70話 謝罪
正午を少し過ぎた頃、俺とお香は京の都へと入った。
俺は飯田の槍を携えていていた。お香は飯の入った袋を手にして歩いている。
お香は亀山へ向かう時に持っていた槍は手にしとらん。
多分やけどうちに置いたままでおるようや。どうせ安い槍やしええやろうが……
「どうすんの?先に小栗栖行くの?それか久を探すの?」
俺と並んで歩くお香がそう言う。
「……先に小栗栖行くわ」
「へぇ、京から近いの?」
「そこそこはな……そやけど……」
またあの街道歩くんか……俺が小栗栖から京へ向かう時に、賊どもを蹴散らせたあの山科の街道。
さっきの盗賊の遺体があった荒野の横を通るのも嫌やったけど……
今度は俺が殺した奴等ばっかりやから、そこを通るのにかなりの抵抗を感じる。
「だったら行くべ、道知ってんの?」
お香が俺の横顔を見つめそう言う。
「まぁ……な……」
俺はそう言いながらもうつ向いた。
「……どうした?元気ねえね」
お香がじっと俺の横顔を見詰める。
「……別に……」
「絶対なんかあるね、言いな?」
「……お前と同じや……俺が殺した賊どもの死体のあるとこ通らなあかんねん……」
俺はうつ向き、そう呟いた。
「……なら私が供養してあげるよ?それなら良いでしょ?」
お香が俺をじっと見詰めてそう言うが、俺は彼女の目を見られなかった。
俺が殺めた死体達を目の当たりにすると言う事に恐怖を抱いているからや。
「大丈夫だよ二郎、きちんと供養してやんべ」
「十人の死体やぞ!そのうちの八人を俺が殺したんや!賊とは言え俺は!」
俺は立ち止まり、感情的になり声をあげてしまった。
それほどに恐怖心と不安感が高まっていたからである。
怖い……
俺が殺めた死体達を見るのがただ単に怖かった。
その死体達を見ると大きな罪悪感に襲われそうやったから……
「大丈夫だよ?おら……私がずっと付いててやんべ、怖がる事ねえよ?」
お香が俺の両肩に手を置いて俺をじっと見詰めそう言った。
優しく諭すように……
「…………」
「おめさんはさっき怖がってた私に優しく諭してくれたよね、次はおらの番だ」
「お香……」
俺は少し涙ぐんでしまった。
「ほら、男だろ?泣きなさんな、先行こう?」
お香が俺をじっと見詰めてそう言った。
言ったが彼女も少しだけ涙ぐんでいた。
「……分かった、先を行こう。山科言う所から、ぐるっと西に向かうんや、そしたら小栗栖言う集落に着くわ、他の道もあるんやろうけど俺は他の道を知らんから……」
「ならその道行こ?山科は私も知ってるよ?武蔵から京に来る時通ったよ、二年ぐらい前だけんどね」
俺らは再び並んで京の街を歩いていった…………
京の都を一刻(2時間)も歩かない内に山科の街道に俺達はいた。
久のおるであろう京の都はひとまず通り過ぎ、ひたすらに小栗栖へと向けて歩いとった。
そろそろ……あの争いのあった場へと着く。
ごっつい胸糞が悪くなってくる。
俺は一切喋らずに重い飯田の槍の柄を握り締めながらも歩を進めた。
隣のお香も俺の雰囲気を感じ取ったのか何も話さずにおった……
「……はぁ……」
例の場所に来た。
たったの三日前に殺し合いをした例の場。
その場には遺体達がまだ散乱していた。
真っ黒で大きなカラス達が集まり、その腐敗した肉をついばんどる。
「くそっ!」
俺はそう言い死体達から視線を逸らした。
その地は未だに紅色の血で染められている。
「供養するよ、二郎、手を合わせてね」
そう言うとお香は手を合わせ念仏を唱え出した。
『……すまん……すまん……』
許してくれ、などとはとても言えんが俺はただひたすらに謝罪を続けた。
お香はずっと念仏を唱えている。
「くっ……うぅ……」
手を合わせていたが、涙が溢れだし俺はその場にしゃがみ込んだ。
「すまん……すまん!すまん!!」
俺は泣きじゃくりながら地に頭を付けて、死体達に頭を下げた。
俺は地に頭を付けて嗚咽を漏らし泣いていた。
「…………」
背中に温かい感覚がする。
念仏を唱え終えたお香がひれ伏す俺の背に手を当てていた。
「もう供養は終わったよ」
「…………」
「さぁ、立って?先を進むんだ二郎」
「……あぁ……」
俺は涙を拭い立ち上がった。
目の前に転がる死体達の腐敗は酷い。
「はぁぁぁ…………」
俺は深く息を吐いた。
「さぁ行こう、ずぅっとここに居てても仕方ねえよ?」
そう言うとお香が俺の背を押した。
「俺は……なんちゅう事を…………」
お香に背を押され、とぼとぼと歩きながらも俺は目を押さえた。
涙が止まらん……
「…………」
お香は何も言わずに背を押し続けた。
「うぅ……うぅ…………」
歩きながらも嗚咽を漏らして泣き続けてしまう。
「二郎?」
「……うぅ……」
お香が俺の向かいに立ち、俺の額に額を当ててきた。
「おめえさんの気持ちは皆に伝わっとるよ?大丈夫だ、仏様に救われるべ?な?」
「……ぐすっ……」
「人斬っておめえさんみたいに悔いるもんなんてさ、そうは居ねえよ?二郎、言い方おかしいかもしんねえけど皆感謝してるよ?な?」
「……そやけど……」
「辛いのは分かるけんどさ、おめえさんのおかげで助かった命もあんだ、ね?」
「…………」
「おめさんは優しいね……」
そう言うとお香が俺をギュッと抱き締めてきた。
「……うぅ……」
「泣き止むまで、おらがずっと抱き締めててあげるからね?」
「…………うぅ…………」
小栗栖へと続く畦道で俺はしばらくお香に抱き締められていた……
強く……強く…………




