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アンチ・ニュートラル・ガールズ・ギア/ガトリングガンが回らない  作者: 枕木悠
第四章 アンチ・エンディング・ロウテイション
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第四章⑨

爆発した建物からはピンク色の煙が立ち上っていた。ピンク色の煙とは、破裂する魔女が何かを破裂させた証だった。そのピンク色の煙の中に、光の魔女と雷の魔女は姿を消した。

「もしかして、」跡見の横に立ち、手を目元に翳し、煙の方に視線をやりながらリッカが小さく言う。「社長?」

「社長?」

「ええ、ああ、そういえば昨日、」リッカは口元に手を当てながら言う。「ノリコさんと何かを爆破するとか話していたわね」

「とにかく、行きましょう」

 跡見とリッカは煙が上がる建物の方に向かった。歩いて五分くらいの距離だ。歩いている途中に水の魔法により、煙は消された。建物周辺には野次馬が群がっていた。すでに警官が到着していて、野次馬を制している。跡見とリッカは野次馬の後ろからその建物を見上げた。爆破されていたのは三階建てのドーム状の建物だった。その屋根は吹き飛び、残った支柱などは黒く焦げてしまっている。二階から下の部分にそのような跡はなく、どうやら三階部分だけが爆破されたようだ。この建物はミノリ・ミュージアムという小さな美術館だと跡見は記憶していた。その美術館が閉館したのは、跡見が小学生くらいの頃だったと思う。まもなく閉館という時に、跡見は父親に連れられて一度ここに来た記憶があった。そこで何を見たのかを跡見は思い出せないが、とてつもなく美しいものを見たという感情だけは思い出すことが出来た。

 思い出すことはなぜか。

 出来ないのだけれど。

 思考が小さな頃にトリップ。

 楕円形の台座の上のガラスケースに手を付き、その中のものを必死に見つめる自分の姿が見える。

 感情的に。

 その美しいものを見つめている。

 緊張と。

 過度な興奮。

 世界にこれほどのものが、存在するのか、という感動に震えている。

 しかし思い出せない。

 それを。

 そのショウ・ケースの中の美しい物を。

 絶対に思い出せない。

 まるで魔法に絡まったように。

 あるいは魔法がほどけるように。

 脳ミソがイメージを繋がない。

 本当に何を見たのだろう?

 そんな疑問を抱きながら、跡見はミノリ・ミュージアムを見上げていた。

 リッカはキョロキョロと周囲を見回している。「社長、じゃないのかなぁ」

「中に入れないかな、」跡見は提案する。「中に、彼女が入ったんだ」

 それに美しいもののことを、中に入れば思い出せるかもしれない。

「でも、警察が、」リッカは警察の方を見ながら言う。「もしかしたら、なんか、大変な事件かも」

 そのタイミングでサイレンが後ろに聞こえた。

 振り向くと、ブルーのフェラーリがこっちに向かって来ていた。屋根の上にはパトランプがあって、それは赤い光を放ち回転している。フェラーリの運転手は一度クラクションを鳴らした。それに反応するように、狭い道路を埋め尽くしていた野次馬たちが道を開ける。開いた道をフェラーリが進み、ミュージアムの敷地に入っていく。後ろを走る白いシトロエンも続く。

 跡見は警官たちに出来た隙を見逃さなかった。

 静かに、素早く、身を動かして、ミノリ・ミュージアムの門を潜ろうとした。

「駄目ですよ、中に入っちゃ」

 中には群青色の髪をした警官がいて、跡見の進路を塞いだ。駅前でビラ配りを注意してきた警官だった。その警官はなんというか、疲れた表情をしていた。

「また会いましたね」跡見は薄ら笑いを浮かべて言う。

「え?」向こうは跡見の顔を覚えていないらしい。「あの、どこかで?」

「いえ、そんなことより、ここで何があったんです?」

「黒猫が迷子なんです」

「は?」

 

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