第四十七話 【テリオン編】サラバ、狂気【ラピス感、地獄、第三層三界】
第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月14日
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「ホント、ここは面白いね。金曜日に狂気が濃くなると思えば、今度はムゾクの民とやらが出てきてさ」
「そうそう。俺たちゃお手上げだよ、理解できない。ま、明日の朝一でウィンデルを出るから、なんでもいいけど」
ポアロ姉弟が一連の騒動に噛みつき、匙を投げる。
「ムゾクの民ってのは自然派の隠居者達のことだよ。良く言えば、な」
キリトが眼鏡を拭きながら、簡単に説明して聞かせる。
その説明を聞いても理解が追いつかないシオンが『結局ムゾクの民ってどこの誰達よ』と聞くも、キリトは無視をして眼鏡をかけた。
「短い間だったが祝ってやるよ、旅立ちを。俺はビール運んでもらったくらいしか思い出ねーけどな」
マッシュルームヘアに眼鏡にスーツ。
口と態度の悪いキリトの発言に、アルカナ一行は嫌な気がしなかった。
ただ一人を除いて。
「(なんかコイツ、ラピスみてーだな)」
「(ホンマは初手で敬遠されるタイプなんやろうけど。なんや、姐さんみたいで不思議となんとも思わんな)」
「(ワッダー。前から思ってたが、キリトはラピス感があるな)」
「なんかあんた癪ね。まーいいよ、祝われてあげる」
「ッフ。じゃあとりあえず人数分のビール」
ラピスの言葉を鼻で笑った後に注文を入れるキリト。
送り出しはするが、特別労いなどはしないと態度で示す。
眉間にシワを寄せてラピスがキリトを睨む。
それを知ってニヤけながら席に着くキリト。
ロックスがラピスを宥め、ウルトがビールを注ぐ。
この状況に呆れながらグレイとシファもテーブルに座り、『いや、だからビールを勝手に頼むなし!』とシオンが割って入る。
それを見て笑うラングにグランティ。
良くも悪くも、アルカナ一行が来てからアブラヤで営まれてきた普段のやり取り。
それが別れの最後の時まで続いた。
「ホント、サイコーにゴキゲンなとこだよね。ここは」
「なんだー! ラピスちゃんはここを気に入ってくれてたんだぁ。僕はてっきり、あんまりよく思われてないのかと思ってたよー」
「そう? 結構気に入ってるけど」
「だな。満喫してるなーって思って見てたぜ」
ラングの問いに答えるポアロ姉弟。
二週間を共に過ごしても、ラングにはラピスの気難しさが伝わっていなかったらしい。
外は消防車が駆けつけ、向かいのテナント群の消火作業をしている。
サイレンの音がけたたましく鳴り響く中、火はアブラヤまで回らなそうなことを一同が察していた。
「ラピ達を色んな所に連れていきたかったなー」
「こんな田舎、行く所ないっしょ?」
「っかー! ティータンは悲しい女だね。ムゾク沼然り、条約に指定されてる湿地帯があちこちにあるし。千本桜、沼の蓮華に夏祭り、紅葉に首を垂れる稲穂、渡り鳥に雪景色とか色々あるでしょ」
「いや。シオンそれ、ただの四季折々じゃね? 場所じゃねーし。今の時期は梅雨前で良い意味でなんもねーし」
『だーかーらー! それでも連れて行きてートコがあるっつってんの!』『だから場所言えや!』と女子高生コンビが喧嘩を始めた。
送別会と言っても普段と変わらない飲み会でしかない。
何か特別なイベントが用意されているわけではなかった。
──カランカランッ
扉が開き、立派なスーツに黒のワイシャツと派手なネクタイを身に纏った、オールバックで、鼻の下に髭を蓄えた初老の男性と見覚えのある女性が姿を現した。
「おう、どいつだ。明日この街を出て行く、シオンの友人はよう」
「ボス! どうしたんですか!」
「うお! ボス、カノンさん。この席どうぞ」
「あれ、ママとマイクさんじゃん!」
マイクとカノンが入店し、テリオン勢が驚き跳ね上がる。
しかし、それを意に介さず、マイクがアルカナ一行に歩み寄った。
口に咥えた葉巻が紫煙を燻らせる。
「おう、嬢ちゃん達。名前は? 俺はこいつらの頭張ってるマイク=レオーネってもんだ。どうだ、お前ら。ほら取れよ」
マイクがアルカナ一行に葉巻を差し出す。
「ありがたく頂戴します。この人達は吸えないから3人分貰います」
「おい、ラピス! ったく、すいません。俺はウルト=ポアロって言います。こっちは双子の姉のラピスと、連れのロックス=ナティです」
「ヤーマン! 宜しく、マイクさん! 皆んなから噂は聞いてたよ。会えて光栄だ」
マイクのシガーケースからラピスが葉巻を3本抜き取り、ウルトが頭を下げてロックスはマイクと握手した。
「おう。オメーら、ひもじい思いしてるらしいじゃねーか。ま、ちょっとした選別だ。受け取りな。もっと早く知ったらドナドナを毎日食わしてやったのによ」
手渡された分厚い封筒の中身が金である事を瞬時に察するアルカナ一行。
しかし、それよりもマイクの発した言葉が、封筒の中の金額より気になった。
何せアルカナ一行にとって、明日以降はテリオンの金はただの紙切れになるからだ。
「餞別ありがとう。その、ドナドナを食わしてやったって? レストランとは聞いてたけど」
「ん? ハッハ! 金より飯か、太いじゃねーか。気に入った。ドナドナは飯食うとこだ。初めてあそこに行く連中は牛達に驚くけどな。その顔を見たかった」
「ふーん、あれって普段から牛なんだ」
「おう、なんだもう見てたのか。そうだ、あいつらは延々とあのまんま。呪われてんのか、わからんな」
なるほど、やっぱりここの連中は牛達を知っていたか。
ラピスの言う通り、なんでもかんでも俺達の知ってることを問いただすのは墓穴を掘ってたかもな。
たまたま牛達のことを聞くことが出来たが、こんな機会が無ければこの問題は一生迷宮入りだった。
……いや、今もよくはわかんねーか。牛に豚に鶏か。
──夜は更け
「ちょっと。シオンさ、聞きたいことがあるんだけど」
テリオン人達が机をくっつけ、大円団でどんちゃん騒ぎをしている。
そこにはロックスも加わっており、ポアロ姉弟は送別会の主役の一端を担っているものの、カウンターで静かに会話していた。
ポアロ姉弟と、同い年のテリオン女子高生コンビの4人が集まり会話をする。
「シファさんって奴が天使で金曜はしんどいんでしょ? なんでこの街で暮らしてんの? その逆も然りだけど、グレイさんが街を出て暮らしてもいいよね? この街だけなんでしょ? 金曜日に狂気が濃くなるのって」
「へ? 知らんけど、愛じゃね?」
「……あー、ハハ。やっぱ? そうだよねー」
シファの奴が天使であることを深堀りしたいポアロ姉弟。
しかし、シオンの愛発言にラピスが固まり上手く合わせる。
「やっぱ大人の恋愛って憧れるわー。ウチも気分が悪くっても、好きな人と一緒に暮らしたいし」
「わかるわー、自分も。天使ってのがどういう感じかわかんないけど。愛には変えられんね。ラピもそう思うっしょ」
「……あ、当たり前じゃん。そうだよねー」
ラピスの心境は複雑だった。
自身が勝気で傲慢な性格であるが故に、いい男と出会っても基本は外見だけが好みで終わり、そこから発展しない。
中身までをリスペクトして理解し好きになる、という経験が皆無だった。
ただ、目の前では同い年が愛について語っている。
この話題の価値観に付いて行けていない自分に、少なからず劣等感のようなものを感じていた。
「ラピスもファビオのためなら他国に移住するだろ」
何となく姉の心境を察したウルトが助け舟を出す。
途端にラピスの表情が明るくなり、興奮しはじめる。
「そりゃそうじゃない! ファビオのためなら地獄にだって行けるっての!」
「えー! そのファビオってのがラピの彼氏!?」
「ラピ彼氏いたのかよ! いーなー」
「ちょ、ちょっと! 彼氏だなんて、もー、やーめーてーよ!」
一瞬で感情が反転し、ファビオ大好きモードに入るラピス。
気持ち悪いし言わない方が良かったかもとウルトは思うも、そのラピスの表情に安堵にも似た感覚を覚えた。
しかし、ヘラクレスは面白かったようで、ウルトの肩でピクピクと体を震わせて笑いこらえている。
「そうそう、言ってなかったけど。私とウルトも裏稼業人みたいなもんだんだ。アウトローな仕事が専門」
「おい、ラピス! ったく、俺達は探偵だよ。なんの推理もしない、限りなくアウトローな」
「え、そーなん! てか探偵ってヤバ!」
「だからこの街に来てもドシっと構えてられるんだ」
ラピスのアウトロー発言にテンションの上がる女子高生コンビ。
「だからさ、今度会うときはお互いに成長して、同盟でも組みましょう」
「いーね! それ最高じゃん! ね、ティータン?」
「そうだね! じゃあ自分はその時何しようかなー。やっぱり4人で組事務所とかにタタキに入ってさ! そr」
「うんうん、とりあえず私を筆頭に上手く動いてくれれば金は保証するから。私の戦士になってちょうだい」
ラピスを囲む人達が固まる。
「お前それ、頭数が欲しいだけじゃねーか!」
「当たり前でしょ? 従業員を雇うのはリスクでしかないし。仲間内で手を取り合えれば色々と便利だし」
「……でもウチらアウトロー専門だし、従業員がどうこうとか関係なくね? てか、戦士?」
「……まあでも、ラピ達と仕事したいね」
「でしょ? だからその時は同盟組んでジャンジャン稼ぎましょ!」
最後のラピスの締めで四人の顔に笑顔が灯り、各々が絆を確実に感じていた。
カウンターでの会話が今までの絡みのほとんどとて、同い年が仲良くなるのに時間が重要でないことは世界共通だった。
特にテリオンの女子高生コンビからすれば、この街で夜に同い年と屯できるのは、砂漠の中で宝石を見つけ出したに等しかった。
──ドン!
テーブルを叩いてロックスが立ち上がる。
「ヤーマン! 今日は皆ありがとう、最高の夜だった! また会うときはもっと盛大にやろう! な、ジーン!?」
アブラヤ向かいのテナント群の消火もとうに終わり、窓の向こうには夜空に星が煌めく。
時計は深夜一時を指していた。
「ウルト、わかってるね。今夜はアジトに寝るよ。正直、今の体感が40パーセントは切ってる」
「だな、念のため満タンにしとかねーとな」
「ん? アジトってここに寝んの? 奥のビップルーム?」
「え? ここ? ……まあそう」
ポアロ姉弟のアジト発言にシオンが食いつき、ラピスが合わせる。
「……いや、嘘。ここじゃないよ。私達の言ってるアジトは別。……でも言えない。次に会う時は全部教えてあげるね」
「おい! 本気か? ラピスがいいなら俺はなんでもいいけどよ。ま、あれだ。アウトロー関係だ」
「え……フフ、大丈夫。ウチとティータンにも、そういう隠し事の覚えが1つや2つはあるから」
「いや、シオンは強がんなよ。どうせないっしょ。まーその情報を次に会う時の楽しみにしとくわ」
『あるっつの!』とシオンがキレ返し、3人とそのやり取りを見ていた周りの皆が笑い合う。
ハグをし、握手を交わし、再会を近い。
皆が帰っていき夜が更けた。
第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月15日
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「いいの?」
「ヤーマン、いいさ。ちゃんと絆を確かめ合った。別れの挨拶だって散々しただろ、ジーン?」
ラングもグランティもまだ夢の中、アルカナ一行が2人の愛の巣を立つ。
昨晩の酒盛り、その酒がまだ体の中を流れている。
それでもアルカナ一行は歩き続けた。
アルカナ一行のテリオンでの会議場、ウィンデルに流れる川の高架下を目指して。
太陽は昇っている。
しかし、それに照らされたモノの影は長く伸び、その日差しはまだまだ朝焼けと呼ぶに相応しかった。
「ヤーマン! よし、それじゃあ行こう! 第三層三界幻影世界へ!」
「ワテがワテらしく振舞える世界がいいわ。アクセサリーの真似はもう御免やで」
「それは無理! でしょ? どうせまたアクセサリーに逆戻りよ」
「だな。よし、最先端のクワガタ型ロボって設定にしよう」
ラピスがタバコに火を付け、『なんや、クワガタガタって!』とヘラクレスがツッコんだ。
ウルトが笑い、ロックスがポータルを起動しアルカナ一行が光に包まれた。
第三層三界-エイドロン
世界歴 104679年6月15日
──────
「我が友、万物よ。今日も共にあらんことを」
寝ぐせを付けた男子が、ベッドの上で上体を起こし、淀みなく言葉を発する。
ベッドの縁に置いた眼鏡をかけて、学校の制服に着替えた。
部屋を出て階段を下り、リビングに降りる。
「ジン、おはよう」
「おはよう、母さん」
──バタバタバタ
「おはよう! ジン兄ちゃん、寝ぐせ!」
「……おはよう。ごはん食べたら直すよ」
「ちょっと、顔洗ってからごはん食べてよね!」
寝過ごした妹が走ってリビング来たかと思えば、すぐに身だしなみの指摘をしてくる。
「オウカ、あんた挨拶したの?」
「あ! 我が友、万物よ。今日も共にあらんことを。ふー、忘れるとこだった」
「ちゃんと挨拶しないと疲れるわよ」
「ちょっとー。もう中学3年生なんですけどー」
母と妹が普段と変わらないやり取りをする。
今日も何事もない日になってほしいな。




