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アンチ・ニュートラル・ガールズ・ギア/ガトリングガンが回らない  作者: 枕木悠
第四章 アンチ・エンディング・ロウテイション
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第四章⑩

ナルミが運転するブルーのフェラーリの助手席に座る、黒いローブを纏うアンナは藤井に再び電話を掛けた。ミノリ・ミュージアムの方角から煙が上がったのが見えたからだ。これからの段取りを話し合う必要もある。アンナの不安材料は村崎組のチームワークだった。村崎組の人間は各自、任務において最善で最高の仕事をすることを目的にする。その目的に沿って素晴らしい結果を産み出すこともある。素晴らしい結果を見ることも多い。けれど、各自が暴れ回ることによって事態が混沌とすることもある。そういうことは多い。会同して、各々の役割を決めて、様々な決まりを用意しても村崎組の人間は平気で、その決まりを破る。もちろん、決まり事を破って正解の場合もあるが、とにかく、慎重さが必要な時に、慎重になれない男が多い。一番冷静に見える辻野だって、マジ切れして極端な行動を取るときもあるのだ。しかしこういう村崎組の体制をアンナは否定する気はない。ルールに縛られないのが普通、掟を破るのなんて平気、そういうことに誰も疑問を思わない世界がアンナは好き。

 でも今は厳戒態勢。

 お嬢は、村崎メグミコは絶対に無傷で取り戻さないといけない代物だ。

 頭を使わなきゃいけない。

 頭を使って慎重に。

 手枷足枷をされたようなとても不自由な状態だけど。

 慎重にやらなくちゃいけない。

 絶対に取り戻さなきゃいけないから。

 絶対に間違っちゃいけないから。

 藤井はツーコールで電話に出た。「おう、アンナか?」

「藤井、ミュージアムを爆破したのね?」

「ああ、三階だけな、」藤井は大きく息を吐いた。「三階だけだ」

「三階だけ?」

「ちょっと困ったことになった」

「え、まさか、」アンナはメグミコに関する悪い想像をする。「お嬢が、」

「違う、落ち着け」

「落ち着いてるっ、」アンナは早口で言う。「早くそっちの状況を教えて、困ったことって何なのさ」

「マアヤ嬢の黒猫のピカソがミュージアムのどこかに隠れてしまって」

「え、ピカソが?」アンナは後部座席に座り、シキの肩を抱いているマアヤを見る。後部座席に座るのはマアヤとシキの二人。スイコとスズとオリコトはフェラーリの後ろを走る、ヒカリの運転する白いシトロエンに乗っている。「どうして?」

「ピカソがどうしたの?」マアヤが後ろから聞いてくる。

「ピカソがミノリ・ミュージアムに隠れてるんだって」

「え、どうして?」マアヤは首を傾げる。「私、外に出してないのに」

「またマアヤ嬢の部屋から逃げ出したんだろう?」藤井が言う。

「早く捕まえてよ、もうすぐ正午よ」

「分かってる、ミュージアムの近くで待機していたやつらも呼んで探してる、まさに総動員だよ」藤井は笑う。

「なに、笑ってんのよ、もうすぐ正午よ」

「お前たちも早く来い、来て一緒に探せ、マアヤ嬢は一緒か?」

「うん、今、そっちに向かってるよ」

「マアヤ嬢が来れば、ピカソは出てくるかもしれない、とにかく、ピカソを捕まえるまで、爆破は出来ない、ピカソが黒猫じゃなかったら爆破するんだが」

 黒猫とは、魔女の使い。神様として、崇められている対象。殺すことは許されない。どんな理由があっても許されない。アンナだって許さない。ピカソは可愛い黒猫だ。ピカソはアンナの可愛いマアヤの黒猫だから許さない。

 通話を切る。

 フェラーリは明方市駅前の狭い道路に入る。ナルミは一方通行の標識を無視した。その先に人だかりが見える。ミノリ・ミュージアムの前だ。爆破したせいだろう、警官の姿も見える。ナルミはフェラーリの屋根にパトランプを乗せ、サイレンを鳴らした。人だかりの後ろでクラクションを鳴らす。道が出来る。フェラーリはミノリ・ミュージアムの敷地内入る。後続のシトロエンも続く。

 アンナは助手席から降りた。ミノリ・ミュージアムを見上げれば、三階部分には確かに爆破された跡が見える。

 シキはフェラーリのトランクを開け、ガトリングガンを取り出し、アンナに渡す。アンナはガトリングガンの回転が滑らかなのを確かめた。

 シトロエンからスイコとスズとオリコト、ヒカリも降りた。

 オリコトはスイコに寄り添うようにして、ミノリ・ミュージアムを見上げた。

 スズはコントローラを握り締めて、それをじっと見ている。

「ちょ、ちょっとぉ、一体なんです?」ミノリ・ミュージアムの門の方から群青色の長髪の警官がこちらに近づいてきた。アンナはどこかで見覚えがあるなって思ったけど、思い出せなかった。とにかくきっと、アンナたちが、徳富式の魔法を一度だけ反射する黒いローブを纏っていたからだと思う。そのローブは頭まで隠しているから、警官が不審に思って当然だろう。「なんなんですか、パトランプなんて回して、警察の人じゃないでしょう?」

「警察だよん、特殊生活安全課の大壷ヒカリです、」フードを取って、ヒカリが警察手帳を群青色の警官に見せる。「引き続き警護を、敷地には誰もいれないように」

「わ、分かりました」警官はもの分かりよく、ヒカリに向かって敬礼して門の方に走って戻って行く。

「随分中途半端に爆破したのね、」スイコがミノリ・ミュージアムの三階を見上げながらアンナに近づき言う。「藤井たちは?」

「中で黒猫を探してる」

「黒猫?」スイコは首を捻る。

「私の黒猫のピカソ、」マアヤが答える。「でも、外に出してなんてないんだけどな」

「行きましょう、」アンナはガトリングガンの銃身を肩に乗せて、ミノリ・ミュージアムの正面玄関に向かって歩き出す。「もうすぐ正午よ」


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