生徒会の策略
定例購買会とは、わが校。桜高校で一か月に一度行われるイベントである。
商業科と工業科。主に二つに分かれている我が校は、昔から商品開発。および商品販売において活発的な活動を行ってきた。具体的には、春と秋にある地域祭りの参加。この町最大のイベントである、夏の三山祭への参加。隣町である川神町にて、川神祭での露店の出店。エトセトラetc。その中でも習慣性が高いこのイベントは、各部活。主に文化部が中心となり、制作した絵やら漫画やら本やらを販売する。毎月の最終日曜日に延べ千人を超えるお客を相手にするのだ。それはもう気合を入れなければやってはいけない。
このイベントを仕切るのはもちろん生徒会。しかし。我々購買部も、このイベントについての発言権は強い。
『購買部部長。購買部部長。至急生徒会室に来なさい。君たちが大切に保管しているここでは言えない本は我が生徒会長のしゅちゅ―にある!』
相変わらず喧嘩腰の女子高生らをなだめたり、餌付けしたりして消化をしていたら、そのような校内放送が流れ始めた。
『返してほしくば至急生徒会長の所まで来なさい!タイムリミットはあと五分。遅れれば、まぐまぐのかわいいポエム集がこの放送を通じて全生徒生徒に伝わるだろう!』
それは脅迫文であった。
下校時間とはいえほとんどの生徒は部活動に専念している。職員もほとんどが居残りだろう。何よりご丁寧にグラウンドにも流している。つまりはほとんどの生徒の耳にそれは入っているという事だ。けんかを止めたまぐまぐの顔が徐々に赤くなり、俺をせかすように部室から追い出そうとする。それを止めるは佐月。 曰く。
「部長!生徒会長は、まためんどくさい問題を持ってくるつもりだろ?!行かない方がいいって!」
これはあれだ。
面白いから、読ませてあげようってやつであろう。たぶん佐月はこれを利用し、まぐまぐの発言権を亡き者にしようとしている。
策士である。佐月である。
むろん。佐月をどかそうと必死になるのはまぐまぐ。公開処刑どころではない。一族皆殺しに等しい絶望であろう。
「ぶちょ―!お願いだから生徒会室に行って!お願い!」
涙目になるまぐまぐが流石に可愛そう。というか、どういう経緯でまぐまぐのポエム集が会長の手に?それはぜひ知りたい。
佐月には申し訳ないが、俺はまぐまぐの言うとおりにし。足早に向かった。
生徒会室と掲げられた看板。
シルクハットをかぶった亀のキャラクターが特徴的なこの看板は、生徒会長、飯田美里自慢の一品。美術部と漫画研究会を掛け持ちしている彼女は、絵をかくのとキャラクターを作るのが何よりの趣味らしい。以前彼女の部屋に招待されたときに溢れていたのはそれら、自前のぬいぐるみだった。彼女曰く。裁縫具の部長に作ってもらったものらしい。現生徒会のマスコットだ。
「あと二びょーだったか。惜しかったなー!もー少しでまぐまぐのかわいいポエムが流せたのに。サッチの拘束は思ったよりも頼りなかったようだ。」
あっけらかんとそんな事を言う美里会長。
生徒会室の扉を開ければ、予想とは違い生徒会全員がそろっていた。どうやら、何かしら話していたようで、机の上には資料やら筆記用具やらが散乱している。会長の後ろにあるボードには生徒会緊急会議などとマジックで大きく書かれていた。まじめな仕事をしている所を見たことがなかった俺は、その意外性に固まってしまう。すると、上記の言葉をかけてきた彼女は席を立ち、俺の目の前まで足を運んだ。
「何突っ立ってんの。早く席に座ったら?」
「生徒会が…仕事をしている!?」
「仕事をしていないみたいに言うなよ。というかまじで座れ。これから大事な話があるんだからな。」
そう言ったのは会長の隣の席。会計津田吊。
二年生唯一の生徒会で、俺の友人。瑠木よりは付き合いは短いが、親友と呼べるくらいには仲がいい。その友人の忠告。ふざけるのもたいがいにし、比較的疲れている。と言いたげに俺はこういう。
「なにかあったのか?」
「めんどくさい事だよ。お疲れ。」
席に座ると、会長から投げ渡されたのは缶コーヒー。素直にお礼を言うと、彼女はこう返してきた。
「来てもらって悪いね。それでも飲んで許してくれ。」
「ありがたく頂戴します。」
そうして彼女はボードの前に立ったのだ。
「ではこれより。生徒会緊急会議を再開する。」
「前月の定例購買会では、二つの大きな事件が起きた。」
隣の吊から資料を見せてもらう。どうやらあれの話らしい。
「売り上げ偽装及び、青少年の育成によろしくない本の販売。記憶に新しいでしょ?」
「ええ。後処理大変でした。」
前回、今季初めての定例購買会では二つの部活で不正があった。一つは生徒会長が所属をしている漫画研究会。そしてもう一つは。我々購買部。
「売上偽装については、光部長から詳しく報告してもらいたい。ってのが生徒会の意見なんだけど?」
「この書類にまとまっているじゃあないですか。”会計時の間違い”。ですよ。」
そう断言する俺を美里会長はただ一言。そう。とだけ答える。
「それならいいんだ。これの通りだったら問題はないさ。」
そう言って、ひらひらと書類をたなびかせる会長。多少は追及されると思ったけど、こうもあっけらかんに終わるとは思わなかった。
「ありがとうございます。」
一応例は忘れない。
「んでもう一つの案件。購買部部長。今回君を呼んだのはこちらの案件なのだ。」
別な紙を取り出した彼女は、それを俺に提示してみせる。裏購買部。提示したそれにはそう書いてあった。
「裏購買部ですか?」
聞いたことのない部活だと答えると、彼女は無理もない。と言いたげに顔を横に振る。
「そりゃあ生徒会と一部の生徒しか知らないもん。」
「…その一部の生徒に瑠木は入っているんで?」
「知らない。あれの中は私でも知らないからね。話を裏購買部の件に戻すよ。こいつらについて何か知っていることはないか?いや。これではあれだ…。じゃあこうだね。」
「君は、裏購買部のメンバーか?」