9. 新たな出会いと新たなスキル
ゲザ村は、山の麓にある村で、農業や酪農の他、木を伐採して家具や木製品を作ったりしている小さな村だ。
エフェスからアハットへ向かう旅人のために、一軒だけ宿屋があるそうだ。
「冒険者ギルドの依頼で、ガイルという人物に会いたいんだけど…」
「ガイルの家なら山側だよ。あそこの丸太が積んである所の隣さ」
村人が教えてくれた家で声を掛けると、ガイルさん本人が迎えてくれた。依頼主が指定する人物、ガイルさんはドワーフで、家具職人だという。
少し小柄でがっちり筋肉が付いた身体に、立派な髭を蓄えている。ドワーフのトレードマークだね。
「アハットまで家具を運ぶ荷馬車の馬が急に病気になっちまってなぁ。受注分だけは家具屋が手配してくれたんだが、新しい馬が来るのはまだ先だっていうし、まいったよ」
運ぶものは、タンスが2つと、食器棚、鏡の付いてる化粧台と椅子。嫁入り道具らしい。
家具に触れて「収納」と言うと、私より大きい家具でも一瞬でストレージに入った。うーん、どれくらいの大きさまで入るんだろう。
「なぁ、お前さん、リリーだったか。ストレージ持ちなら、俺から家具を買い取ってアハット家具店で売ってくれないか?もちろん手数料分は引いて安く売る」
それを見ていたガイルさんがそんな提案をしてきた。
「え?」
「でもさ、家具は結構高いよね?売れなかったらどうするの?」
私が戸惑っていると、レネさんが質問してくれる。
「馴染みの家具屋だから売れないことはない。手紙も書こう。もし売れなかった場合は、持ってきてもらえれば金は返す」
「まぁそれなら……どう?リリー」
確実に売れるなら悪い話ではないのか?
「でも私、手持ちがあまり多くありません。家具なんて仕入れられるか…」
現在の手持ち金は8040Gだ。家具ってどれくらいの値段なんだろう。
「4000Gなんだが、どうだ?家具屋では5000Gで納めてる品だ」
商品は、一枚板のテーブルと椅子が4つ。ものは良さそうだ。しかも払える金額で、儲けもあって、商人のクエストがクリアできそうな依頼だ。ただ、ちょっと高い。
「うーん、もう一声」
「よし、なら3500Gでどうだ」
試しに値切ってみたら安くなった。
「分かりました。買い取りましょう」
「交渉成立だな」
お金を支払ってストレージに収納する。家具屋あての手紙も預かった。
「家に泊まっていきな。商人が来た時用に客室があるからな」
「いいんですか!助かります!」
ガイルさんの申し出に乗っかる。宿代が浮いたぞ。ありがたい。
「たいしたものはないけどたくさん食べてね」
小柄でちょっとぽっちゃりした可愛らしいガイルさんの奥さんが夕食を用意してくれていた。奥さんは人族らしい。
「わぁー!」
野菜たっぷりのポトフ。胡椒の効いた腸詰め肉も美味しい。
ウサギ肉の香草焼きとマッシュポテトも合う。
「とっても美味しいです!」
「うん。美味しいね」
「うふふ。この人、うまいもまずいもないから嬉しいわ。家にも息子と娘がいたんだけど、2人とも出て行っちゃってねぇ。やっぱり田舎は住みにくいのかしらねぇ」
奥さんと話をしながら食事を頂いた。食後にデザートとコーヒーまで出して出してくれた。
「木苺のパイを焼いたのよ。甘いものはお好きかしら」
木苺か…確かラズベリーのことだったかな。フォークで割ってみると赤い果実が顔を出した。
「美味しい!」
甘酸っぱくてとても美味しい。入っている甘いクリームとの相性も抜群だ。
「あっ、そうだ。ホーンラビットの肉があるんですけど、日持ちしないんで良かったら」
泉の森でドロップしたウサギ肉だ。2匹分ある。売ってもたいした金額にならないし、ここで美味しく食べてもらえるならウサギも本望だろう。
「あらあら。いいのかしら。この村でも宿屋で買取はできるのよ?」
「美味しい食事とパイのお礼です!」
「そう?じゃあ遠慮なく頂くわね。ありがとう」
喜んでもらえたようだ。良かった。
食事が終わるとガイルさんが部屋へ案内してくれた。ベッドが2つにサイドテーブルが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。
早めに夕食を頂いたので、まだ時間がある。
「ガイルさん、部屋で調薬してもいいですか?」
「水場がないから、作業場を使うといい。そこの扉の奥だ」
「ありがとうございます!」
作業場は家具を加工するからか、かなり広い部屋だった。加工前の木材が積んである。広い作業台もあった。
ステータスボードからレシピを開いて新しく作れそうなものがないか確認する。ここに来るまでに色々と採取してきたのでいくつか作れるだろう。
初級毒消薬は、毒消草とポイズンスネークの毒腺…えっ、毒腺入れるの!?あと癒草と魔力水。これは材料が揃っている。
初級魔物避けもできそう。サラ草と、掌草、あとスライムゼリーと魔力水。
今日採取した素材で、レシピを見ながら初級毒消薬を作る。ドクダミに似た毒消草を花から根っこまでゴリゴリ潰して、ポイズンスネークの毒腺をピンセットで抓んでほんの少量入れた。毒があると毒消草の効果が爆上がりするそうだ。奥深い。
【初級毒消薬作成に成功しました】
初級魔物避けも作る。サラ草は魔物が嫌う草の代表で、ゲザ村の周りの草原にたくさん生えていた。あとはこの素材自体に効能はないけど他の素材と使うと効果を増幅する掌草。これも手に入っている。スライムゼリーはとろみ付けで少し使う。
初級魔物避けは飲まないので、ひたすら素材を潰して練って溶かして瓶に詰めた。撒いて使うらしい。
【初級魔物避け作成に成功しました】
魔物避けと毒消薬は材料もあるし、使いそうなので多めに作っておいた。2回目以降は失敗しなくなり、材料も自動で用意してくれる。一気にたくさん作れるので便利だ。
あと、魔道具の火炎瓶が作れそう。魔道具作成スキルが手に入るのでぜひ作っておきたい。
◆クエスト「魔道具を作ろう!」進行中
レシピを確認して、魔道具を作ってみよう。
達成条件:火炎瓶を作り、魔道具師ギルドへ納品する
期限:なし
報酬:50G、魔道具作成スキル、スクロールのレシピ
火炎瓶を作る素材は、火魔法ファイアを付与した魔石(小)と、油草の種。カラカラの干草。瓶はポーション用のやつでオッケー。
これも材料はあるが、魔石に火魔法のファイアを付与したものが必要らしい。
「…付与ってどうやるんだ?」
魔石に魔法を撃ち込めばいいんだろうか?
レネさんにも聞いてみるが分からないとのこと。
ドロップした魔石(小)を持ってみる。1センチに満たないくらいの大きさで、形は天然石のように個性がある。色は透明だ。
そういえば「薬師と魔道具師のための素材図鑑(初級編)」に魔石のことが載ってたなと思って図鑑を開く。
魔石とは…
魔物が持っている体を構成する「核」だったもの。必ず一体につき一つ持っていて、魔物を倒すとドロップする。
主な利用方法は魔力を付与し、魔道具の動力として使用。
魔石には、魔物の強さによって小型、中型、大型、特大があり、大型になるほど魔力をより多く付与することができる。
小型の魔石に付与した魔法は衝撃を与えることで発動する。それほど威力は高くない。
中型の魔石が魔道具によく利用される。生活必需品のほとんどが魔道具で、中型以上の魔石は高値で取引される。再利用が可能。
図鑑を読んでも付与の仕方までは書いてなかった。
うーん、とりあえず魔法を撃ち込んでみるか。物は試しって言うしな!
「ファイア」
床に魔石を置いてファイアを発動すると、魔石に燃え移り激しく火が燃えた。
「ぅわっ!?」
「あっぶな!」
レネさんが慌ててフリーズで火を消してくれる。周りには燃え移らなかった。一安心だ。
「ごめんなさい」
失敗だ。魔石は丸焦げでボロボロと崩れた。魔石って石なのに燃えるんだね。謎素材だ。
【クエスト「付与をしてみよう!」が発生しました】
ん?クエストだ。開いてみる。
◆クエスト「付与をしてみよう!」
魔石に魔法を付与してみよう。
達成条件:魔石に3種類の魔法の付与を成功させる。
期限:10日間
ペナルティ:付与に失敗した魔石喪失
報酬:付与スキル
獲得しますか? はい/いいえ
付与か。まさに今欲してるスキルだ。調薬で使えそうだし、もちろん獲得っと。でも、詳しいやり方が分からないな。魔道具師ギルドで聞けば教えてもらえるだろうか?
「大きな音がしたけどどうした?」
ガイルさんが作業場に入ってくる。
「ごめんなさい。ちょっと魔石に付与を試そうとして失敗しちゃって…」
「ああ。慣れるまではなかなか難しいからな。俺も何個も魔石を無駄にしたぞ」
ここに救い主がいた〜!
「ガイルさん!付与の仕方、教えてもらえませんか!?」
「ぅおっ?」
近付いて勢いよく頭を下げるとガイルさんは驚いたようだが、申し出を受けてくれた。ありがたい。
ガイルさんのアドバイスによると、小型魔石への属性魔法の付与の仕方は、魔石を1つ手に持って、「属性、魔法名、付与」と詠唱し、ゆっくりと魔力を込めるらしい。やり方が全然違った。失敗する訳だな。
よし。やってみよう。
とりあえず火はやめて、危険がなさそうな風魔法のウィンドからやるように言われた。
魔石を1つ両手で持つ。
「風属性、ウィンド付与」
触れている魔石に魔力が吸い取られる感じがした。ゆっくりとが難しく、一気に魔力が入ってしまう。入りすぎたのか魔石が2つに割れた。失敗。
「ゆっくりだ。魔力を取られないように意識しろ」
ガイルさんに頷く。もう一回。
「風属性、ウィンド付与」
今度は魔石に吸い取られる魔力を渡さないように意識して、少しずつ風の魔力を込める。しばらく魔力を込めていたが、吸い取る力が弱くなったので魔力が途切れてしまう。また魔石が2つに割れた。失敗だ。
「魔力が入らなくなるまで途切れないように注意しろ。途中までは良かったぞ」
もう一回。
「風属性、ウィンド付与」
ゆっくりと一定を意識して風の魔力を込める。しばらくすると魔石に魔力が入らなくなった。
【ウィンドの付与に成功しました】
成功のメッセージが出た。
よしっ。コツを掴んだ。
次は水魔法のウォーター。
「水属性、ウォーター付与」
一気にいかないように注意しながら魔力を込める。
【ウォーターの付与に成功しました】
火も同じように付与。
「火属性、ファイア付与」
一瞬熱さを感じて手を離してしまい失敗したが、2回目で成功した。
【ファイアの付与に成功しました】
【クエストクリア!】
【クエスト「付与をしてみよう!」をクリアしました。報酬を獲得します】
【新たなスキル「付与」を獲得しました】
【付与スキル獲得により、「付与」アイコンが作成されました】
「よしっ、付与スキルゲット!」
ステータスボードから掌に+マークの付与アイコンをタッチすると、説明が出ているので確認する。
【付与とは、魔石やスクロール等に魔法等の効果を付与するスキルです。レベルが上がると成功率が高くなり、様々な付与ができるようになります。
取得済スキル #魔法付与 】
この書き方だと、魔法でない付与もあるっぽいな。
期待の持てるスキルだ。
魔石にファイアを付与できたので、火炎瓶を作ることにする。
調薬でない、攻撃系の道具は初めて作る。
火炎瓶は魔石の他に油草の種、カラカラの干草が必要だ。素材はここに来るまでの道で手に入っている。
油草の種は煎ると油が出てくる。
瓶にカラカラの干草を敷き詰めて、煎り器で煎った油草の種を染み出た油ごと投入。そこにさっきファイアを付与した魔石を入れて蓋をする。投げ付けると瓶が割れて魔石に衝撃が加わりファイアが発動するらしい。
【火炎瓶作成に成功しました】
「よしっ」
無事に成功したメッセージが出たので、思わず声が出る。今回は失敗もしたし、なかなか大変だった。
これで魔道具師ギルドに納品すれば魔道具作成スキルも手に入る。
「ガイルさんありがとうございます。助かりました」
「役に立って良かったよ」
ガイルさんいい人〜!レネさんもそうだけど、優しい人が多い。この世界でやっていけるか不安な私にはとてもありがたい。
作業場を片付けて部屋に戻る。
たくさん歩いたし、疲れてたんだろう。ベッドに入って秒で眠りについた。




