表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/78

第33羽   鳥、と穢れの結晶

 


 ――邪結晶。


 これで四度目だ、見間違いはしない。

 傍らには守護者のものだろう、1m程の大きさをしたドス黒い魔石が一つ落ちている。その魔石から怨念かの様な魔力が湧き上がり、あの禍々しい結晶体へと流れ込んでいることからもまず間違いない。


 守護者のくせに邪結晶の許を離れてまで襲撃を仕掛けて来たのはなぜだと思っていたが……そうか、そこにあったのか。奴の異常に膨れた腹、その内部。飲み込んだのか元々そうだったのかは分からないが、体内に邪結晶を所持していた、ということか。

 成程な、守護対象が体内に存在するならば、移動し放題という訳だ。


 ……ちっ、“守護者”を対象に指定したから邪結晶は残ってしまったのか。


 現在の魔力残量は一割以下、しかも零に近い。これでは浄化には全く足りないどころか聖炎の発動すら危ういぐらいだ。……守護者を完全に焼失させることを優先し過ぎたか。

 今思えば、蒼炎で斃し切れるかどうかを試してからでも良かった。過去三体の守護者を全て切り札で屠ってきたせいか、止めは全力でという思考に固まっていたな……。

 まあ、終わった事を言っていても仕方ない。しばらく休息して魔力が回復するのを待つか。


 邪結晶の傍へと降りることにする。


 っと忘れてた。[魔装・蒼天]を解除しなくては、魔力が回復しない。


 滞空行為を停止し、重力に任せて落ちていくと同時に魔装への魔力供給を停止。魔装は上空に残したまま、その場で大きめの火の粉を撒き散らす様にして徐々に解除させる。

 俺は全身を蒼炎で覆い、火の粉の一部の様に見せかけ、落下する。


 そのまま降下していき、地面が近付いたところで翼を動かし減速、フワリと着地。火の粉が自然と消えた様に見せて、[蒼炎刃]によって隆起した地面の陰へと隠れた。


 ……よし、皆の視線は蒼い火の粉を派手に撒き散らしている上空の魔装へと集中している。


 では少し休憩しますか。邪結晶の浄化には最大出力で聖炎を使用する必要があるからな。つまり、切り札を撃てるぐらいにまでは魔力を回復させなければならない。まあ、数分ってところか。


 何となく、邪結晶へと視線を向ける。


 ……相変わらず気味の悪い見た目と気配だ、……非常に気に喰わない、心の底から不愉快になる。

 こうしている間にも守護者の魔石から魔力を吸収しているが、止める手段は浄化しかない以上、今は待つしかないか。


 お、魔装が消えた。

 ……これで次は邪結晶に注目が集まってしまうな。

 浄化する時は適当に地面を爆発させて、砂煙による煙幕でも張ればいいか。


 上空からの蒼光が消えたことで、赤熱化した地面の放つ赤光が闇の中で際立つ。

 例の大穴は言わずもがな、[蒼炎刃]によって生じた地面の穴もその内部を赤く染め、草土の焼けた匂いが酷く漂っている。

 

 そんな中で、地から発される血の様な赤に照らされている邪結晶。

 ……まるで地獄のような光景だ。

 まあ、鬼が滅された地としてはお似合いかもな。


 そんな感想を抱きながらその場で休憩し、一分程が経過した頃だった。

 遠くで地を蹴る足音が聞こえ――


「――ノインッ!」


 その悲鳴の様な声と共に、頭上に光球を引き連れ、今にも泣き出しそうな形相で必死にこちらへと駆けて来る――って、ちょっ、アーリィ!? 何しに来たんだ?!

 

「アーリィ様ッ! 危険です、お待ちください!」


 アーリィを追い駆ける形ですぐにエリスさんもやって来た。


 ……しまった、魔力の回復と邪結晶への警戒に意識を集中させていたせいで『運命の絆』による感知を忘れていた。隠れていてもアーリィには丸分かりなんだ。


「ノインッ!」


 俺が居る場所へと一直線に走って来たアーリィが、そのまま倒れ込む様な勢いで俺を抱き締めた。

 ……俺のご主人様は相変わらずだな。

 

「良かった……良かった……生きてるっ……。お願いだから……ぐすっ、……心配っ、させないで……っ!」


 座り込み、嗚咽を漏らしながら、抱擁の力をより一層強めてきた。


 泣かせてしまったか……ごめんな、アーリィ。『運命の絆』があるのだから、俺が蒼炎に包まれて地面へと落下したことも分かるよな。そんな光景を見れば……力尽きたんじゃないかと思うよな。


「済みませんノインさん。アーリィ様を止めることができず……」


 仕方ないさ、こんな状態のアーリィを止めるのは難しいだろう。それに、あんな飛び出し方をしてしまった俺が悪い。だからエリスさん、そんな申し訳なさそうな顔をしないでくれ。


 ……魔力を消費するが、大した量でもない。言葉を話すことにしよう。


「アーリィ、エリスさん、心配させてしまって済まない。それとエリスさん、気にしないでくれ、悪いのは全部俺だ」

「……ノイン……」

「ノインさん……。とにかく、ご無事でなによりです」


 俺の言葉を聞いたからか、抱き締める力をより一層強めたご主人様。

 エリスさんは何かを言いたげだったが、今は聞かないでいてくれるようだ。


 さて、アーリィのケアを優先させたいところだが……そうもいかないか。

 ここには邪結晶がある。汚染魔石などとは比較にならない邪気なんだ、傍に居れば人体にどんな影響があるか分からない。

 二人をここから避難させ、遠ざけることを優先すべきだ。


 と思ったところで、エリスさんが邪結晶へと視線を向けた。


「……ところで、ノインさん。あれはもしや……邪結晶、なのですか……?」


 額に脂汗を掻き、険しい表情でそう尋ねてきたエリスさん。

 その言葉にアーリィもハッと顔を上げた。


「そうだよエリスさん、あれが邪結晶。見て分かる通りとても危険だ。だから今すぐここを離れてくれ、人体にどんな影響があるか分からない」

「……ノインも、一緒……だよね?」


 懇願する様な声と表情のアーリィ。


 ……ごめんな、邪結晶を放置する訳にはいかない。


「いや、まだ一緒には行けない」


 そう言ってアーリィの腕から抜け出した。

 抱えられたままでは何かあった時に対応できないからな。


 そんな俺を、唖然と見つめるアーリィ。


「なん、で……?」

「もう少し休んで魔力が回復し――、っ!?」


 くそっ、邪結晶が魔石の魔力を吸収し終わった!


「ノイン……?」

「ノインさん?」


 これから呪雲の素になる邪気を吐き出すはずだ。あれが二人にどう影響するか分からない、早く避難させなければ。


「二人共、説明している時間がない、すぐに避難してくれっ」


 しかしそう言い終わったと同時、怪しく発光した邪結晶が上空へと大量の邪気を吐き出した。


 くそっ、遅かったか!


 二人を守る様にして身構えた俺。

 だが幸いにも、邪気はそのままゆったりとした速度で上空へと昇って行く。


 ……よし、今まで通りだ。そのまま呪雲へと合流してくれれば…………ん?


 ……止まった?


 どういう事だ? そのまま呪雲へと合流するはずじゃ?

 ん……何だ? 宙に停止した邪気が……五つに纏まり……その形を変え……五本の闇槍が俺達へと降り注ぎ――不味いッ!?


「避けろおッ!!」

「っ?!」

「アーリィ様ッ!」


 槍の軌道から外れようと体を捻じった次の瞬間、風切り音を立てることもなく俺の脇を通り過ぎて地面へと突き刺さった闇の槍。その後、周囲へと滲む様にして消えていった。


 ――ギリギリだっ! 奇襲に近かったが何とか躱せた!


 二人を見ると、エリスさんがアーリィを押し倒すようにして地面に重なっていた。闇の槍が向かってきたのを認識した瞬間にエリスさんがアーリィに飛び付いて共に回避したらしい。


 だが、自分の上に重なっているエリスさんの苦悶の表情で、その負傷に気付いたアーリィ。


「っ!? エリスッ、脚が!」

「ぐうぅっ……私は、大丈夫ですっ。それよりもお怪我は?!」


 アーリィは無事だったが、エリスさんが右の腿を貫かれてしまったみたいだ。

 どうやら命に別状はなさそうだが……あれは重傷だ。再びあの攻撃に襲われたら不味い……!


 くそっ、邪結晶が攻撃だと?! 一体何が起こったんだ!?

 いや、それよりもまずはエリスさんの治療を――



 ――と、そこで違和感を感じた。



 何だ? 何か違和感がある。……何だ? 何かおかしい。……何かが違う?


 ……今、闇が五つに纏まり、五本の闇色の槍が降ってきて、俺達に一本ずつ…………――っ!


「まだ残りがっ――」


 俺がそれに気付き、二人へと警戒を呼び掛けようとした――その瞬間だった。



「っ、……がはっ……!」



 闇が、アーリィを貫いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ