42「いつもいつもちゃんと反省しております」
「ふむ、違和感がなくなったのう」
ポチの一言です。何言ってるのでしょうか。
「ですね。普通に女児で通じますね」
タマ? 目、ついてます?
「我々としてはこのまま成長していただきたく思います。何でしたらグルンドに引っ越す所存です」
親衛隊長? 貴方、キャラ壊れすぎです。
結論。慣れすぎました。
あれ? スカートに違和感が……あれ? あるぇ?
……今日のリボンですか?青がいいのです。
「てなことがあったのです……」
「へぇ」
ザン兄が私を見上げて答えてくれます。反応がいまいちです。おかしいのです。
「で、それ何?」
「ふふふ、ザン兄もよいところに気づいたのです。遠隔操作型案山子試作1号なのです」
「ふーん」
冷たいのです。弟に見下ろされるのがそんなに嫌なのでしょうか。
「高い高いしてあげましょうか?」
「ふん!」
何故だかザン兄が拳を痛めました。このボディを叩くなんてなんと無謀な。
「今日はここで戻るのです! ではまた」
遠隔操作型案山子試作1号を庭の権三郎衣装室に置いて接続を切りました。
お昼休憩を使って遠隔操作から意識をこちら、獣王都に戻します。
遠隔操作をしているときはこちらの体が空くのです。お昼寝という体で横になったのですが……気づけば髪形をいじられていました。三つ編みとか。あれ? およそ15分ぐらいで何でこうなった。
「うがー! なのです」
「逃がす……と思ったか!」
「確保しました」
「もうあきらめてそちらに目覚めましょう」
3番目!
というか親衛隊長!
3歳児ですから、よくある『昔は着せ替え人形にして遊ばれてた』的な流れのはずなのに、なぜガチな流れなのでしょうか。
ゆっ、油断も隙もないです。
「てなことがあったのです……」
「災難じゃな」
ああ、理解者は獣王様だけです。
現在、王宮滞在3日目。
なぜだか作るものすべて発表禁止、製法は国家機密とか……。異議ありまくりなのです。
「遊びたいのです! なぜ、荷電粒子砲とか……電磁加速砲とか……プラズマ砲とか……反物質粒子砲とか……付けちゃダメなんでしょうか!」
「うむ、素晴らしい発想だが! 剣は近接武器じゃ」
何故ですか!!
なぜそこで正論なのですか獣王様!!
「何故ですか! 発想の転換をしないと技術に進化はあり得ないのですよ!」
「……興味はあるからもう一本わたそ……」
「おいこら、いぬっころ」
祖母が怖いです。小声で応援しましょう。
「獣王様、がんば」
「ぐぐ……可能性は試してみなければ……」
「お手」
「バウ」
所詮はポチの親という事でしょうか。
「マイルズ」
祖母の笑顔が怖いです。
「おばあちゃん。お仕事忙しくなってお帰りになったのではないのですか?」
小首をかしげて小悪魔スタイルです。あ、頭掴む握力が強いのです。ご、ご勘弁を。
「何を作る気だったの?」
「普通に振動剣を……」
「振動剣って?」
祖母の手が緩くなりました。少しだけ。
「刃先を超振動させまして、接触する組織を細胞単位で断裂させてゆく剣です」
「おお!」
理解してくれますか! さすが獣王様!
「もうね! 鉄ぐらいならスパスパなのです!」
興奮する獣王様。おばあちゃんは少し握力を強くします。
もう一歩踏み込んでもいいのですね!
「そして!」
「そして?」
いいです! いいですね獣王様! 一緒にテレビショッピングしましょう。
「キーワード起動で隠し機能が発動します!」
「キーワード! 隠し機能! 燃えるのう! して、どのような機能じゃ!」
「魔法力ある限り連射可能な先日の爆発魔法ぉぉぉぉぉぉぉ」
おばあちゃん頭痛いのです。ギブですギブです。
「はぁ、やっぱり見に来てよかった……」
「基準がわからないのです……」
「連射型爆発魔法はセーフではないのか?」
祖母の視線が厳しくなります。
「アウト」
「では連射機能なしの爆発魔法は?」
「……ギリギリかな」
ほう、では複数機能を付けちゃおう。
いけるイケルで!
………脳内反響で『逝けるで!』に聞こえましたが気にしてはいけないのです!
獣王様もそこで我慢したらしく納得顔である。
さて、基本設計を紙に起こしましょうか。
気分で実装が変わりますが。
こうして私は一本目の魔法剣作成を開始します。
あれ?そういえば私、滞在期間超過してません?
「問題なしじゃ!」
「この状態で戻って来られるとかえって問題ありよ」
ふむ、納得しました。納得できないけど。
とある異世界宗教の7大幹部、その1人----
ふむ、やはり休暇は異国に限る……。
思い起こせばあちらの世界にいた頃より『御国を離れ隠密活動』に従事しておった為、自らが知らぬ文化でゆっくりと体を休めるのに慣れてしまっているのだな。
思えばこの地へ流されてすでに100と数十年が経過しているが……故郷を想う想いは変わらぬというところか。
異国の地に馴染むとは難しいことではあるが、幕府の隠密として世界各国をわたり歩いておった儂としては慣れたことだ。
……そういえば、随分日本の食い物を食しておらぬ。慣れとはいえさみしいものだ。
……確かに日本人と遭遇することがたまにあるが生きた時代は違うのか食文化も大きく違う。それでも懐かしの味に近いものを再現してくれるのでうれしくはあるのだが……。せめて醤油で何かしら食いたいものよ……。
そう物思いにふけっておると、教会幹部としての儂に教会暗部より密書が届けられる。差出人は忌まわしき教主である。
儂がこの世界に流されるきっかけとなったのは教会への潜入中であった。
豊臣の治世より日本人を海外へ売り資金を得ていた組織、その本部へ販売ルートを遡り潜入していたころの話だ。幸い同僚に呪いや妖術を得意とする者が居って、色々学んだことと儂自身忍術を嗜んで居った為、奴らが【神の奇跡】と呼ぶ魔術を習得するのは簡単であった。そしてそれを基盤に組織内部をのし上がっていった。
といっても、東洋人を人間扱いしていなかった奴らの中をのし上がるのは正直不可能であった。故に、人形を配した。それが教主リエルじゃ。
リエルは純朴な宣教師であった。それ故その純粋な行動の裏で行われておることを教えると憤り。内部よりよき方向へ改革するべきと諭すと目を輝かせておった。
その後は簡単であった。隠密としての情報操作や魔術師としての勢力取り込み、権力争いのライバル暗殺など……中々良い思い出であった。
その【かつて】純朴であったリエルも……いつしか権力で黒く染まってしまった。
儂はその黒く染まって取り返しのつかなくなったリエルからの手紙に視線を落とす。
はぁ、と深いため息を落とし手紙の封を開けると荒唐無稽な計画が書かれておった。
『獣王国を混乱させよ。これより1カ月にてグルンドから英雄と賢者を排し、魔王国、竜国とのいさかいを再度巻き起こし、西大陸にて未曾有の戦火を起す』
要約するとそんな感じであった。
確かに今この地方の平和な現状の基盤は英雄と賢者による力のバランスと、彼の英雄とその部下たちが争いの元である食料や経済問題を解消し、生活を向上させ『戦争? そんなことする暇はない』と言う状況を作り出している。故にその平和の大本たる2人をなんとかできれば確かに混乱を生むであろう。混乱と戦火はまたとない布教の機会である。そしてリエルが起こした国にとっても拡大のチャンスであろう。リエルの国は大国魔王国に隣接することもあり魔王国の存在が周辺国へ牽制ともなり各国戦争を控えている。
……そこで英雄と賢者が居なくなる。獣王国魔王国を繋ぎ平和のくびきとなっていた人物を配したのが……きっと魔王国の何者かをそそのかし、依然同様に獣王国から魔王国への疑念が生むのだろう。西部の政治・軍事的な安定をもたらした大国魔王国と大国獣王国。その2か国が再び戦火を交えれば……確かに混乱を収める者が居なる。戦争は長期化へと発展するだろう。そして時間経過とともに魔王国・獣王国ともに引くことができなくなるであろう……。前回のように……。
……阿呆らしい。
全く、いつからあやつはこのような阿呆になったのであろうか。
人間は、このようにな、のんべんだらりと最低限の仕事をしつつ生きていけること、それが最高の幸せであるのだ。お主のように権力に虜にされ、失うことを恐れ、強迫観念に突き動かされ、良し悪しもわからなくなるのは……不幸というのだぞ……。
儂はかつての純朴な青年を思い浮かべつつも、仕方なしといった具合に行動を開始する。
「エルルちゃん、おはよう! 今日も可愛いね!」
「おはようございます! えへへ、ありがとー」
「本当にエルルちゃんは12歳とは思えないぐらいに小さくてかわいいわね」
「うー、小さくないもん! これから成長するもん! わーって背も伸びるもん!」
「「あははは、そうだね」」
儂の前に獣人夫婦が慈愛のまなざしを浮かべながら朗らかに笑っておる。
……い、いや。ちっちがうのだ。儂はそもそも40才半ばの正に重鎮と呼ぶにふさわしい風格を備えた男であったのだ。それが、先日実験と称して行った点実験時に何かに引っかかる感覚があったかと思うとこの姿……獣人の幼子になっておったのだ。
……そういった趣味ではない!
断じてない!
しかもこの体成長せんのだ。
いや、成長されておなごらしくなった体など……うむ、いいかもしれぬ……はっ、そっそんなことはないぞ。
さて、こうして儂は街を駆ける。
何かしら行動せねば、ならんしのう……。奴らの計画が失敗し、計画が表ざたになった際に儂とその配下、純粋に宗教に傾倒する者たちを守らねばならぬからな。
ふぅ、やれやれじゃのう……。





