♥ 下校 6 / ルルゥアンリィ 4
衛美
「 足りなくて困っている時に然り気無く出して助けてあげる優しさが丁度いいの。
他人の分も支払いたいのなら、喜んでくれそうな人を選んで 」
衛美はレジで自分の支払いを済ませると、境戸託司をレジに残したまま、ルルゥアンリィを1人で出た。
最寄り駅を目指し、そのまま公園を1人で歩き出した。
玄武
『 良かったのか、衛美 』
衛美
「( いいのよ、これで。
──……家族の事まで話すなんて、どうかしてる…。
突き放して距離を取った方がいいと思うの… )」
玄武
『 そうか。
……別に知られて困る事もあるまい? 』
衛美
「( それは…そうかも知れないけど……、今日の私は少しおかしいの…。
こんな私…嫌いだわ )」
玄武
『 楽しかったのだろうな。
何時も寄り道をせず真っ直ぐ最寄り駅へ向かうだろう。
時には楽しむ事も必要だ。
自分を嫌う事はない 』
衛美
「( ……うん。
──でも、友達でもない相手に家族の事をベラベラ話した自分は嫌い… )」
玄武
『 衛美、友達になってしまえばいい。
友達として必要がなくなれば、ワタシが責任を持って排除するし。
不安がる必要も恐れる必要もないぞ 』
衛美
「( 排除って──。
それが “ 嫌だ ” って言ってるのに… )」
境戸託司
「 ──瀬圉さん、待って!! 」
そろそろ公園を出るという所で、衛美は苗字を呼ばれる。
声がした後ろを振り向くと、境戸託司が走りながら向かって来ていた。
衛美
「 境戸君?!
どうして?? 」
境戸託司
「 ──ハァ、ハァ、ハァ……、どう…して??
……酷いな…。
……言ったじゃないか……ハァ、ハァ…。
『 最寄り駅まで送るよ 』って──。
忘れちゃった?
未だ明るいけど、女の子を1人で帰らせるわけにはいかないよ。
──夕暮れ時を狙って変質者とか出て来るんだよ。
知らないかな?
瀬圉さんは小柄だし、華奢だから、狙われ易いと思うんだ。
1人で歩くのは危ないよ。
僕は毎日、瀬圉さんと帰りたいんだ。
最寄り駅まで送くらせてよ。
それぐらいならいいよね? 」
衛美
「 ……私なら大丈夫よ 」
境戸託司
「 はあ?
そんなわけないだろ!
相手は男なんだよ!
身を守る術を持たないか弱い女の子が、腕力のある男に敵うと思うの?
力の差は歴善だよ。
抵抗したって無駄だよ!
お嫁に行けなくなったらどうするのさ! 」
衛美
「 私は跡取りだから、余所へは嫁がないわよ 」
境戸託司
「 そうかも知れないけど……。
兎に角、女の子の1人歩きは駄目。
絶っ対駄目!!
瀬圉さんに何か遭ったら俺が嫌なんだよ… 」
衛美
「 …………最寄り駅は同じだもの。
境戸君の好きにしたらいいわ(////)」
境戸託司
「 うん!
好きにさせてもらうよ。
( あれ?
もしかして、照れてる??
瀬圉さん……可愛いなぁ(////) )
瀬圉さんが、知らない男に声を掛けられたり、絡まれたりしないように、俺が確り守るからね! 」
衛美
「 …………ありがと(////)
( 玄武が居てくれるから私は安全なんだけど…。
寧ろ心配なのは、私にちょっかいを出した運の悪い相手の方よ… )」
玄武
『 いいではないか。
やる気を削ぐのも可哀想だ。
付き合ってやろう 』
衛美
「( 意外ね。
玄武が、境戸君の肩を持つなんて。
どういう風の吹き回し?)」
玄武
『 どうもしないが…敢えて言うなら、スイーツの為だ 』
衛美
「( …………はいはい。
そうだったわね~~…… )」
境戸託司
「( あーーー……もう駅に着いちゃうな…。
もっと瀬圉さんと居たいのに…… )
瀬圉さん… 」
衛美
「 境戸君、送ってくれて有り難う 」
境戸託司
「 …………明日の講義は午前からあるの? 」
衛美
「 そうね。
境戸君の講義はどうなの? 」
境戸託司
「 …………俺は午後からなんだ…。
瀬圉さんに会えないや…。
明日は用事があるから午前は出掛けないといけないし… 」
衛美
「 そう… 」
境戸託司
「 次、会えるのは月曜日……だね 」
衛美
「 そうかしら 」
境戸託司
「 ………………。
俺、LINEするから!
写メだって送るし! 」
衛美
「 ……しなくてもいいわよ?
私にも予定はあるし、LINEが来ても即読も返信も出来ないと思うから 」
境戸託司
「 そ、そうなんだ…。
返せないくらい忙しいんだね…。
もしかして、土日も大学に通ってるの? 」
衛美
「 土曜日は講義があるから大学へ行くけど、日曜日は本家へ行く事になってるの。
──月曜日も講義はないから会えるとしたら火曜日ね 」
境戸託司
「 え??
……か、火曜日?!
俺…5日も瀬圉さんと会えないの?? 」
衛美
「 そうなるわね。
──じゃあね、境戸君。
来週の火曜日に会いましょう? 」
そう言いい、立ち尽くしている境戸託司に手を振ると、最寄り駅の改札口を通り、左側の階段を上がり、毎日利用しているプラットホームへ向かった。
衛美に置いて行かれた境戸託司は、正気に戻ると急いで改札口を通り、衛美とは反対側の階段をがりプラットホームへ向かった。
境戸託司がプラットホームへ上がりきった頃には、反対側に電車が停車しており、直ぐに発進してしまった。
境戸託司
「 瀬圉さん…………。
ホームから手を振ってから別れたかったな……。
火曜日まで会えないとか…ないよな……。
瀬圉さんの本家って何処に在るんだろう??
調べてみるか 」
10分程経ってから電車がホームへ入って来た。
停車し、扉が開いた電車に乗車すると、空いている席に座る。
スマホを片手に持ち、衛美から聞き出した会話の内容を忘れないように画面へ打ち込む。
満仁谷へ提出する報告書の為にだ。
境戸託司
「( …………俺…凄く悪い事…してるよな……。
瀬圉さんを騙してる…。
友達になれたとしても、友達になったフリをして、瀬圉さんを騙して付き合い続けるんだよな……。
あんなに……抱きしめたら折れてしまいそうな程に細いのに…。
小柄で可愛いのに……。
きっと悪い子じゃない…。
“ 悪魔に憑かれた ” とか “ 悪霊が憑いてる ” とか “ 呪われてる ” とか酷い事を言ったり……瀬圉さんを “ 悪魔 ” 呼ばわりする人もいるけど……違う気がする…。
俺に出来るかな……瀬圉さんが、無実で、無害な子だって事を……。
誰もしないのなら…俺が、証明したい。
瀬圉さんは無関係で、安全な子なんだって!!
……瀬圉さんとは嘘も偽りもない…対等で本当の友達になりたい。
…………まあ、可能なら両想いになって、恋人としてお付き合いしたいけど(////)
ぎゅっ〜〜〜〜って、ハグをしたまま……きゃ〜〜〜〜(////) )」
境戸託司は、文章を打ち込みながら、どう考えてもやって来ないであろう未来の妄想に耽るのだった。