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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第二章 山崎の戦い
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23話 小川と蛙の声

 夕方、休憩を取り終えたのち又出発を命じられ完全に日が暮れるまで先をどんどんと歩かされた。

 京の都は目前やけどまだ到着しないでいる。

 日は暮れ、周囲は完全に真っ暗闇になった。


 武士か足軽大将なのか分からないが、その男の付き添いにいた若い男が火を起こし松明(たいまつ)に火をつけた。

 それと同時に周囲が明るくなり俺の周りの足軽兵の顔が若干確認出来る。


「今夜はここで休むからなぁ!みな明日に備えてゆるりと身体休ますようになぁ!」


 あの大将らしき男が大声を張り上げて俺らにそう告げている。

 男がそう言っている間、俺らを引率しとったもう一人の若い男が道の脇にゴザを敷き、それを覆い被せるように蚊帳(かや)を立てて居た。


 俺らはゴザすら支給されてへん。

 腹も減るが飯の支給は握り飯一つだけやしな。

 大将用に建てられた簡易な蚊帳の寝床。

 その脇に立てられた松明の火の灯りが周囲一帯をよく照らしている。

 周りでは握り飯を食らう連中がちらほらと居たのを確認出来た。

 握り飯を食う連中を見ると俺も釣られて支給された握り飯を食いたくなるが近江への道のりはまだまだ遠い事を知っとった俺は竹の水筒の水をがぶがぶと喉に長し込み我慢した。


 水筒にメダカでも入っててくれとったらええのに……

 それ程に空腹を感じていた。



 大将どもは透け透けの蚊帳の中で今は寝とる。

 そやけど、あいつらさっき男同士やのになんや気味の悪い事しとった。

 松明の灯りに照らされて中の様子がよう見えてた。

 俺ら少数隊を引率しとった大将の男と若い男が男女の営みのような事をしとったんや……


 気持ち悪うてよう見てられへんかった俺は道の脇の小川の側に寝そべった。

 ゴザも無いままに武士の服を汚すのも嫌な俺は甲冑を着込んだままに寝そべっていた。

 少し蒸し暑さも感じるが寝られん程やないし、この程度で()を上げとったら戦の時すぐに殺られる。


「……ふぅぅぅぅ……」


 ちょろちょろちょろ……と弱々しく流れる小川の流れがすぐそばで聞こえる。

 遠くでグワァ、グワァとヒキガエルの鳴き声が耳に入る。

 その音の交わりが心地よい。


 俺は目をつむりながらその音を聴いている内に深い眠りについていった……




「…………」


 目が覚めると小川の音は聞こえたがカエルの声は聞こえて来んかった。

 周囲は陽が昇りだしうっすらと明るくなりつつあった。

 カエルの声の代わりに足軽連中の起き出す音やイビキが聞こえてきていた。

 早朝や。

 おおよそ明六つ(5時~6時)ほどやろう。

 俺は起き上がると紙の袋から握り飯を取り出し、一欠片(ひとかけら)だけ口に運んだ。

 今回はおかんのアユの干物は持ってきてない。

 俺が久を連れて家に帰ったり、俺と兄貴が急に戦へ駆り出されたりと色々と突然な事があったからちゃんと用意する暇も無かったんやろ。

 そやけどフナの干物か干し柿とかは何とかならんかったんかいな……

 突如の事で頭回らんかったんやろか。

 そやから俺の食料はこの握り飯一つしかあらへん。

 そやけどさすがに近江のどっかで飯は支給してくれると思う。

 それまではこの握り飯一つと水で()()りせなしゃあないんや。



 休憩場を出発して一刻(2時間)が経つ。

 もう京の都に入っていた。

 俺らの少数隊は鴨川の土手を行進しとった。

 河原には物置小屋が見える。

 あの時は河原におる俺が遠くから土手を行進する兵達を目撃し、すぐに久の手を引っ張って小屋に隠れたんやけど今は逆やった。


 俺がその兵となり鴨川の土手を行進しとる。


「…………」


 俺は無心であの物置小屋を見詰めた。


 ……俺は死なんぞ……絶対に……


 行進しながら俺は持つ槍の柄をぎゅううっと握り締めた。

当時の時間の概念は非常にアバウトで一刻の長さも昼と夜、季節によりかなり変動していたそうです。

ここでは一刻を約2時間にしています。

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