


 今は小栗栖(おぐるす)へと向けて歩を進め、まともに整備もされとらん道を歩いていた。


「すまんかった……子供みたいな態度取ってもうて」


 俺は先程の泣きじゃくった事をお香に謝罪した。


「……ほんとだよ?子供みてえだった。だけんどね、おめさんの相手に対する思いやりの心はよく分かった。おら感動したよ……」


 そう言いお香が涙ぐんどる。


 ……もうええねん、こっちが恥ずかしくなるわ。 

 俺にとっては思い出したくもない行動やのに……


 胸が痛くなる胸糞の悪い事をしてしまったんやから。

 八人の人間の命を奪ったんやから……


「もういいべ?気にするこったねえ、いしは強い人だ。私が鍛え上げてやんべ?付きっきりでな!」


 お香が又そう言う。

 最近ずっとその言葉言うとんな……


 俺は無言のまま、小栗栖へと続く道を歩んでいった。




「そんでさ、小栗栖に対して何の恩義あんの?」


 そろそろ小栗栖の里に着く寸前になってから、ようやくお香がそう尋ねてきた。

 寸前になって何故俺の事を尋ねてきたかと言うと、山科から小栗栖の付近へ来るまで、お香は延々と自分の話をしていたからやった。


 武藏の国がどんなもんか、相模はどんなんか、駿河は、遠江は、三河は、尾張は、美濃は、近江は……


 延々と自分の放浪の話をしとった。

 よう喋りよるのう……と、俺は呆れ気味に話を聞いていた。



「……助けてもらったんかもしらんが、ただの囚われの身やったんかもしらん」


 小栗栖での恩を聞かれた俺は前を向き、飯田の槍をギュッと握り締めてそう言った。


「へぇ?意味わかんね」


 お香がそう呟く。


「ちょっと、色々と世話になって……」

「どんな世話?」

「色々と……」


 そない言えば具体的に何の世話になったんやろ。

 飯の世話や風呂の世話や……


 何よりも音羽が世話を懸命にしてくれた。


「色々とや」

「ふーん」


 俺がそう答えるとお香は俺から視線を前へと向けて、そう言った。






 それから一刻(2時間)もせん内に小栗栖の里へ着いた。

「…………」

 俺らは黙り込んで里を見詰めた。


 里から人の気配を感じひんねんけど…………


「……あれが俺がお世話になった御館やねん」


 俺はお香に里で一番大きく重々しい雰囲気をした屋敷を指差してそう言った。

「…………」

 しかし、お香はその屋敷を見詰めるが何も言わん。



「あそこの与右衛門様言う人にな、お世話になってん、この槍もな、飯田の名槍でな、なんでも相模の国から足利の将軍を……」


 俺は屋敷に歩みながらお香にそう言った時やった……


「……二郎……ちょっと待ちな……妙な感じすんべ……」


 お香が静かにそう言うが、俺も同時にその雰囲気を感じた。



 これは……



 明らかに殺気や。

 俺らを殺そうとする気である。


 お香は素手や、武器は持っとらん。

 しかし俺は槍の柄を強く持ち、辺りを警戒した。 


「……そんな訳あらへんぞ……ここいらの里の連中は味方のはずや……」


 俺はお香にそう言いながらも、半ば自分に向けてそう呟いた。


「……そうであって欲しいけんど、私達は敵っぽいよ……」


 お香がそう呟き、辺りを見渡す。

 依然、敵の姿は見えんが……


 殺意の気配がピリピリと伝わる。

 足軽で修羅場を経験してきた俺にはよう分かる。


 完全に俺らを狙って殺そうとしとる気配を感じる……


「……来るよ……二郎……気を付けて」


 お香が静かにそう呟いた瞬間……


 脇の藪から槍を持った五人の男が姿を現し、俺とお香に突進してきた。


 ……なんでやねん……

 なんでこんな所で襲われなあかんねん……


 意味も分からんかったが喚きながら突進してくる素人同然の隙だらけの男の太股を突き、動きを止めた。


 お香は突進してくる男の槍を交わすと同時に膝で男の顔面を強打している。


 男の鼻が砕け、血が吹き出しとる。


 お香はその男から槍を奪うと残りの男に対し槍を構えた。

 俺も残りの三名に対して飯田の槍を構えた。


「太刀持ってる奴いねえんだな、残念だね……あったら奪って全員成敗してやってたのにさ……」


 お香が殺気を放ちながら余裕を持ってそう呟く。


「まぁええがな、事情聞かんと」

「そうだね」


 俺は構えていた槍をぐるりと回し、槍を構える男三人に向けて再び槍を構えた。そして……


「どういうつもりじゃ、俺は飯田与右衛門様にお世話になり、お会いしに来ただけやぞ……」


 男達を睨み付け、槍を構え続けた。


「じゃかあしいわ!」


 槍を構えた男の一人がそう騒ぐ。


「…………」

 俺は無言のまま男を睨み付けた。


「理由言いな?!なしておら等襲おうとしたんだべ?!」


 お香がそう叫ぶ。


「…………」

 しかし相手は何も言わん。


 お香……ここは山城の国やぞ……

 二年住んどるんなら畿内でお国言葉が通じんのは分かっとくれや……


「覚悟せえ反逆者め!葛原(かつはら)!」


 男の一人がそう叫んだ。

 すると……


 三人おった男全員が俺に向けて襲い掛かってきた。


 ……遅いわ……


 俺は飯田の槍を左から右に向けて無造作にぶるんと振り回し、突進する男三人の槍を一斉に全て払った。

 飯田の槍の重さのせいで連中の槍全てが払われる。


 全員隙だらけで今なら三人の首全てを突いていけるが……


 俺は敢えてとどめを刺さずに槍を構えたままでいた。

 隣のお香も槍を構えとる。


「……反逆者ってなんや……俺は今この小栗栖の地に来たばかりやぞ……」


 俺は三人の男を睨み付け、槍を構えそう言った。

 残りの二人、俺に太股を刺された奴とお香に鼻を折られた奴は依然倒れ込み悶絶をしとる。


「……言え……なんで襲ってきた……」


 俺は三人の男の一人を睨み付けそう言った。


「言いな?」


 お香も槍を構え、そう言った時……


 サッ……

 と鼻を強打された男がお香に掴みかかろうとした。裸越しのままに……


 恐らく、不意を打って掴みかかろうとしたんやろう。

 しかし、お香は瞬時に身を交わすと男の脇腹に槍を突き刺していた。


 …………やってもうたか…………

 この小栗栖で、殺生してもうたか…………


 俺はその光景を見詰めそう思った。


「……すまねえ二郎……」


 男の脇腹から槍を抜くとお香は男三人に槍を構え直しそう言った。


「……油断せんように……こいつら本気で俺ら殺る気や……」

「あぁ……」


 俺がそう言うとお香は小声でそう返事した。


 なんで小栗栖の里でこないな争いを……


 与右衛門……


 どないしたんや…………

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