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第三話 カブトムシを捕りに行こう【100万マグの獲物とサイコパス魔女】

妖艶なフォルム、光を反射させる綺麗な黒、威厳に満ち溢れたそれは宙に浮いていた。

箒のフロントとリアのロックを外しホバーモードを起動したのだ。


横6㎝、縦15㎝、長さ2m。

鉄のような見た目をしたそれは進行方向か100㎝ほどのところから斜め下に緩やかに湾曲し、150㎝あたりから水平方向にまた湾曲している。


Zという文字の書き始めと終わりを引っ張り、緩やかかつ平坦にしたような形をしている。

湾曲している場所に人が座るシートがあり、先端にはハンドルが突き出ていて、その間のフレームに簡単な風防とメーターが付いている。


シート直下あたりに足を置くステップがフレームから伸びていて、空気抵抗をわざと得て操舵性能を上げるエアグリップソールが箒の真下に一定の距離でホバーしている。

フレームの最後端付近にはメイン出力用のマナを噴出するジェット機構が4つ付いている。


「よし、行こう」


ラピスとウルトの前に各々の箒がホバーしている。

ローブから出して折りたたみを解除したまではいいが、森までの距離にため息がでる。


「なあ、ラピスが重いの背負いたくないのはわかるけどさ。歩きでもちょっとやそこらだぜ? リアリスじゃ”マナの充填はできない”し無駄遣いじゃね?」

「なら黙って歩け」


正論は言ってみるがそれ以上の正論が返ってくる。


とはいえ禁断症状か?

そう言いながらも箒に乗りたい俺がいる。


まあ、来る時も使わなかったし別にここで森の入り口まで200mの徒歩をケチるのに使ったって後悔なんてしないだろう。


箒に跨りハンドルに手をかける。

自然と前傾になり空気抵抗をなるべく感じない体勢になる。


右手ハンドルのアクセルをゆっくりと開けた。

マナから生成された単純エネルギーがジェットブースターから放出される。


その時速、およそ10km/h。


「早く行けよ!」

「えー、魔法空間を快適に眺めたいんだから別にいいじゃん」


たしかに俺も魔法空間は初めてだけど、じゃあ歩けよ。

俺はこうもっとブワっと開けてビューンと走ってババっと曲がりたいんだよ。


状況を堪能する姉。アドレナリンを求める弟。


そうこうして森の入り口に着き、より低空に位置しながら森の中に入ってみる。

中は意外と広くこのまま箒でいけそうだ。


急にラピスがアクセルを開け速度を上げた。


「どうしたんだよ!?」

「景色飽きた」


時速は90km/h、森の中で木々を追い抜くと体感速度はそれ以上だ。

自分勝手というかなんというか。


でも俺だって飛ばしたいと思ったならそうすればいいのに。

ラピスに合わせたい俺がいるんだろうな。


地面の道に沿って曲がりくねりはするものの簡単なコースだ。

ブラインドコーナーはなく、アップダウンもないのでホバーのブレーキ操作もいらない。

アクセル開度で速度を制御し突き進む。


中に入って1kmも進んだだろうか。

突如として道が終わった。行き止まりになり、楕円形に膨らんだ空間が現れた。


それを認知した瞬間にはブレーキをかける。

空間に辿り着くと同時に停止しホバーモードに切り替えた。


「うわ! ほらウルトいるよ!」

「よっしゃ! よかった、いなかったらどうしようかと思ったぜ」


そこには虹色に輝くカブトムシが3匹いた。


そのぽっかりと開けた空間は1番長い横幅で20mほどだろう。

空間に入り真正面。空間を作る木々の一本にこっちに背を向けて樹液を食べるターゲットがそこに存在している。

ん? 樹液を飲んでいる? そこはどうでもいいか。


見ると外周の木々の何本かには同じように樹液が幹から溢れている。

そこにはカブトムシ以外の昆虫もいる。


というよりは各々の木に各々の虫たちが身を寄せている。


「もしかしてこれ宝の山なのか?」


1匹のカブトムシの収集で100万マグ。

綺麗なメタリックブルーのクワガタやメタリックピンクの蝶などが宝に見えて来た。


「え、どうする? 他のも捕まえる?」

「バカね、今回は1匹にしときな。欲しけりゃまた盗りにくればいいだけでしょ」


それもそうか、100万マグはあくまでカブトムシだし。

上手くいけば俺達が盗ったこともバレないだろう。


そうすれば次があるかも。


箒に乗ってホバーする。

地上から大体3.5mくらいの高さに奴らはいた。


1匹捕まえて持ってきた小さい籠に入れる。

ターゲット確保、デカい仕事が折り返し地点にたどり着いた。


「それにしても、これが100万マグかよ……」

「笑っちゃうよね」


これで箒ちゃんのための金が潤沢に入る。

箒のためならたとえ火の中、水の中、草の中、森の中。


カブトムシゲットだぜ。


カブトムシはベースはシルバーメタリックで、光の当たり具合で表面がマジョーラカラーのように変化して虹色に輝いていた。


角は3本。顎の1本と頭から左右に突き出た2本。顎を動かすと角同士の先端がぶつかりそうになる。

挟まれたら痛そうだ。それにでかいし重い。15㎝はある。


そしてこれは確かに美しい、カブトムシ好きなら飼いたい1匹かもな。


納得しながらローブの下に収めて箒に乗った。


「よし、じゃあ退散退散!」


ラピスも上機嫌だ。


「あんた今何%?」

「今60%くらい」


箒は燃費が悪い。俺らみたいな改造してるやつは特に。


「まあ出るまでは持ちそうね」


俺たちは来た道を戻った。

気持ちの昂りもあって120km/hまで速度を上げた。


アルカナでの箒は大気のマナを吸収しながら走るため充填マナの消費が緩やかだ。


しかしリアリスではそうはいかない。

”ほぼ”マナがないためかなりのペースで消費する。


ぐんぐんと道を進んで木々の終わりが見えた。


森の中が鬱蒼としていたぶん、草原の光が眩しく見える。

光の先に草原が見え遠くに壁とそこにポツンと茶色い扉も見える。


よしよし、順調だn


──刹那

──ドッゴーン!

視界が回る! やばい!


瞬時に箒のアクセルを緩め暴れを防ぎブレーキをかける。

ジャイロで適切な方向にホバーブレーキが作動しマナを噴出する。


しかし勢いが強く機能が役に立たない、地面に叩きつけられる。

衝撃で森の内部に吹っ飛ばされた。


何が起きた、クソ!

森の出口付近で爆発が起きた!? 上から何かが飛んできた!?


やばいやばいやばい!

俺より前にいたラピスがもろ直撃したんじゃねーか!?


急いで箒に跨りアクセルを開ける。


「クソばばあぁ!!!」


森の外からラピスの声が聞こえた。


生きてる! ばばあ? 交戦してる?


森を抜ける。出口付近には大きな窪みができている。


いた!

泥だらけのラピスと女が箒に乗り交戦している。


ラピスは移動し続けながら”ハーレクイン”を使用してガンガン魔女を攻め立てている。

最悪だ、交戦かよ。しかもあいつ花屋の店員じゃねーか!


アクセルを開けて参戦する。


「ラピス! アーマー!」

「魔女に突っ込みながら炎の準備! ハーレクインを右手にぶつける!」


ポケットからジッポを取り出し左手に握る。

ダイヤルをソードに切り替える。


──ッブワ!

アクセル全開! 開度ロック! 魔女に突っ込む!


──弾指

魔女の後方からハーレクインが俺をめがけ飛んで来た。

右肘付近でハーレクインを受け止める。

丸い鉄の塊が痛みもなく右手を覆いアーマーと成る。


ジッポを右手に持ち替えた。


──キンッ、シュ、ボワシュゥ

ジッポが火柱を上げ、それが剣の形を成した。


魔女の首めがけて高速で切りかかる。

目を見開き口角を上げこちらを凝視する魔女。


微動だにしない。


首めがけて右手を振り下ろす。


──弾指

ぶった斬る!

「ニヤケてんじゃn、ッブシィ」


体が吹っ飛ぶ。視界が回る。

今度は綺麗な横回転。すぐに立て直しラピスのもとに行く。


「やにしやがったあいつ!」

「ただのマナの単純エネルギー! それでぶっ飛ばされてた!」

「……嘘だろ」


ゴロツキを吹っ飛ばしたラピスの魔具と同じ原理、それにしては衝撃の範囲がデカすぎる。


しかもこの軽度のダメージ、わざと手を抜いて吹っ飛ばしたのか?

マナの放出範囲と威力調整、そして操作の精密さ。


理解した──


この魔女、かなり格上だ。

ラピスもそう感じてるようだった。


「子供が2人、か。あーあー、そんな箒に乗っちゃって。今どきの子だねぇ」


気づかなかったが魔女が乗ってる箒は掃除用の、つまり正真正銘のただの箒だった。

飛行用魔具の総称である箒とは違い、本物の箒ということは飛行のためのマナ操作を本人の力でやっていることになる。


「イカれてる」


ラピスが呟く。


「ねぇあんた、なんで私達を襲うの? カブトムシを盗ったから? なら売ってくださらない? 言い値で買うわ」


確かに、俺達はカブトムシさえあれば良いんだ。


「何言ってるの? 魔法空間で久々に羽伸ばしてんのよ? サンドバッグを逃すわけないじゃない。それに玩具は壊れるまで遊ぶ主義なの」


緑色のボブカット、白の襟付きシャツに7部丈の安物楽々パンツとパンプスを身につけ箒に跨るおばさん。

状況もさることながら発言内容も相まり異質かつ異様な見た目が俺達の心を揺さぶる。


完全に奴の標的か。


「そもそも、そのカブトムシはポンドもユーロと100ポッキリで売ってるの。お子ちゃまに手が届くかな?」


100ポンド? 100ユーロ? それって2万マグくらいだろ?


「じゃあ500ポンド出すよ!」


ついつい言ってしまった、恥じたが交戦よりはマシだ。


「ウルトあんたね、何下手に出てんの? サンドバッグ発言でもう交渉は終わり。ダサいとこ見せてるだけじゃない」


うるさいよ、俺だってつい言っちまったんだよ。


「面白いカップル探偵さん達。さて、話は終わり。狩らせてもらうわね」


純粋なマナ操作が達人。魔女自身の魔法もわからない。

不敵な笑みでこちらを見下ろしている。


クソったれ。

ラピスはハーレクインを追加で生成し、俺は”炎のための道”を作った。

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