購買部の日常
仮名へ
突然の手紙ありがとう。
こちらでは、俺たち二人とも無事入学できてもう二年生だよ。あの瑠木でさえ入れた学校だぞ?俺が落ちるわけがないだろう?まあ楽しくやっているよ。青春を満喫している。
ウチの学校は少々変わっていてな。購買部という部活があるんだ。ちなみに俺は部長。副部長春木。何の因果か知らないが、また部活の長たるものをやっている俺をお前は笑うだろうか。笑ってくれてかまわない。瑠木も爆笑していた。
購買部の活動は主に三つ。
購買室での購買活動。
ネットでの購買活動。
そして…定例購買会。
詳しい話はまた書くよ。時間はたっぷりあるからな。
吹奏楽部の音が聞こえる。
春らしい音楽は、桜が散り落ちた今日この頃には似合わず、どちらかというと初夏の香りがする。五月というには暑い日差しが照り付けていた。
机の上の束の中。
友人にあてる手紙が見える。
「つまりこういう事か?マニアになるには才能が必要である。」
「まあそうなるね。」
購買室はそのような日差しを受けず比較的寒い。
「一つの物事に集中できる。ってのも才能だと僕は思うって話さ。」
「そんなのが才能といえるのか?」
「才能って物の定義が人とは別格を現すものって意味なら、それも才能になるんじゃあないかって話。例えば、絵を描くことを趣味にしている人がいたとして、その人が絵がうまい事と、その絵を描くという事を続けられることっていうのは全く違う才能だとは思わないか?」
俺の友人である武田瑠木は平然とそんな事を言う。
「だが、それだと趣味を持っている人はみんな才能がある人。って事にならないか?才能って言葉が希薄化すると思うが?」
「ならないと思うよ?」
相変わらず狭く少し寒い購買室の中では、部長である俺。三島光と副部長であるこいつを差し置いて白熱した討論が繰り返されていた。
「趣味を持つのと続けるっていうのは意味が違うからね。大切なのはそれにはまっていて、なおかつ何年も続けているって事ってなるわけだよ。要するにそれが飽きない才能。」
俺達が通っている県立桜高校は、商業高校。工業高校がともにある比較的珍しい学校である。全校生徒は六百人。そして何よりも活発なのが…部活動だ。
「先輩方。あれ…止めなくてもいいんですか?」
我々購買部も、新入生計四名が入りだいぶにぎやかになった。
時刻は四時。そのほかの生徒諸君は吹奏楽部のように、部活動を、青春を謳歌中である。そんな中、俺たち購買部も青春を謳歌中であるはずなのだが…。
カウンターの方から二人の大声が聞こえる。
窓際であるここまでその声は届いた。比較的狭く通路が一つしかないという点を置いてもうるさい。隣の美術部の先生に怒られるのも時間の問題だろう。
「だから!売れない物を置いても意味がないし、逆に売り上げの邪魔になるだけなんだよ!!それにあの中華饅くそ不味いし!!!」
「普通においしいであります!佐月の舌がおかしいだけなんです!」
「佐月。まぐまぐ。うるさい。」
「忠美は黙るであります!」
「うるせえ!忠美!」
「っ…!!」
三人の女子高生はまだ言い争っている。
こうやって争いあうのも青春だろうか。
ならば、俺達も青春を謳歌中であることに変わりはないはずだ。
「まあ喧嘩はよくないよ。中華まん食べる?」
売れ残りの棚にあったのは二つの中華まん。それを堂々ともらい受け瑠木は二人に見せる。
争いの種である中華まんをよくも出せるものだ。というか…。
「近づけないでください先輩!!」
「先輩!ちょうだい!!」
中華まんから離れるは佐月佐々美。
中華まんをもらおうと手を伸ばすのは多田マグ。
先ほどの言動で切れかかっているのは巣蔵忠美。
「おい。それ売れ残りの奴だろ?」
「どうせ捨てるんだったら胃袋に捨てた方がいいじゃないか。日本人の勿体ない精神をここで発動!!中華まんをまぐに装備!!」
袋から取り出した中華まんがまぐの口を塞いだ。多少嫌な顔をなさるかとおもったが…。
「ふはい!」
本人もご満悦である。
「んでもう一個…誰か食べる?」
「俺はパス。」
「僕も。」
もう一人の後輩。土橋栄作は謹んで辞退する。
「はっきーひもふへいはあ?」
「まぐ。食べ物を口にしながらしゃべらない方がいいと思うよ?」
女子が恥ずかしいという瑠木。だがお前は女の子の口に中華まんを押し込んだんだが?その行為について弁明してもらいたいものだ。
「たぶん。ザッキーに献上しろとかそういうのじゃあないですか?」
「ザッキ―ね。ザッキー…か…。…却下。」
「なぜです?」
「原価計算の授業で素晴らしい点を取っているからな。小言を言われるのが嫌なんだろ。」
「ちなみに何点なんですか?」
「言わないでおく。」
友人の名誉のために、あの惨劇たる点数は心にしまっておいた。
「んで。先輩たちはどう思いますか?」
「まあ現状維持ってやつだな。売れ残りがあるって言っても所詮は許容範囲。それにこいつを廃止にすると、うちの副部長が赤点になる。」
「じゃあ現状維持ってことでいいかな?」
「少しは減らすがな。流石に七個は多すぎだ。」
「五個ぐらいかな?」
「それくらいだろな。今月の売り上げは…例年通りか。まずまずだな。…。」
机の上に乱雑に置かれた紙切れを見ながらそのような事を吐く。
「中華丼の仕入れさ。あれどうなったの?」
「奈波弁当屋に確認したところ中華丼とアジのフライ弁当については未定だそうだそうです。そのほかの弁当は大丈夫だそうなんですけどね。」
「海鮮系だけがだめなんてどんな状況なんだよ。」
「おやっさんが胃腸炎で倒れたそうですからね。」
亭主が胃腸炎で倒れて、中華丼だけが作れない弁当屋なんて…。
「海鮮系駄目ですから。女将さん。」
「知っているけどさ。」
帳簿は書き終えている。やることと言ったらここでこうしてグータラすることだ。帳簿などの事務作業もない。
「まあ。ゆっくり決めますか。」
「定例購買会の話はどうする?」
「明日でいいでしょ。じゃあ僕たち帰るから。ちみたち戸締りしっかりしてくれよ?」
自分の鞄を取り出した瑠木。
「俺は帰ると言っていないぞ・」
「帰るんだよ。副部長命令。」
「俺は部長だ。」
「じゃあ。委員長命令。」
ちなみに、図書委員会の委員長でもある。
「図書委員会とは関係ないだろ?」
「僕委員長。君平委員。OK?」
OKではない。
仕事は確かに終わったけどさ。
「…はぁ。あと大丈夫か?」
「行ってらっしゃい!!」
元気に腕を振るまぐまぐを見ていると不安が倍増する。
まあ帰るか。
「戸締り宜しく。」
「分かりました!!」
「まぐまぐ!!騒ぐなよ!」
「はい!」
これだけ注意をしておけば大丈夫だろう。
背負った荷物はいつもより重たい。
正面玄関から出ると、瑠木は駐輪場を目指し走る。
正門を抜けるころには、愛用のママチャリに乗って俺の脇に来た。
日差しはまだ暑い。
「それにしても。我が部は本当に忙しいね。」
「早く終わるときはやけに早いんだがな。お昼時にも部活があるのはウチぐらいだし。」
フェンスに囲まれた旧工場跡。踏切、その先にある商店街を抜ける。
「そういえば、一つ面白い話があったよ。」
公道を走る車がうるさい。
信号が赤になったので止まった。
「何のはなしだ?」
「生徒会に提出した予算のお話。」
生徒会からは何も言われていないが?
「縮小しろ。との伝達だ。」
「なぜ?」
「予算を縮小しても活動できるから。無駄な活動費を削りたいから。この二点だそうだ。」
意味が分からない。いや。ある。が。
信号は青に戻る。
「まさか…定例購買会の事か?」
「そういう事。」
「また石頭のジジイが言ってきたんじゃあないだろうな?」
「そういうわけでもないんだよね。いろいろと事情があってとしか聞いていないけど、教頭からではないらしい。生徒会自身の決断。」
「めんどくさそうだ。」
「ずいぶんとね。というか。心当たりあるでしょ?たぶんそれの件だよ。というか絶対。」
まあどのような理由でも購買部部長としては頭が痛い。
「じゃあここでさようならだ親友。明日。早朝に部室で会おう。」
気が付けばいつもの裏通り前。
「宿題ちゃんと終わらせろよ?」
「分かっているよ。」
そう言いながら手を振る友人を横目に、俺は自分の帰路についた。
ps
そうそう。町の様子は変わらない。
唯一変わったのは、市役所前が華やかになったことぐらいだろうな。
それだけだ。
じゃあ。




