47「本当の悪に美学などない」(復活済み)
【1。獣王国サイド】
ふう……。昨日は散々でした……。
でも頼りになる参謀が動いてくれております。
私の不得意な分野は他人に頼るのは良いことです。その為の人脈。頼りになる方が味方で良かった……。
さて安心したところで私が何をしているかと言うと……獣王様よりご依頼いただいた魔法剣の作成中です。
少し面白い機構を思いついたので組み込んでおります。
刀身に魔法回路を組み込む作業を行っております。実家で行っていた作業と違う点があるとしたら『元の剣が大変高価な剣の為、祖母より専用道具を借りて作業』をしていることぐらいです。
お借りした道具が凄いんですよ。
ゴーグル型で視界をふさいでしまうのですが、材質と魔法回路の親和性がよく見えるうえに、ズームすることでより細かな魔法回路を刻めるのです。と言っても私の場合は言葉での入力から魔法回路への変換したうえでの素材への焼き付けなので今までは『勝手にできあがっていた』のです。なので『そんなに必要か?』とか思ったのですが……必要でした。
この道具と祖母から教えられた理論を実践して自分の考えの浅さを痛感しました。これがなければ2~3本ぐらいダメにするか、低品質なものしか作れなかったところでした。
でもこの作業、集中力が必要なのです。
しかも視界を完全に奪われ、魔法回路の焼き付け作業がひと段落つくまで手も離せない。
楽しい反面制限も多い作業です。
その為、この作業部屋という厳重に管理された部屋には私と権三郎、獣王家の近衛兵団10名がおります。
護衛と書いて監視と言う奴です。
剣もそうですが祖母が貸し出してくれているこの道具も相当高価なもののようです。
お値段は聞かないでおきましょう……。
「こんにちは~!」
そんな厳重警備の部屋に能天気な女性の声が響きました。知らない人の声です。
「……アリリィ様、現在マイルズ様の作業中ですので……」
その女性に対し、近衛騎士団の隊長が遠慮がちに声をかけております。
……隊長、中級獣人以上の方だったはず……ということは、今いらっしゃった方はかなり偉い方ですかね……。
「どなたか存じ上げませんが、今手を離せませんので御用の内容は権三郎にお伝えください」
今手を離すとこの剣が魔法剣じゃなくなってしまいます。
起動制御周りなので難しいのです。失礼を承知で申し上げました。
「大丈夫、大丈夫。ブツを受け取りに来ただけだから~」
明るい口調で女性はそう言うと隊長さんと話を続け、受領手続きを行っているようです。
……気になります。この部屋に置いてあるもの……。祖母が貸してくれているこの道具を使いこなすために作った『炎が出る剣(剣を初歩的な魔導具にする練習)』と『魔法威力が上がる杖(外部魔力と魔導具との親和性確認)』と『スカウターと連動する魔法杖(繊細な操作性確認)』の3種類ですね。
失敗作3組、低品質2組、成功1組です。
……これでこの剣を魔導具にすると獣王様に宣言し、快諾していただいた時の苦虫を嚙み潰したような祖母の顔を思い出し……たくありません。やっぱりこの剣は相当高価なのですね……。
いけない、いけない。集中力が途切れてしまいます。
「うわ。これ面白っ!」
うーん。なんでしょう……。この方、祖父の血族の方な気がします。空気感が一緒です。
「えーっと、取扱説明書もあるね。さすが大賢者、マメね~」
「アリリィ様、マイルズ様が作業中です。声を控えていただけると……」
「あ、ごめんごめん……」
気になります。
このおねーさん、気になります。
多分持っていらっしゃるのは『スカウターと連動する魔法杖』のはず。それには面白い機能があるのです。説明したいのです。でもこの作業……。
「……ふぅ、ひと段落なのです」
できるだけ丁寧に急いで予定作業を終わらせて私はゴーグルを脱ぎ、周りを見回します。
先ほどの女性は……いらっしゃいませんでした。
「あれ? 先ほどの女性はお帰りになりましたか?」
「はい、賢者アリリィ様は1時間ほど前にお帰りになりました。マイルズ様に感謝をと言付けをいただいております」
1時間も経過しておりましたか……てっきり数分かと思っておりました。
そういわれると疲れたような気もします。
「ではマスター、時間が過ぎておりますのでお昼寝に向かいましょう」
「あ……でも」
先ほどの女性のことを……。
「お眠りいただけないと、成長できませんよ」
権三郎は私に諭すように言うと私を抱え上げ、背中をポンポンしながら部屋をでました。
もちろん道中爆睡し、夕方に目を覚ましました。
ま、獣王様や祖母が許可を出してお渡ししている方であれば問題ないか。
―――とある異世界宗教の7大幹部、その1人―――
「フィラント様……教主様より……」
兄(部下)が文を差し出す。手渡してしまってよいかという苦悩の表情である。
若者よ。組織と個人で苦悩しているのか、優しいことだ。だが、それは重要なことだ。苦悩するがよい。判断とは、知識とは、考え、思い、悩んだ先にしか身につかんのだ。
「……ご苦労」
「(……中はおっさんなのに、可愛い。守りたくなる。何なのこの気持ち……)」
儂は組織のトップである教主からの文を渡してよい物か、己が役職への正義と人として正義の狭間で揺れる兄(部下)から文を受け取り封を開ける。
…………。
書かれていたのはグルンドでの諜報活動がうまくいっていることと3名の幹部を既に潜入させ英雄の生活圏で工作を始めているという内容であった。無論、儂の活動がうまくいっていないことへの苦言も書かれていた。この世界に来て儂との立場が逆転したこともあり、儂への指摘・叱責の部分は妙に長く、筆が乗っている。何とも小物よ。しかし、世の中得てして小物が大きな事件を引き起こすものだ。この荒唐無稽な西大陸を混乱に陥れる計画も……、もしかしたら考えもつかぬ事象を起こすかもしれん……。しかし、コムエンドの潜入か……確か【希望】のディニオと【正義】のドゥガと【節制】のバルニフェルディアスか……。うむ。間違いない。教主はディニオに手玉に取られておる。
儂はあの人の良いを浮かべる策謀家ディニオを思い浮かべる。財源を担当し、各国の裏とつながる男。そんな男が簡単に教主の【派手な】計画に乗るだろうか……。
そうだな。きっと、別な計画を進めていたディニオの元に制御不能なドゥガと、裏切りの聖女バルニフェルディアスを無理やり押し込んで計画を押し付けたのだろう……。
という事は失敗してもディニオの思惑が働くに違いあるまい。
そうなるとある程度の【損切】を行われるであろう……。
後始末はバルニフェルディアスと儂か……。
厄介な……。ここで派手に動くことは得策ではないか……。
クラーケン計画がギリギリであるな……。
などと思案しておると何やら頭頂部に違和感がした。
「……何をして居る?」
「フィラント様……町娘であれば髪飾りの一つもするものです……(うん、妹可愛い♪)」
「……そうか、儂がそのようなことに疎い故、毎回苦労を掛けるのう……」
「いえ、フィラント様のご苦労を思えば……(次は何にしようか……服かな? いや~妹が幼かった頃を思い出してきた~~w)」
儂はこのように気遣える部下がおる。ここはひとつこの者たちを守るためにもひと踏ん張りせねばならんな……。
そう気持ちを改め、儂は職場に向かうのであった……。
【2。領都グルンドサイド】
―――勝さん1号の視点②―――
私は今、自由を満喫しています。
ちなみに本体は私が自由に動けることに気づいていない。
今、繁華街を歩いていています。
身体制御の訓練と異世界への興味本位からのお散歩です。
現代の明るさを知る私ですが、外灯の薄闇、明治大正時代のような活気を感じる夜の街もよいものです。
田舎の夏祭りのような騒がしい飲食店。
とても雰囲気が良いのですが、残念なのは今の私では飲食ができないからだという事です。
私の体はかなり人間に近い構造になっています。
既に一見すると金髪、灰色肌の身長160cm。14歳ぐらいの少年に見えるはずです。
尚この世界での成人は15歳です。
昔は12歳の時に行っていた神への挨拶を行う儀式から大人として扱われ、税を課されていたそうです。
ですがこの国では今の王様が義務教育制度を推し進め、その結果成人年齢が15歳へと上がったそうです。
……中世レベルの文化で教育を推し進めて大丈夫なのでしょうか。
高度な発展は国を富ませます。
その行為は『新たな権力者』を生み、強い野心を呼び起こすものです。
強い野心は他人の安定や平和など気にせず、小野が野心を追求し、体制維持を己が都合の良いように動き始めます。
それこそ情報網が整備されている現代社会でも起こる事、中世だと……まぁ、私が気にすることでもない事か……。
私は繁華街のお散歩に意識を戻す。
酒を片手に騒がしい男たちを横目に歩く。
農業都市の名を冠するこのグルンドはほんの30年前まで寒村だったそうです。
そこを若かりし頃の英雄と賢者に救われ、現在その英雄と賢者の一族に統治されながら進行中で発展中とのことでした。そういうことで人が増え産業も生まれているこのグルンドは非常に勢いのある街になっています。
きっとバブルと呼ばれたころの日本もこのような活気があったのでしょう……。
さてこの体ですがアンドロイドボディーです。
有り体に言えば強化変形されただけの石です。
硬度はどの程度あるのか。気になります……。
まぁ強度はさておいて、昨日お試しで機能を組み込んでみました。
『赤外線暗視装置』と『魔法力感知機能』です。
そして現在、私の視覚情報には通常の『光学』風景と『熱感知』並びに『魔法力感知』の情報が浮かんでいます。
情報過多な視界ですがこうやって夜間散歩することで徐々に慣らし運転をしていたのですが……。運用初日で変なものを見つけてしまいました。
……あ、目が合っていましたよね……。これ。
視界には映っていない男としっかりと目が合っちゃってます。
……地球外生命体が光学迷彩とかでしょうか。あれ?
プレのデターさんですか? あれ?
ここはファンタジー世界では?
……いつからSFになったのでしょうか。
とりえず軽く手を振ってみます。
あ、動揺してる。
友好的なエイリアン(仮)なのでしょうか。
ゴン!
いきなり衝撃に襲われました。……痛覚無くてよかった。
私の頭を打ちぬかんとする勢いで殴られました。
首の駆動系のチェックが必要になるじゃないですか……まったく。
殴られっぱなしも好かないのでとりあえずお返しをします。
……よけられました。
傍から見ると変な音を立て、急に踊りだしたように見えるのでしょう。
むぅ……30年前に空手をやっていた私の一撃を……難なくかわしますか……やりますね、エイリアン(仮)!
腰を少し落とし、即応できる体制に移行します。
体から力は極力抜きます。いわゆる脱力というやつです。
警戒されました。
酔っ払いがヤジを飛ばしてきました。
踊りではありません。断じて変な踊りではありません。
いや、お姉さんとは一緒に踊りたいですが……生殖器官ないので無念です。
おっと、エイリアン(仮)を無視してしまいました。見えない相手は対応し辛いですね。
え? 日本酒ですか。いいでしょう。ご相伴にあずかりま……はっ! 飲食できないのでした。これは早急に対処せねば。……また殴りましたね、貴方。教育がなっていませんよ……。人が話しているときは手を出さない。変身しているときは完了まで待つ。人間として最低限のマナーですよ?
……もう腹をくくってカウンター狙いで……かわされました。
えー、口笛いりません。
演武ではありません。
日本酒は飲みたいです。熱燗、素晴らしいですね。おでん。おでんはいずこ!
おでんこそ正義……また殴られました。
イライラします。
エイリアン(仮)だと思って下手に出たらこれですか……。全く、最近のエリアン(仮)は……。再教育してあげましょう。
太ももを打ち抜く形で蹴りが飛んできました。
ですので私のとっておき……『ゾーン(笑)』を発動させます。
簡潔に数値に支配された私の認識空間が発動します。
これからは先ほどと同じように殴れると思わないでいただきたい。
……蹴られました。
相手つよっ。
でも反撃もしました。纏っていた空間に違和感があったので隙間に手を差し込み引きちぎりました。
すると、エイリアン(仮)がその姿を現しました。
あ、おひねりありがとうございます。今拾います。すごいでしょ? うちの相方。
「俺の魔術を打ち破るとは貴様、何者だ? そしておひねりを拾うのをやめろ。襲っている俺の立場がない。俺と向き合え!」
金髪碧眼のマッチョ。エイリアン(仮)は2mはある身長のクマっぽい白人男性でした。
「ああ、エイリアン(仮)が言葉をしゃべった!」
「真面目にやれと言っている!」
怒られました……解せぬ。そしてエイリアン(仮)は抜剣します。
すると場の空気が変わります。
「すみませんね。昔の知人に似ていたので。つい。プレデターとお呼びしても? Mr」
「光学迷彩を使っているからと言って地球外生命体扱いとはな」
ほほう。異世界人さんですな。鎌をかけてみますか。
「もしかして、ゾンビとエイリアンが好きな自由(笑)の国の方ですか?」
「ほう。我が祖国を愚弄するか。そういう貴様、その信心のなさそうな態度はジャップか」
「久しぶりに聞きましたね。その差別用語。さすが有名ドラマも映画もゾンビだらけの国の方」
「やはり信心の足らないジャップか。あれは最後の審判を待つ敬虔なる信徒よ。それを映像作品として娯楽性を持たせただけと何故わからんのか」
「すみませんね。うちの国、教会と寺と神社が同じ通りで仲良くやってる国なものでね。そこまでマニアックな設定存じ上げないのですよ。これは失礼(笑)」
あ、切れましたね。これ。カルシウムが足りませんね。
「大戦後、赤の手下に成り下がった小国が粋がるな!」
今『気になること』を言いましたね。この方。
おっと、神速と言っていい動きから剣を叩きつけてきます。しかし怒りで我を忘れてわかりやすいです。早かろうとテレホンパンチなんかに当たるわけないでしょうに……。
「変なことを言われますね。一応同盟国でしょに」
返す刀で連撃ですか。これはかわし切れませんね。
キンキン!
腕に一撃。胴を一閃されます。同時に繁華街に悲鳴が響きます。
あ、ご心配なく。服は破けましたが、破損はしてません。なかなかの防御力で安心でしょ?
「はぁはぁ、同盟国だと? 大戦の果てに自滅して赤にすり寄った国がどの口で言うか」
どうやら決定的なようです。このプレデター改、金髪中年大男が来た異世界は私が来た世界とは違うようです。
「貴様の体……なにでできている」
金髪中年大男の剣に光が宿ります。
ライトセーバーですか、つくづくデスネこの方。本当に厄介そうです。
どうにもこの体には色々足りないですしね……。
「ご苦労、いとし子の代行者よ」
変態が悠然と現れました。
変態の手には酒場のハンターから先ほど借りたロングソードが握られています。
……すでに到着していたのは先ほどから気付いていました。
のんびり見学しつつ世間話をする前に助けに入ってくれませんかね。
「じゃ、あとはお任せしますよ。無様をさらせば本体に報告しますのでお忘れなく」
「くくく、怖い怖い。さぁせいぜい頑張るとするか」
おどける変態王子。非常に頼りないです。ですが、私の野生が言っています。問題ないと。
あの金髪中年大男さん、死ななければいいですね。
あ、プレデターだからしつこいのが取り柄か! 安心です。
◆◇◆◇◆
私の目の前で繰り広げられているのは剣戟の雨だった。
激しく打ち鳴らされる金属音はどこかリズムを刻んでいるように聞こえる。
人々が逃げまどい、騒然としていた繁華街もいつしか静かになっていました。
ここにいるのは腕に自信のある戦闘狂のみです。
ちなみに、私は戦闘狂ではありませんよ。
生モノではないので危険なしとして状況を観測しているだけです。
状況は一見拮抗しているようです。
しかし、素人目に見てもお互いの余力が違います。
変態王子は未だ実力を確認するように余裕の表情を浮かべています。
金髪中年大男の方は一撃一撃に疲労を感じているのでしょう息が荒くなっています。
決着はまもなくつくでしょう。剣術の勝負は。
金髪中年大男はたぶん近世か現代の兵士でしょう。剣術のプロではなさそうです。
光学迷彩等を使えている面を考慮しても異世界魔術による切り札を3枚4枚残しているのだろうと予測されます。
今見せている装備に関しても、光を放つ剣と同じく光を宿した籠手。私も先ほどうかつにも光を宿した籠手で殴られかけました。何の効果があるのかわかったものではありません
さらに、それだけではないと私の本能が警鐘を鳴らしています。
「はぁはぁ、貴様いつまで平然としている」
金髪中年大男は距離を取ると忌々し気に言葉を吐き出す。
やはり何か仕掛けているらしい……。
「吸精の魔剣だろ? それ。残念だったな、どうやら対抗スキルがまだ残っていたようだ。しかし、私も色々試してみたがすべて封印されている。このハンデ戦はきついな」
変態王子の口に余裕の笑みが浮かんでいる。
「ああ、それとこれも返すぞ」
遠目には見えないがこの体の私には見えた。細長い針のような物体だ。きっと仕込み武器なのだろう。
「毒も効かんとはつくづく化け物め」
金髪中年大男が息を整えているのがわかります。
これが噂の『舐めプ』というやつでしょうか。
大勢の命がかかっているのです。やめていただきたい限りです。
「仮面の男よ。勝負に彩を添えよう『爆ぜろ!』」
言葉に反応してが持つ剣から爆発が巻き起こる。先ほどまで余裕だった変態王子が宙を舞う。
カランカラン
爆発の轟音で視界と聴覚を封じられる中、変態王子が手放した剣が転がる音を確認した。
視界が戻る。変態王子は爆風に身を任せ転がる。
ダメージは大きいようで立ち上がる際に少しよろけております。
それよりも。金髪中年大男が何をしたのだろうか……。
私の予測が正しければ最悪の展開だ。
「おい、宗教テロリスト。次は私が遊んでやろう」
意を決して大通りへ歩き出る。自分の爆発を想定して歩かねばならない。
「不敬なジャップか、お前は後だ」
「連れないこと言うなよ……」
ガギン!
言い終わらないうちに剣で打ち据えられた。痛覚はないが衝撃で叩き伏せられる。
「ガキの遊びに付き合ってる暇はない『爆ぜ」
今だ! 金髪中年大男と変態王子の間に飛び込む。
「ろ!』」
打撃面が熱を持ち先ほど打ち据えられた私の肩の表面から爆発が巻き起こる。
そして私は無様に吹き飛ばされた。
「待たせたな仮面の男。先ほどはこちらが時間をもらったのだ。これでチャラかな?」
まいりましたね。体が動きません。
どうやら現在私の体のほとんどのリソースが状況確認と機能回復に割かれているようだ。
そのため音声出力もままならない。
「ふむ、貴様まさかこれで勝負を継続とでもいうつもりか?」
「当たり前だ。体感しただろ? この魔法が俺が潜伏中にこの街に仕込まれていないわけがないよな?」
「ほほう」
「これから貴様は俺のサンドバックとなるのだ。何、数分で神の御許だ。安心して行くがいい」
やばいですね。伝えなければこちらの主戦力である変態王子が散ってしまいます。
変態王子がいなくなってしまえばあの中年を止められない。
ん? 変態王子。何を平然と歩いて剣を拾っているのでしょうか。
あの魔導具の仕組みをもってすれば街中に爆発を引き起こせるでしょう。
何せ光学迷彩で街をさまよっていたのです。状況を理解していますか?
「サンドバック? では貴様は練習用の木偶人形にしてやろう」
中年大男が言葉を発する前に一気に距離を詰めると変態王子は剣を薙ぐ。
私の視界ではその剣には魔法力が流れている事が観測される。
鈍い音がした。後を追うように軽い金属音が響いた。
変態王子の一撃が中年大男が持つ光る大剣を半ばから斬り飛ばしていた。
まずい。そっちではない。
「やってくれるな」
続く変態王子の連撃を折れた剣でかろうじて受ける中年大男。
「『爆ぜろ!』」
連撃の切れ間に中年の男は詠唱を完了させる。
しまった、これで街のどこかが吹き飛……ばなかった。爆発音すら聞こえてこない。
「で?」
悠然と剣を向ける変態王子。くっそ、絵になりやがる。
「きまさ!!! 何をした」
「何もくそもあるまいよ。起動鍵であるその籠手を壊してやっただけだが?」
軽い調子で大男の左手の光を宿した籠手を剣先で指す。
はめられた宝玉が割れていた。
「ぐっ」
「二度も同じ手札を切るからそうなる」
変態王子が勝負の終わりを告げる剣を掲げた時だった。
「ああ、認めてやろう」
中年の男は付きものが落ちたような顔でそうつぶやく。
不意に私も剣を構える変態王子も、中年大男を警戒してしまった。
ここで変態王子が剣を振り下ろせれば終わっていたはずだった。なのに警戒して動きを止めてしまった。
「神よ」
中年大男のつぶやきに周囲の魔法力が反応した。
強力な力の流れが中年大男に流れ込んでしまった。
もう、こうなってしまうと誰も近付くことはできない。
数秒。待つしかない時間が過ぎて、強烈な光と共にそこにそいつがいた。
いわゆる白竜。
龍ではなく恐竜にも似たドラゴンの方の竜。
白い鱗と肉食獣の金の瞳にほとばしる魔法力を感じる。
失敗した。奴の最終手段がこれか……。
『戦士よ。戦いだ』
白竜となった男がそうつぶやくと、魔法力の波動が街を覆う。
次の瞬間、街から光があふれる。……激しい爆音とともに。





