厳蒔弓弦
「 玄武、この神社には『 四魂は無い 』と言ったな。
盗まれでもしたのか? 」
玄武
「 ──いや、盗まれてはない。
壊されたようだ 」
厳蒔弓弦
「 壊された?
四魂を壊すとは随分な罰当たりな事をする奴が居たものだな 」
玄武
「 霊観の弱い人間とは恐れ知らずなものだ 」
厳蒔弓弦
「 祭殿に祭られていた四魂を壊したのは悪徳陰陽術師ではないのか? 」
玄武
「 いや、それは無い。
悪徳陰陽術師は四魂を壊すような罰当たりな行為はしない。
どんなに悪どい悪さをしても、天──〈 久遠実成佛ぶつ 〉に唾を吐はくような真似はしない。
〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉の存在を畏れているからだ 」
衛美
「 へぇ……何なんか以外なのね… 」
玄武
「 〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉に罰当たりな事をする生物は地球上を探しても人間だけだ。
嘆かわしい事だな 」
衛美
「 ……………… 」
厳蒔弓弦
「 悪徳陰陽術師でなければ誰なんだ?
この団地に暮らす者か? 」
玄武
「 いや、違うな。
他県の人間だ。
四し魂こんを壊した張本人はとっくの昔に死んでいる。
子孫達は悪因縁を受け継ぎ、様さま々ざまな原因不明の現象に悩まされているようだ 」
衛美
「 何なんで子孫達の現状を玄げん武ぶが分かるの? 」
玄武
「 式神に調べさせたからな。
故意で四し魂こんを壊した以上、子孫達が救われる道は1つしかない 」
衛美
「 あるの?
救われる方法が! 」
玄武
「 まぁあ。
山口県の何ど処こかに居いる本ほん物もの── “ 偉大な哲学者 ” に助けを求める事だ。
人間の身体からだには限界と寿命があるからな、既に亡くなっているかも知れない。
子孫が居いれば〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉の教えを受け継いでいるかも知れないな 」
衛美
「 山口県……。
それって、學まなび舎やで勉強してる人達が、車に乗り合わせて毎月1回は行ってる所…だったりする? 」
玄武
「 何なんだ、それは知ってるのか。
衛えい美みは知らないと思っていた。
意外だな 」
衛美
「 知ってるわよ!
私は行った事はないけど、衛えい夛たは次期当主として必ず参会してるみたいだし。
車で山口県へ行くなんて大変よね。
片道9時間も掛かるんだもの 」
厳蒔弓弦
「 玄げん武ぶ、原因不明の現象に悩まされている子孫達に “ 救われるの道がある ” 事を教えるのか? 」
玄武
「 教える義理はないな。
何な故ぜ、教える必要がある?
第一、信仰心の欠片も無い子孫達だぞ。
教えたとしてだ、素直に聞く耳を持つと思うのか?
家庭に拝む対象も無く、〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉の存在を信じ、敬う[ 敬神 ]と、両親をはじめとする先祖の恩に感謝し、大切にする[ 崇祖 ]を否定している。
家族一緒に墓参りをして、先祖と自分との関係に思いを馳せる事を通とおし、人間の力を超えたものに対する畏敬の念を深める為の[ 宗教的情操 ]も欠落している。
先祖代だい々だい世話になっている菩提寺すらも蔑ろにし、先祖代だい々だい続く家墓も勝手に墓仕舞いするだけでなく、納骨されていた先祖達の遺骨を散骨処分するような罰当たりな奴等だぞ。
仮に教えたとして、素直に頼ると思うのか? 」
衛美
「 そ…そんなに酷いの?? 」
玄武
「 〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉が定さだめられた大自然の法則から外れる罰当たりな[ 葬送をすすめる会 ]の会員でもあるし、[ 葬送 ]を家業として世間にも広めているしな 」
衛美
「 えっ……。
それって…かなり拙まずい事なんじゃないの??
罰ばちとか祟たたりが起きる原因を自分達で作ってるって事よね?? 」
玄武
「 [ 罰ばち ]や[ 祟たたり ]は〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉からの[ 合図 ][ お知らせ ]だ。
墓や骨が祟った結果ではない。
抑そもそも、墓や骨は祟りはしない。
〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉が、墓や骨を粗末に扱うという間違った考え方から救い出し、正しく供養をしていくように人間を善ぜん導どうしている事を人間が理解しなければならない。
骨や墓を粗末にして平気な人間が増えれば、何なによりも人間の尊厳が失われ、社会も大きく乱れていく。
間違った考えに傾いていかないように、人間は〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉が定さだめられた大自然の法則の存在を知り、学ばなければらない 」
厳蒔弓弦
「 然しかし、現代社会では既に[ 葬送 ]は世間に浸透してしまっている。
当たり前のように墓仕舞いはされているし、様さま々ざまな自然葬も増えて来きているだろう。
散骨,手元葬,ダイヤモンド葬,土葬,樹木葬,海葬,海洋葬,空葬,バルーン葬,宇宙葬…未まだ々まだ探せば他ほかにもあるだろうしな。
[ 葬送をすすめる会 ]の支部が日本中にあり、自然葬を薦める寺まであるしな。
幾ら誤った事をしているとはいえ、日本全国に広まってしまったこれ等らを正す事は容易ではないだろう 」
玄武
「 放っておけば、人間の尊厳は失われ、今以上に社会は乱れ、治安は悪化し、暮らし難にくくなるだけだ。
人間は[ 罰ばち ][ 呪のろい ][ 祟たたり ]の類たぐいが昔から大好物だからな。
原因不明の現象に耐えられなくなれば嫌いやでも霊能者,占い師,祈祷師,祓い屋…等などを頼り、大金を叩はたいて助けを求める事だろう。
カモり放題ではないか。
オカルト業界は益ます々ますボロい商売になり、面白くなるぞ。
見物だな 」
厳蒔弓弦
「 …………否定はしない… 」
衛美
「 ……でも…自分達よりも先に子供が亡くなって跡継ぎが居いないとか──、子孫に迷惑を掛けたくないとか──、子孫は居いるけど嫌いやがって跡を継いでもらえないとか──、本ほん当とは先祖代だい々だいから受け継いでいる家墓を守り続けたいと思っていても、どうしようも出来ない事情で泣く泣く墓仕舞いをしないといけない人達が居いるのも事実でしょ?
そういうやむにやまれない事情で墓仕舞いをしないといけない人達も[ 罰ばち ][ 祟たたり ][ 呪のろい ]を受ける対象になってしまうの? 」
玄武
「 衛えい美み、〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉からの[ 合図 ][ お知らせ ]だと言ったばかりだろう…。
それは人間の勝手な事情だ。
そうならないようにする為の努力を散さん々ざん怠おこたって来きたツケが結果となって現れただけだ。
自業自得というものだ。
〈 久遠神しん実成佛ぶつ 〉の定さだめられた大自然の法則には、人間の都合も事情も関係無い。
抑そもそも、世界は人類を中心に動いていない。
大事な事だぞ、忘れるな 」